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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

245話・しばしの別れと、イナリの加護と

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 納品も無事に終わり、ペルソナさんはソーゴさんと話があるとかで。

 という事で私たちは宿の一階にあるラウンジに移動して、久しぶりの再会を祝うことになりました。

「ふ~ん。それじゃあ、カーリーとラリーの二人は、メルカバリーに滞在しているのね? 二人は襲われなかったのね?」
「ええ、クレアさんがメルカバリーに戻るまでは、宿で待っているそうです。幸いなことに、シャトレーゼ伯爵が宿の長期手配を行なってくれましたので、宿代については心配はありません。あと……クリスティナ様たちが戻るまでは、伯爵の経営している商会で働くということになりました」

 ノワールさんから、カーリーさんとラリーさんの無事を聞いてクレアさんもほっと一安心。
 どうやら宿だけでなく仕事の手配も行ってくれたらしく、シャトレーゼ伯爵には感謝しかありません。

「クリムゾンさんたちも無事のようですから、私としてはホッとしましたよ。いきなり転移させられて、今はここですからね。それで、私たちを襲った魔族とやらは、何を考えているのでしょうか?」
「恐らくですが、魔王の復活にとって邪魔な存在……勇者の系譜をすべて根絶やしにしようと考えていたのでしょう。あのグリマルディの言い方ですと、まだ背後に大きな何かが暗躍しているようにも伺えますし」

 ふむふむ。
 つまり、私が危険であるということですよね。

「ちなみにですけど、ノワールさんはこのあとは私の護衛に復帰するのですよね?」
「……そうしたいのは山々なのですが。シャーリィさまから、私は当面の間はペルソナさまの補佐ということになりました」
「え?」

 あれ?
 ここで私と合流してから、あとはのんびりと3人で行商の旅にでられるかと思いましたけれど。
 
「そうなのですか?」
「ええ。精霊女王のエセリアルナイトである私は、この地ではかなりの制限を受けてしまいます。ここは海王神ネプトゥスの加護の地、精霊女王の力は祠及び神殿のある地以外では弱体化してしまいます」
「そ、そうなのですか……」

 ガーン、これはショックです。
 それでは、ここから先はソーゴさんの護衛でバンクーバーまで移動、そこからはどうするか考える必要がありますね。
 危険な地を無理に走り回る必要もありませんし、次の便でハーバリオスに帰るということも考慮した方が良いかも。

──コンコン
 そんなことを考えていますと、私の足元に一匹のモフモフが纏わりついています。ええ、高級な毛皮のような、コンコンと鳴いている存在が。

「あら? こんなところに子狐ですか。クリス店長、いつのまにペットの仕入れを?」
「しませんしません!! フェイール商店はペット用品は販売していますけれど、生き物の売買は行っていません。そもそも商業ギルドの許可も貰っていませんからね」

 そう告げながら、子狐をひょいと抱き上げます。
 すると私の頬をぺろぺろと舐めてくれるじゃありませんか。

「うわ、くすぐったいですよ」
『大丈夫!! ここからは私がクリスティナさまの護衛を務めますから!!』

 へ?

「あれ、今の声はノワールさんですか?」
「いえ、その子狐が発しました。ええ、どうしてここに、アゲ=イナリさまの眷属である化け狐がいるのか教えて欲しいのですが?」

 そう呟きつつ、ノワールさんが子狐の首元をひょいと掴んで持ち上げました。

『よっ!! アゲ=イナリさまにお願いされて、クリスティナ・フェイールさんとクレア・アイゼンボーグさんの護衛を務めることになりました。化け狐ではなく狐精、名前は……ええっと……』

 首の根本を掴まれてぶら下げられたまま、腕を組んで考え込む子狐。
 うん、これは可愛いからありです。

「クリスティナさま、今宵の晩御飯は狐鍋など如何でしょうか?」
『待って待って、思い出したから!! 狐精のキリコです、今後ともよろしくお願いします!』
「へぇ、キリコさんですか。よろしくお願いします」
「……ねぇ店長、さっきから、私たちの目の前に人語を話す狐がいるんだけれど、これ、売った方が儲からない?」
『ひぃぃぃぃぃぃ』

 キリコのお腹をツンツンと突きつつ、クレアさんが物騒なことを話しています。

「それに、アゲ=イナリさまの眷属で護衛って話していたわよね? それってどういうことなの? ちょっとキリコさん、そのあたりの説明がなっていないわよ?」
『はぁ、それもそうですね。簡単に説明しますと、精霊女王であるシャーリィさまの次男であるペルソナさまの奥方候補であらせられるクリスティナ・フェイールさまの身を案じ、我が主人であるアゲ=イナリさまがお稲荷さん100個で私を使わせた次第であります。初代勇者の一人、カナン・アーレストさまのエセリアルナイトでは、この海王神の地での護衛は難しく。皆様の安全を保証するためにも、私が護衛としてやってきた次第でありおりはべりいまそがり~と』
「……」

 あ、クレアさんが目頭に指を当てて下を向きましたよ。

「情報量が多すぎるわよ……」
「そ、そうですよ、そもそもペルソナさんが精霊女王さまの次男ってどういうことですか! それに奥方候補って!!」
『あれれ? 何か間違っていますか? 私はアゲ=イナリさまからそう仰せつかってきましたが』
「ま、まだ告白もしていないしそうじゃないわ、えーっとえーっと、そう、まだ私は若いのよ、そらにペルソナさんだって私みたいな小娘を……」

 あ~焦るな私、落ち着け私。
 感情のままに言葉を発したら、ますます語るに落ちますわ。
 ここは落ち着いて紅茶を一杯、そう、アイテムボックスからティーセットとショートケーキを取り出して。

「さて、そろそろ帰還の時間ですので、私はこれで失礼します」

 ノワールさんが名残惜しそうに立ち上がりますが、私は思わず彼女の制服の裾を掴んでしまいました。

「……また会えますよね?」
「クリスティナさまがバーバラオスに戻った際には、再びお使えできますのでご安心ください。それよりも、ここから先は、クリスティナさまにとっては未知の世界。私の身を案ずることよりも、まずは商人としての務めを果たしてください」

 優しくそう呟くノワールさん。
 その言葉は卑怯ですよ。
 前に進むしか道がないではないですか。
 
「はい。それじゃあ、商人としての務めを果たします。色々と学んで、商人として大きくなってから帰りますので」
『バンクーバーには精霊女王の教会もあるから、ノワールさんも護衛に戻れると思いますけどね~』
「「え?」」

 キリコさんの爆弾宣言。
 それを先に言ってください!!

「クリスティナさま、一度戻ってシャーリィさまの許可を得て参ります!」
「はい、それでは~」

 全力ダッシュで外に飛び出すノワールさん。
 うん、これでバンクーバーでの護衛に戻れれば、今までと同じですね。
 そして気がつくと、私たちのテーブルを眺めて物欲しそうにしている人々があちこちに。
 流石に話し中だったので声をかけてくるようなことはありませんが、どの人も商人のようないでたちじゃありませんか。
 
「はぁ。クレアさん、臨時でフェイール商店を開きます。場所はここ、宿の主人に許可をもらってきてくれませんか?」
「そうなるわよね……行ってくるわ」

 やっぱり、私たちって目立つのですね。
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