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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第249話・新大陸は、いなり寿司の香り

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 フォンミューラー王国の玄関口である港町ハーバリオス。

 苦節、大体一か月、ついに新大陸に到着しました。
 と言いましても、ここはミャラーゼン諸島連合国家の中央王都のある国、大陸というほど大きくはないそうですけれど、それでも土地面積はハーバリオスの3倍はあるとかで。
 
「おおおお、これが新大陸の香り! この港町の雰囲気……あまりサライと変わらないように思われますけれど」
「はい、クレアさんもそう思いましたよね。ただ、波止場に停泊している帆船の数はサライよりもかなり多いように感じられますし、なによりもあのような巨大帆船は、サライには停泊する場所がありませんからね」

 ブルーウォーター号から降りながら、街の風景を眺めます。
 ほら、波止場の近くには大勢の客寄せの人たちが盛りだくさん。
 それに、乗客の中にいらっしゃった貴族の方を迎えに来ているらしい豪華馬車があちこちに見受けられますよ。

「さて、このあとはどうするんた? 護衛契約としては一週間、この街に滞在するつていうことになつているけれど」
「まずは宿ですよ、宿。ということで、地元に詳しいイブさんに宿の手配をお願いしようと思いますがも、いかがでしょうか?」

 私たちの後ろについてきたイブ・サンマルチノさんにそう話しかけますと、彼女はにっこりと笑っています。これは頼もしいです。

「構わないよ、ちょうどうちの店の裏手にある宿は、貴族でも安心して泊れるっていうぐらいそこそこ豪華で、しかも警備もしっかりしているからね」
「ほうほう、ということはつまり、商業ギルドのお墨付きで?」
「お墨付きかどうかはわからないなぁ、あっちの大陸の決まり事とこっちの諸島連合の決まり事って、意外と違う点があると思うよ」

 ふむ、つまり一度、商業ギルドに向かう必要があるということですか。

「それに、多分だけれどペット可能だと思うから、その子狐ちゃんも一緒で大丈夫だとおもうし」
『プスプスプスプス』

 私に抱っこされているキリコさんが、鼻を鳴らして抗議しています。
 あまり人前では話をしないように努めているらしく、私もそれには賛成です。
 人語を解する狐というだけで、物珍しいもの大好きな貴族に目を付けられてしまいますからね。

「まあまあ、では、ソーゴさんもそちらに向かいましょう!!」
「ああ、そうですね。では案内をお願いしますか? 俺も久しぶりに戻って来たので、ちっょと町の雰囲気が依然と歯違うように感じているのでね」

 クレアさんに手を引かれて、ソーゴさんが申し訳なさそうな顔をしています。
 そして通りを歩き小道に入り、ぐるっと大きな公園を回ってたどり着いたのは、小さな工房兼店舗の井部さんのお店です。

「その横道に入っていったら、一本向こうの大通りに出る。そうすればすぐ宿は見つかると思うよ、ちっょと待っててね、荷物を置いてきたら一緒に行って口利きしてあげるからさ」
「ありがとうございます。本当に、なんとお礼をいったらよいものか」
「いいっていいって。こっちも新作のバッグを作るための知識をいっぱい仕入れられたからさ」

 そんなこんなで高級宿を紹介してもらい私はクレアさんと同室で一部屋、ソーゴさんはその隣を一部屋借りることが出来ました。
 期間は一週間の連泊、そして一度だけ自炊をしたいとお願いして、別料金で厨房の一角も借りることに成功。

「さて、それではクレアさん、おいなりさんをつくりますよ!!」
「おいなりさん……って、このまえ、商神アゲ・イナリさまに奉納するといっていたやつですね。手作りですか?」
「ふっふーーん。実は、いなり寿司というものは自分でも作れるのですよ」

 ということで、取り出しましたる羽釜とお米。
 羽釜はサライの町で購入したもの、お米は【型録通販のシャーリィ】で購入したものです。
 サライの定宿のおかみさんに無理を言って教わったお米の炊飯、それを今こそ見せるときです。
 ちなみにおいなりさんの皮についてはシャーリィからの取り寄せ。それ以外にも『老舗の味、いなり寿司12選』というものも到着します。
 普段使いの【シャーリィの魔導書】には、実はこの商品はありません。
 ですが、実は裏技を使うことにより、いなり寿司を入手することができるのですよ。
 その裏技とはずばり、『グルメ・ギフトカタログ』。
 今月のおすすめの中にありましたこの商品、実は食べ物に特化したギフトカタログなのです。
 これを入手して、自分で頼めばよいのです、なんてお得なのでしょう。

「あ~、また店長が悪い顔をしている」
「ゴホン……いえいえ、悪い顔だなんて。では、さっそくおいなりさんを作りましょう。まずは、お米を炊きます」

 これは手早くとっとと火に掛けましょう。

「ハジメチョロチョロナカパッパ、アカゴナクテモフタトルナ、パイポパイポノシューリンガイ」
「何それ?」
「お米を炊くときの秘訣です。最初は強火の中火で、そして沸騰したら弱火で10分。あとは蓋を開けて水気がなくなっていたら火を止めて蒸らす。ということですよ」
「パイポパイポはなに?」
「さあ?」

 そこまでは知りませんけれど、とっととご飯を炊いてしまいます。
 そして火加減を地要請するためには、やはり正確なに時間を測ることが必要。
 ということでキッチンタイマーの出番ですよ。
 それで時間を設定して、あとは冷凍のおいなりさんの皮を袋ごと湯煎して、温めたら深皿にどばーーつと開けておきます。

「……店長、お鍋がぐつぐつといい始めたけれど?」
「では、火を弱火にしてください。私は味付けされたおいなりさんのかわを……あれ?」

 今しがた、お皿に開けたはずの稲荷の皮がありません。
 そして近くに座っていて口をモグモグさせているキリコさん、ここにあったお稲荷さんの皮を見ていませんか? 

「キリコさん、まさか食べましたか?」

 じっと目を見て尋ねますと、素直にコクコクと頷いています。
 
「ふう。正直でよろしいですけれど、これはアゲ・イナリさまに奉納するものです。数が足りないと怒らた場合、キリコさんがつまみ食いしたと報告しなくてはなりません」

 その言葉を聞いて理解したらしく、気まずそうな顔をしていますよ。

「まあ、今日は少し多めですので大丈夫です。でも、今度からはつまみ食いは禁止ですからね」
『だ、大丈夫、もう食べない、ごめんなさい』

 小声でそう呟くキリコさん。
 まあ、反省しているようですのでヨシです。

「店長~、次はどうするの?」
「はいはい、もう炊きあがるのですか。では、お米の確認を」

 羽釜の蓋を開けて、しゃもじでご飯を混ぜます。
 そして少しだけ取り出して、私とクレアさんとキリコさんでちょっと味見。

「うわ、すっごいふっくりと炊きあがっている!」
「こ、ここまでうまくいくとは思っていませんでしたけれど……ひょっとしてクレアさん、料理の加護とかお持ちですか?」
「んんん? お米を炊いているときの火加減に魔法を使っただけよ?」

 あ、それは狡いです。
 でもおいしく炊きあがっているからよし。
 この炊き立てご飯を大きめの鍋に移し、作って貰ったすし酢を合わせて混ぜます。
 さすがにこのレシピは教えてもらえませんでしたよ。
 でもまあ、しばらくは間に合うだろうということですし酢を4本、分けて貰いました。
 現物支給+αで作って貰ったということですけれどね。
 
「では、手を綺麗に洗って、いざ、詰込みです!!」

 口を開いたお稲荷さんの皮に、合わせた酢飯を詰めていきます。
 二人がかりでどんどん詰めていきますと、ふと、厨房の皆さんの視線に気が付きました。

「あ、あのよ、まさかとは思うけれど、それってひょっとして勇者丼に使う米じゃないのか?」
「すし酢っていう奴もあるのか? お嬢ちゃんの店で、これは売っているのか?」

 あ、ここは港町。
 そして勇者伝説はこの土地でも有名でしたか。

「はい、これはハーバリオス王国は港町サライの名物、勇者丼に使われているお米とすし酢です。ですが市筋は私たちの個人のものですから非売品ですし、お米も今は在庫が少ししかありませんので、ご了承ください」
「そっか、それじゃあ仕方がないなぁ……」

 うん、素直にあきらめて貰えましたよ。
 でも、ここで引いただけでは商売にはなりません。

「お米でしたら、少しお時間を頂ければ都合をつけることが出来るかもしれません。その際にはお声がけしますので」
「本当にか、それは助かるわ!」
「フェイール商店は、みなさんのご希望に添える商品をお届けできるように頑張っていますので」

 にっこりと営業スマイル。
 そして再び詰込み作業。
 おいしくなーれ、おいしくなーれと願いを込めて、フェイール商店の従業員一同で頑張って。
 120個のおいなりさんが、上手に出来ましたぁ。

「……作りすぎよね?」
「はい、すいません、やり過ぎました反省はしています」

 クレアさんのツッコミに頭を下げてから、私は出来立てのおいなりさんを保存容器に移し、アイテムボックスにしまいました。
 なお、120個のうち20個は、厨房を貸していただいた料理人のみなさんに差し入れです。
 また次も快く貸していただけますように。

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