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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第241話・やはり、おいなりさんは必須でしたか

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 海王神ネプトゥス教会にて、私は久しぶりにシャーリィ様のお声をいただきました。

 そして現状の報告と、型録通販のシャーリィの事についての説明を受け、当面はやや不便ではあるものの、【型録通販のシャーリィ】は使えるということになりました。
 精霊女王の加護が薄い土地ゆえ、それは仕方のないこと。
 寧ろ、週に一度の配達でも嬉しい限りなのです。
 恐らくは発注書をフル活用しての買い溜めが暫く続くかと思いますが、商売人としてはシャーリィ以外の商品にも目を向けなくてはなりませんと、改めて気合を入れたところです。

『ふうん……そんで、うちに供えるお稲荷さんを忘れている件については、無かったことにはできへんで?』
「は、はい!! それにつきましては、明日の朝には商品が届きますので急ぎ用意して納品……お供えさせていただきますので、何卒ご理解いただけると幸いです」

 はい、商神アゲ・イナリさまの彫像の前で土下座です。
 シャーリィさまとの交神ののち、アゲ・イナリさまにもご報告をと思いましたが、まさかの説教からスタートとは予想外でした。

『それにな? うちは商神、つまり商人にとっての守護神でもあるんや? それをこない粗末に扱って……バチ当たるで、ほんまに!』
「はい、今一度、心を改めてお祈り差し上げますので」
『ほな、クリスティナ・フェイールの商店、フェイール商店の守護神はウチで決定やな?』

 おっと、神様同士の縄張り争いですか?

「いえ、フェイール商店並びに私の守護神は精霊女王のシャーリィさまです。ここは譲れません」
『う~ん、堅いなぁ。なんというか、もう少し柔軟な考え方でも構わんとうちは思うがなぁ……そもそも、今、クリスティナの在る大陸では、精霊の力は弱いっていうのは理解しているやろ? それに対して、うちは商人さえおるのなら力は弱まることはない。どや? 仮にでもうちと契約せんか?』
「契約?」

 神との契約なんて、初めて聞きました。
 でも、守護神であるシャーリィさまとの契約もまだなのに、いきなりアゲ・イナリさまと契約することはできませんよ。

『はぁ……なにかクリスティナが困っている波長を感じたと思いましたら、まさかアゲ・イナリがちょっかいをかけているとは』
『ゲェッ!! シャーリィ! いや、ほら、この大陸でクリスティナを護るためにはな? うちの加護の方が有難いと思わんか?』

 あ~。
 私の頭の中で、二つの神が喧嘩を始めましたよ。

『それにですね、クリスティナはすでに私と契約を終えていますよ? 【シャーリィの魔導書】の加護は、契約なくては得られませんからね』
「え、あ、そ、そうですよ、私はシャーリィさまと契約をしています!」

 そうですよ、型録通販のシャーリィとは契約しているのですから。

『ふぅん。そんじゃ、うちはフェイール商店の祭神でええわ。それなら、うちの加護を通じて、シャーリィの力も多少は増えるんと違うか?』
『ぐっ……そ、そうですわね。確かにあなたの加護を通じて、私の力をそこの大陸でもより強く使えるようにはなるかと思いますけれど……』
『ほな、決定やな。クリスティナ・フェイールよ、【シャーリィの魔導書】をうちの彫像に掲げてや』

 え、あの、神様会議が終わったのは構いませんけれど、私としてはなにがなにやら。
 そう思いつつも、アゲ・イナリさまの言葉に従い、魔導書を掲げますと。

──ブゥン!
 シャーリィの魔導書が輝きます。
 それはもう、教会全域に広がるように虹色の光を放ちながら。
 やがて光が収まったので、慌てて魔導書を確認します。

『ほな、頑張ってや~。明日の朝、お稲荷さんのお供えを忘れないようにしてや~や~ゃ~ゃ~』

 あ、声がフェードアウトしていきます。
 
「それにしても、どんな加護が授かったのでしょう……ってあれ?」

 魔導書の裏表紙。
 そこ一面に、巨大なアゲ・イナリの紋章が浮かび上がっています。
 可愛い狐の姿をあしらった紋章、しかも金色に輝いていますよ。
 周りの商人や先ほどの光に驚いて駆けつけてきた教会の人々も、私の持つ魔導書を見て喉を鳴らしています。

「あ、アゲ・イナリさまの幸福印……商売繁盛の最高峰……お嬢さん、その魔導書を売ってくれ!!」
「貴様、抜け駆けをするな! さあお嬢さん、私はこの街で商いを行なっているグレイファントムと申します。もし宜しければ、そちらの魔導書を買い取りたいのですが」

 などなど、次々と私の魔導書を顔取りたいという人たちで溢れかえってきましたので。

──シュンッ
 大急ぎで魔導書を指輪に収納すると、人混みを避けて全力で教会を後にします。ええ、これ以上の混乱を招かないためにも、今日は宿に閉じ籠るしかありません。

「て、店長!! ちょっと待ってください」
「フェイールさん、早い早い、速すぎますって」

 後ろからクレアさんとソーゴさんが駆けつけてきました。
 さらに後ろからは、諦めきれない商人たちが走ってくるようなので更に加速開始。
 でも、私ってこんなに足がか早かったでしょうか?
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