上 下
126 / 272
第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第178話・はい、プロジェクト紹介状スタートです。 

しおりを挟む
 黙々と。
 焼肉パーティーは続いています。
 気のせいか、一週間ほど食べ続けてあるような気もしますが、気のせいでしょう。

──ハフハフハフハフ
 熱々のお肉をほうばるサブマスターさんや、おむすび片手に焼き葱とかキノコを食べているボリマクールさん。
 時折、外から絶叫のようなものが聞こえてきますが、それは気のせいということで。

(お~い、それは売ってくれないのか~)
(フェイールさ~ん、俺たちにも食べさせてくださいよ~)

 ええっと。
 閉店の札は立ててありますので、聞こえないことにします。
 これで仕方がないなぁと売り始めたら、それこそ止めどなくお客が溢れてきますからね。

「はぁ。本当にクリスティナさんの用意する料理って、美味しいわよねぇ。先日納品してもらった商品といい、あの貴重なお酒といい……是非とも、うちと提携を組んで欲しいわよ」
「私と提携?」
「ええ。商会ってね、自分の店舗では伝手がない商品を手に入れるのに、他の商会と手を組むことがあるのよ。ほら、貴方のお父様のアーレスト商会も、一時期はうちと提携していたのよ?」
「はぁ……まあ、アーレスト商会なら、かなりの商会と手を組んでいましたから。でも、そのほとんどがアーレスト商会の持つ『勇者御用達』に一枚噛みたいっていう商会ばかりですよ?」

 淡々と説明します。
 まあ、私も事務その他で色々と学ばせてもらっていましたから、その辺りについては多少は詳しいです。
 十大商会の半分近くと手を組んでいましたから、間違いはありません。

「ええ。うちも一時期だけ手を組んでいましたけど、ほら、アーレスト商会が王都から北方の自領に下がったじゃない? その時に代替わりして……そう、グラントリとかいう若造くんが取り仕切ってからは、どうもパッとしなくてね。だから、うちからお断りを入れたのよ」
「あらら、グラントリ兄様がそんなことになっているとは」

 これは初めて聞いた情報です。
 暫く実家にも顔を出していなかったので、そのあたりの情報は回ってきていませんから。
 これは一仕事終えてから、一度、アーレスト領にも顔を出した方が良いかもしれませんね。
 
「まあ、自領でのんびりと商売をしているようだけど、やっぱりお家再興のためにかなり無茶な取引とかもしているようよ」
「まあ、その辺りはグラントリ兄様にお任せしますよ……私は、アーレスト家とは何の関係もありませんから」

 闇の精霊に唆されていたとはいえ、私はアーレスト家を廃籍されています。
 これは覆しようがない事実ですし、今回、この北方に来たのも『契約の精霊』にお願いして、王都払いの契約を解除してもらうためだけですから。

 私は、フェイール家のクリスティナです。

「……あの、ボリマクールさん……こちらのフェイールさんと随分仲が良いようですが、提携店とかそんな感じなのですか?」

 そうサブマスターさんがボリマクールさんに問いかけています。
 どうやら私たちの話を聞いて、関係性がどのようなものなのか気になったのでしょう。

「いえいえ。提携はしていませんわよ。そうね、仲のいい商人同士っていうところかしら?」
「ほほう。実はですね、フェイール商店の商品について、我が国の貴族家から取引依頼があるのですが、ボリマクール商会で中継ぎをしてくれませんか? フェイールさんはギルドになかなか商品をおろしてくれませんので」
「あら、そうなの……といっても、私も商人同士の約束を違えたりしたくはないし、私が仕入れたものをギルドに卸すのは筋がちがうわよね?」

 はい、その通りです。
 ボリマクールさんだからこそ、安心して多めに卸しているのですからね。
 それを寄越せだなんてとんでも無い。

「とほほ……そうですよね。いえ、ダメ元で話しただけですから……でも、この焼肉のセット、これだけは持ち帰って職員のみんなにも食べさせてあげたいですよ」
「そうね。確かにこれだけ美味しい思いを独り占めしたら、ギルドに戻ったら恨まれるわよねぇ…。クリスティナさん、このタレはまだ有るのかしら?」
「狡い言い方ですよ、それは」

 さすがはボリマクールさん、役者がかった話し方でこちらに振ってきましたよ。これだから、ベテラン商人さんは侮れないのですよ。

「はぁ……降参です。まだ在庫はありますから、外に出さないこと、販売しないこと、自分たちだけで消費すること、これをお約束してくれるのなら少しだけ融通します」
「クリスティナさま、それならば、ギルドを通して大手商会の紹介状を発行してもらえるようにお願いするとよろしいかと」
「それが良いし!」

 敢えてサブマスターさんにも聞こえるように、ノワールさんが話してくれました。
 焼肉奉行の柚月さんも、これには同意してくれます。
 でも、焼肉奉行ってなんでしょう? 彼女曰く、鍋奉行の親戚だそうですが、その鍋奉行も知りません。

「そうですか……大バザールを借りるための大手商会の紹介状……と、ボリマクール様、一筆、お願いできますか?」
「あら? 私の紹介では無理じゃ無い? 私はこの国の商人では無いわよ? 支店はあるけれど殆ど任せっきりだから」
「ええ。ですから王都のボリマクール商会と懇意にしている貴族の方にお願いしてもらえればと」
「王都の貴族というと……うちに繋がっているのはイマイ子爵かしら? そうね、そういう事なら、私も王都まで行ってみようかしら? その方が話は早いわよ?」
「え、イマイ子爵?」

 はい、私の知らないところでトントン拍子に話が進み始めましたよ。
 そんなこんなでサブマスターとボリマクールさんで話し合いが始まり、私はそれを黙って聞いていることしかできません。
 だって、この国の貴族なんてツテも何もありませんから。

「という事なので、明日のお昼にでも王都へ向かいましょう? ヤジーマ連邦王国の中枢王国であるロシマ・カープ王国。フェイールさんは行ったことはないわよね?」
「はい。ボリマクールさんはロシマ・カープ王国にも支店があるのですか?」
「ええ。この東方諸国のたいていの国には、支店を持っているわよ。まあ本店はハーバリオスにあるので、私自身はハーバリオスでの活動の方が多いけれどね」

 なるほど。
 伊達にアーレスト商会と並ぶ十大商会ではありませんね。
 他国貿易に強いというのも納得です。

「明日のお昼……あの、もし宜しければ、ボリマクールさんも私の馬車で行きませんか? ちょっと特殊な馬車でして、かなり早く走れるのですよ」
「んんん? まあ、それでも構わないわよ。うちの馬車には後から到着しても構わないって伝えておくわ。でも、まさか一台だけ? 護衛……は、ああ、なるほどね。ノワールさんと勇者さんがご一緒なら、安全よね?」
「うちとノワっちとクリムっちが居るから、何が出ても大丈夫だし」
「そうですわね。ですから、ご安心ください」 

 うんうん。
 うちで働いてくれている皆さんは強いですよ。
 一番弱いのは私ですから。
 ということで、無事に焼肉セットを手にサブマスターさんもギルドに戻っていきましたし、ボリマクールさんも明日の出発のための準備をするそうなので、近所のボリマクール商会へ帰ることになりました。
 
 さて、外に集まってたむろしている人たちを、どうやって納得させるか、それが私の課題です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

婚約破棄はいいですが、あなた学院に届け出てる仕事と違いませんか?

来住野つかさ
恋愛
侯爵令嬢オリヴィア・マルティネスの現在の状況を端的に表すならば、絶体絶命と言える。何故なら今は王立学院卒業式の記念パーティの真っ最中。華々しいこの催しの中で、婚約者のシェルドン第三王子殿下に婚約破棄と断罪を言い渡されているからだ。 パン屋で働く苦学生・平民のミナを隣において、シェルドン殿下と側近候補達に断罪される段になって、オリヴィアは先手を打つ。「ミナさん、あなた学院に提出している『就業許可申請書』に書いた勤務内容に偽りがありますわよね?」―― よくある婚約破棄ものです。R15は保険です。あからさまな表現はないはずです。 ※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。