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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第178話・はい、プロジェクト紹介状スタートです。 

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 黙々と。
 焼肉パーティーは続いています。
 気のせいか、一週間ほど食べ続けてあるような気もしますが、気のせいでしょう。

──ハフハフハフハフ
 熱々のお肉をほうばるサブマスターさんや、おむすび片手に焼き葱とかキノコを食べているボリマクールさん。
 時折、外から絶叫のようなものが聞こえてきますが、それは気のせいということで。

(お~い、それは売ってくれないのか~)
(フェイールさ~ん、俺たちにも食べさせてくださいよ~)

 ええっと。
 閉店の札は立ててありますので、聞こえないことにします。
 これで仕方がないなぁと売り始めたら、それこそ止めどなくお客が溢れてきますからね。

「はぁ。本当にクリスティナさんの用意する料理って、美味しいわよねぇ。先日納品してもらった商品といい、あの貴重なお酒といい……是非とも、うちと提携を組んで欲しいわよ」
「私と提携?」
「ええ。商会ってね、自分の店舗では伝手がない商品を手に入れるのに、他の商会と手を組むことがあるのよ。ほら、貴方のお父様のアーレスト商会も、一時期はうちと提携していたのよ?」
「はぁ……まあ、アーレスト商会なら、かなりの商会と手を組んでいましたから。でも、そのほとんどがアーレスト商会の持つ『勇者御用達』に一枚噛みたいっていう商会ばかりですよ?」

 淡々と説明します。
 まあ、私も事務その他で色々と学ばせてもらっていましたから、その辺りについては多少は詳しいです。
 十大商会の半分近くと手を組んでいましたから、間違いはありません。

「ええ。うちも一時期だけ手を組んでいましたけど、ほら、アーレスト商会が王都から北方の自領に下がったじゃない? その時に代替わりして……そう、グラントリとかいう若造くんが取り仕切ってからは、どうもパッとしなくてね。だから、うちからお断りを入れたのよ」
「あらら、グラントリ兄様がそんなことになっているとは」

 これは初めて聞いた情報です。
 暫く実家にも顔を出していなかったので、そのあたりの情報は回ってきていませんから。
 これは一仕事終えてから、一度、アーレスト領にも顔を出した方が良いかもしれませんね。
 
「まあ、自領でのんびりと商売をしているようだけど、やっぱりお家再興のためにかなり無茶な取引とかもしているようよ」
「まあ、その辺りはグラントリ兄様にお任せしますよ……私は、アーレスト家とは何の関係もありませんから」

 闇の精霊に唆されていたとはいえ、私はアーレスト家を廃籍されています。
 これは覆しようがない事実ですし、今回、この北方に来たのも『契約の精霊』にお願いして、王都払いの契約を解除してもらうためだけですから。

 私は、フェイール家のクリスティナです。

「……あの、ボリマクールさん……こちらのフェイールさんと随分仲が良いようですが、提携店とかそんな感じなのですか?」

 そうサブマスターさんがボリマクールさんに問いかけています。
 どうやら私たちの話を聞いて、関係性がどのようなものなのか気になったのでしょう。

「いえいえ。提携はしていませんわよ。そうね、仲のいい商人同士っていうところかしら?」
「ほほう。実はですね、フェイール商店の商品について、我が国の貴族家から取引依頼があるのですが、ボリマクール商会で中継ぎをしてくれませんか? フェイールさんはギルドになかなか商品をおろしてくれませんので」
「あら、そうなの……といっても、私も商人同士の約束を違えたりしたくはないし、私が仕入れたものをギルドに卸すのは筋がちがうわよね?」

 はい、その通りです。
 ボリマクールさんだからこそ、安心して多めに卸しているのですからね。
 それを寄越せだなんてとんでも無い。

「とほほ……そうですよね。いえ、ダメ元で話しただけですから……でも、この焼肉のセット、これだけは持ち帰って職員のみんなにも食べさせてあげたいですよ」
「そうね。確かにこれだけ美味しい思いを独り占めしたら、ギルドに戻ったら恨まれるわよねぇ…。クリスティナさん、このタレはまだ有るのかしら?」
「狡い言い方ですよ、それは」

 さすがはボリマクールさん、役者がかった話し方でこちらに振ってきましたよ。これだから、ベテラン商人さんは侮れないのですよ。

「はぁ……降参です。まだ在庫はありますから、外に出さないこと、販売しないこと、自分たちだけで消費すること、これをお約束してくれるのなら少しだけ融通します」
「クリスティナさま、それならば、ギルドを通して大手商会の紹介状を発行してもらえるようにお願いするとよろしいかと」
「それが良いし!」

 敢えてサブマスターさんにも聞こえるように、ノワールさんが話してくれました。
 焼肉奉行の柚月さんも、これには同意してくれます。
 でも、焼肉奉行ってなんでしょう? 彼女曰く、鍋奉行の親戚だそうですが、その鍋奉行も知りません。

「そうですか……大バザールを借りるための大手商会の紹介状……と、ボリマクール様、一筆、お願いできますか?」
「あら? 私の紹介では無理じゃ無い? 私はこの国の商人では無いわよ? 支店はあるけれど殆ど任せっきりだから」
「ええ。ですから王都のボリマクール商会と懇意にしている貴族の方にお願いしてもらえればと」
「王都の貴族というと……うちに繋がっているのはイマイ子爵かしら? そうね、そういう事なら、私も王都まで行ってみようかしら? その方が話は早いわよ?」
「え、イマイ子爵?」

 はい、私の知らないところでトントン拍子に話が進み始めましたよ。
 そんなこんなでサブマスターとボリマクールさんで話し合いが始まり、私はそれを黙って聞いていることしかできません。
 だって、この国の貴族なんてツテも何もありませんから。

「という事なので、明日のお昼にでも王都へ向かいましょう? ヤジーマ連邦王国の中枢王国であるロシマ・カープ王国。フェイールさんは行ったことはないわよね?」
「はい。ボリマクールさんはロシマ・カープ王国にも支店があるのですか?」
「ええ。この東方諸国のたいていの国には、支店を持っているわよ。まあ本店はハーバリオスにあるので、私自身はハーバリオスでの活動の方が多いけれどね」

 なるほど。
 伊達にアーレスト商会と並ぶ十大商会ではありませんね。
 他国貿易に強いというのも納得です。

「明日のお昼……あの、もし宜しければ、ボリマクールさんも私の馬車で行きませんか? ちょっと特殊な馬車でして、かなり早く走れるのですよ」
「んんん? まあ、それでも構わないわよ。うちの馬車には後から到着しても構わないって伝えておくわ。でも、まさか一台だけ? 護衛……は、ああ、なるほどね。ノワールさんと勇者さんがご一緒なら、安全よね?」
「うちとノワっちとクリムっちが居るから、何が出ても大丈夫だし」
「そうですわね。ですから、ご安心ください」 

 うんうん。
 うちで働いてくれている皆さんは強いですよ。
 一番弱いのは私ですから。
 ということで、無事に焼肉セットを手にサブマスターさんもギルドに戻っていきましたし、ボリマクールさんも明日の出発のための準備をするそうなので、近所のボリマクール商会へ帰ることになりました。
 
 さて、外に集まってたむろしている人たちを、どうやって納得させるか、それが私の課題です。
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