上 下
130 / 279
第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第182話・貴族に会ってみよう

しおりを挟む
 無事にバレンタインという異世界のイベントを終え。
 私たちを乗せた馬車はロシマカープ王国王都へと向かっていました。

 道中は色々な問題もありましたけれど、予定通りに一週間後には無事にロシマカープ王国王都のマツダズームへ到着しました。
 ええ、途中いくつかの国を中継して、道なき道をひたすら走り続ける日々。
 アイテムボックス内の整理をしているとバレンタインの時に箱に入れるはずだったメッセージカードが出てきた挙句、私にとっては禁句でもある告白メッセージの書き込んだカードがなくなっていたり、まさか柚月さんのたくらみかと疑いそうになりましたけれど私のアイテムボックスから出てきたので私のミスであったことが発覚したり。
 穴があったら入りたいです、穴を掘らせてください。
 花咲く乙女は庭に出て、一生懸命穴を掘らないとならないのですよ……。
 
「はわわわ……こ、この次にベルソナさんに会ったら、どんな顔で対応したらよいのですか……」
「にしし……朝便でクラウンさんに配達を依頼するといいし。そのうちほとぼりが冷めるから、それまでの辛抱だし」
「はふぅ……そうですよね。ま、まあ、仕事としての付き合いはまた別ですから、少しだけ様子を見てからまたいつものように接すればいいのですよね」

 そうです、一流の商人たるもの、仕事とプライベートは切り分けなくてはなりません。
 そんなことを柚月さんと話しつつ、馬車はエセリアルモードを解除して王都正門で入国手続きを。
 商業ギルド発行の身分証がありますので、入国税を人数分収めたのち、どうどうと正門を通過。

――フワァァァァァッ
 正門から中は、街道沿いに真っ赤なレンガの建物が立ち並んでいます。
 その赤い色に降り積もる白い雪。
 そして通りを彩る、様々な色彩の飾り旗バナーや馬車の数々。
 まさに、ヤジーマ連邦王国最大の王国にして、商業の中心地。
 道行く人たちも、それはもう笑顔に満ち溢れていましたよ。

「さてと。それじゃあ、さっそくだけれど商業ギルドに向かってもらえるかしら? 先に大バザールの店舗状況の確認と、仮押さえだけでもしておきたいからね」
「仮押さえって、そのようなことができるのですか?」
「う~ん、ダメもとでお願いしてみるわ。この王都にもボリマクール商会の支店はあるから、まあ、他の国よりもかなり小さいけれど、それなりに顔は利くから安心なさい」
「はい。よろしくお願いします」

 そのまま町の景色を眺めっつ、馬車は一路、商業ギルドへ。
 正門からじつに20分ほど走った先、商業区と呼ばれる区画の真ん中に、巨大な商業ギルドの建物がありました。
 そして馬車を出て、そのままエセリアルモードにして指輪の中に格納しますと、ボリマクールさんに案内されるがままにギルドの中へと向かいます。

「これは、ボリマクールさま。ご無沙汰しています」
「ええ。本当に久しぶりね。年に一度ぐらいしかここには来られないから、私の顔なんて忘れられちゃったと思っていたわよ」
「あはは。私たちがボリマクールさまを忘れるはずがないじゃないですか。それで、本日はどのような商品をお持ちになっていただけたのでしょうか」
「いえいえ、今日来たのはね。大バザールに彼女の商店を出してほしいと思ってね。それで、場所の仮押さえは効くかしら? 一応、キヌガッサのギルドマスターの紹介状は持ってきているし、この後はイマイ子爵のところに向かって、正式な紹介状も書いてもらう予定なのよ」

 淡々とギルドカウンターで話を進めるボリマクールさん。
 私のような小娘の言葉だと、信頼度はなかったかもしれません。
 けれど、ボリマクールさんが話を進めていていくるので、本当に助かります。

「フェイールさん、ギルドカードと紹介状を出してもらえるかしら?」
「はい、こちらがわたくしの、フェイール商店の登録証です。そしてこちらが、キヌガッサ王国のギルドマスターの紹介状です」
「はい。それでは確認のため、少々お時間をいただきます」

 臆することなく、どうどうと受付の方に登録証と紹介状をお渡しします。
 すると、それを持ってカウンターを離れていきました。

「さてと。それじゃあ後ろのテーブルで待っていることにしましょうかね。そこのテーブルは、商人同士が取引や雑談をするために解放されている場所なのよ。それで、話がある程度まとまりそうになったら、二階の個室に移るっていうわけ……ささ、柚月さんもノワールさんも、一緒にお茶でもしましょう」
「了解だし……それにしても本当に大きい場所だし。高校の校舎ぐらいあるし、でも、外見的には体育館だし」
「よく分かりませんが、とにかく大きいということですね。さ、クリスティナさまもこちらへ」
「は、はい」

 もう、なにもかも規模が大きすぎて、どうしたものかと。
 でも、建物の大きさについてはパルフェノンの商業ギルドよりも大きいのは事実です。
 まさかこれほどのものとは思っていませんでしたよ。

「それじゃあ、私がお茶を用意するので、クリスティナさんはお茶菓子をなにか見繕ってくれるかしら? お金は払うから、おいしいものをお願いね……」

 そう告げてから、ボリマクールさんが席を立って、どこかに行ってしまいました。
 
「おいしいものを見繕うといわれましても……ノワールさん、このあたりの王国でよく飲まれているものは、ハーブティーでしょうか?」
「いえ、このあたりではハーブはそれほど育たないのですよ。他の王国よりも高地であること、夏季と冬季の寒暖差が激しいこと、そして雪に強いハーブは殆ど存在しないということですので。このヤジーマ連邦あたりですと、よく飲まれますのはコルフィコーヒーですね。蜂蜜と山斑牛のミルクを混ぜるのが普通です」
「うん、聞いているだけで口の中が甘くなりそうなので、さっぱりとしたお茶菓子を……買い置きにありましたかどうか、怪しいところですけど……と、これかな?」

 アイテムボックスから取り出しましたのは、全国取り寄せグルメのページで見かけた、【マカロンラスク】という食べ物です。
 赤、白、黄色、こげ茶いろ、緑色とから不利な色合いの菓子でして、定番商品としていつでも帰るようになっているのですよ。
 まあ、効果であること、甘くておいしてけれど腹持ちが良くないこと、そしてなによりも小さすぎで満足するには量を食べないとならないということで、実は結構在庫が多かったりします。
 今取り出したのも、小さな箱に12個だけ入っていて、銀貨二枚ですからね。

「あ、銀座デリーユのマカロンラスクだし。へえ、こんなものもあったのか」
「ええ。結構前にまとめて買ったのですが、高くて少量なので人気がなかったのですよ。ということで、ここは奮発して出してみました」
「お待たせしました……って、あら、ずいぶんときれいなお菓子ね。これもフェイール商店の取り扱い商品なのかしら?」
「はい。在庫が結構だぶついていますので、融通できますよ」
「それじゃあ、少しだけティータイムを楽しむことにしましょう」

 ボリマクールさんが持ってきてくれた甘いコルフィと、私が用意したマカロンクッキー。
 これがまた、絶妙においしくてですね、相性も抜群です。
 一箱12個入だったのに、気が付くと二はコメに手が伸びていました。
 
 そして私たちのティーパーティーに気が付いた商人さんたちが、興味深々でこちらを見始めた時。

「フェイール商店のクリスティナさま。ボリマクール商会のボリマクールさまギルドマスターがおよびですので、こちらへどうぞ」
「あら、早かったわね。それじゃあ行きましょうか」
「はい。ええっとここを片付けてから」
「大丈夫よ、職員さんが片付けてくれるわ。これも仕事だからね」

 ちょうどやって来た職員さんに、ボリマクールさんが話しかけます。
 すると、にっこりと笑って。

「ええ。ここは商人の皆さんがわずらわしさを忘れ、一息つくための場所でもあります。片づけは私たちが行いますので」
「はい……と、それじゃあ、こちらをどうぞ。あとで食べてください」

 残ったマカロンクッキー6つを手渡して軽く頭を下げてから、私は先に歩いて行ったボリマクールさんの方に向かいました。そしてふと、ボリマクールさんが座っていたテーブルの前に銀貨が一枚、置いてあるのにも気が付きましたよ。

「心付けだし。うん、ボリマクールさんは、日本人の心を持っているし」
「うーんと。それって」
「やさしさというか、気配りができるひとだし。と、早くいくし」

 そうそう、まずは大バザールの場所を借りるための話し合いですよ。
 まずはスタートラインに立つところまで話を進めなくてはなりませんからね。
 
しおりを挟む
感想 652

あなたにおすすめの小説

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな

こうやさい
ファンタジー
 わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。  これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。  義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。  とりあえずお兄さま頑張れ。  PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。  やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚
ファンタジー
 それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。  ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。  俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。  ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。  しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!   神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。  ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。 『オンラインゲームのアバターに変化する能力』 『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』  アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。 ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。  終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。  それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。 「神様、【魂の修練】って一体何?」  そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。  しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。  おいおい、これからどうなるんだ俺達。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。