型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第244話・徐々に奇妙な三角関係?

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 クリスティナたちが馬車を離れ、宿へと入っていったのち。
 ペルソナは近くで立っていたソーゴを手招きする。

「さて、それでは色々とお話を聞かせて貰ってよろしいですか? 勇者の末裔さん」

 そう告げられ、ソーゴはやれやれと困った顔をしながらペルソナの近くへと近寄っていく。
 ちなみにペルソナの立ち位置はエセリアル馬車の御者台の横、最も認識阻害の効果を発揮する場所であるのだが、ソーゴには効果が無かったようで、ボリボリと頬を掻きつつ近寄ってきた。

「勇者の末裔……ねぇ。確かにうちの実家には、そんな話が伝わっているんだけれどさ。もう初代勇者が魔王を封印してから300年だぞ? いくらなんでも勇者の末裔っていうほどの血筋は残っていないんじゃないか?」
「そうですねぇ……普通なら、代を重ねるごとに血の力は弱くなっていきますし、彼らの持っていた力も失われつつあるのが定説です。ですが、クリスティナさんのように初代勇者の一人、大魔導師カナン・アーレストの血ではなく【魂の技術】の継承者なら、ある日突然、大覚醒することもあるのですけれどねぇ……それで、貴方は一体なにものですか?」

 淡々と呟くペルソナの言葉を、ソーゴは黙って聞いていたのだが。
 最後の方は口調が粗くなっていたので、観念して口を開いた。

「そうさなぁ……旅商人のソーゴといっても信用されていないようだからなぁ……それに、あんたは精霊人だろう? そしてフェイールさんに異世界の商品を届けている商人。まあ、ここだけの話だっていうのなら、あんたには教えてやるさ」

 そう呟いてから、ソーゴは腰に下げている細身のレイピアを手に取ると、それをペルソナに手渡す。

「……装飾されたレイピアではなく、黒真珠に魔法の加護が付与されていると……そして真珠に刻まれている紋様は……ああ、なるほどねぇ」

 黒真珠に魔力を込めるペルソナ。
 すると真珠がボウッと淡く輝き、そこに紋章が浮かび上がった。

「わかったかな?」
「ええ、旅商人ソーゴ……いえ、ライオネル・ベルーナ・ミュラーゼンですか。確かミュラーゼン連合王国の第三王子だったとお見受けしますが?」

 そう問い返すペルソナに、ソーゴはニイッと笑う。

「王位継承のごたごたに巻き込まれたくなくて、諸国を漫遊しているぼんくら王子だ。色々とあってハーバリオスに移動していたんだけれど、ちょいと気が変わって王位継承戦に舞い戻るために帰って来ただけだ」
「はぁ。それでずっと正体を隠していたということですか。まあ、私としては、クリスティナさんに危害が無いのでしたら別に構いませんよ。幸いなことに、アゲ・イナリさまの加護で護衛も増えているようですし」

 ちらりと宿の方を見るペルソナ。 
 だが、そのそぶりを見てソーゴは一言。

「危害を加えるつもりはない。いや、あの子とは何度か旅先であったことがあるし、面白い商人だなぁとは思っていたんだけれどな。本当なら、今回の帰国は王位継承戦から正式に手を引くっていう話をしに戻って来たんだけれど、久しぶりに彼女に会って、気が変わったんだわ」

──ギリッ
 ペルソナが苦虫を潰したような顔になる。
 その表情を見て、ソーゴは逆にニイッと歯をむき出しにして笑った。

「王位継承戦の参加資格、それは王妃となる女性を伴っての宣誓か必要だ。だから、俺はクリスティナ・フェイールを妃候補として親父に紹介する」
「ふざけるな!」

 グイっとソーゴの胸元を掴み力いっぱい引き付けるペルソナ。
 
「彼女の……フェイールさんには、その話をしたのか?」
「いや、まだだな。でも、今日からは一緒の船に乗って移動する予定だし、ミュラーゼンの港町バンクーバーまでは護衛を頼まれている。ということは、彼女とは色々と話をしたりお近づきになるチャンスはあるっていうことだが。それよりも、どうしてあんたがそんなに向になるんだ?」

 そう呟きつつ、ソーゴはペルソナの手を掴んで払い落とす。
 そしてペルソナは、ぐっと拳を握ったのち。

「彼女を幸せにするのは俺だ!! 俺は彼女を愛している!!」

 きっぱりと叫ぶ。
 だが、ソーゴはそれを聞いてもなお、にやにやと笑っている。

「それじゃあ勝負だな。俺とあんた、どっちが彼女のハートを射止めることが出来るのか……」
「なんだと」
「だからさ。俺は彼女のことが好きになりつつある。そしてあんたは彼女を愛している。だけど、最後に選ぶのはあの子だ。まあ、ここは紳士協定と行こうじゃないか、俺から彼女に手をだす事はしないが、彼女から求められたときは素直に従わせてもらう。ということだ、だからあんたもせいぜいがんばりな」

 そう告げて、ソーゴは高らかに笑いつつ御者台をあとにする。

「なんだってこう……クリスティナさんは男運がないというか……いや、彼女の持つなにかに、皆、惹きつけられているのでしょうか……兄さんといい、あのソーゴといい……本当に、面倒なことになってきましたよ」
 
 そう呟くと、ペルソナは御者台に飛び乗り、ノアールたちが戻ってくるのをじっと待っていた。
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