型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

文字の大きさ
上 下
118 / 287
第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第170話・比率に合わせた還元は当たり前ですよね?

しおりを挟む
 フォートレスタートルさんがゆっくりと立ち上がり、山の麓へ向かって進み始めたのを確認してから、私たちも超隊商エクソダスの待つ街道へと戻ります。
 そして私たちが到着するのを待っていた大勢の商人さんや他の隊商キャラバンの人たちの歓声に迎えられ、ようやくこの場所から移動できるようになったと感謝を伝えられました。

「それで、その、あの肉は全てフォートレスタートルが食べてしまったのか?」
「もしも残っているのなら、それを買い取りたいのだが」
「流石に私のアイテムボックスは時間緩和の効果も掛かってはいるが、ヤジーマ連邦までは鮮度を保てないからなぁ……」

 などなど、あちこちの商人さんから話しかけられましたけれど。
 当然、このような事態になることぐらいは想定済みです。

「いえいえ、余った分については代金は頂きません。その代わり、受け取った寄付金に合わせた比率で、サーロインは分配しますから少しお待ちください」
「「「「「「なんだって!!」」」」」

 はい、集まった皆さんの絶叫が聞こえます。
 
「そ、それはまた……そうか、比率等分するのか……ううむ」
「余ったのなら売ればよかったものを、正直すぎる商人は、あまり儲けられないぞ?」
「そ、そんなぁ……比率等分だって分かっていたら、もっと投資するべきだった」
「はいはい、ここは素直に待っているし。あとであーしたちが配りに行くから、今のうちに出発準備をするし」
「そういうことですので、後ほどお配りしますので少々お待ちください!」

 さあ、ここからは大忙しです。
 超隊商エクソダスの出発準備ができ、先頭からゆっくりと走り出しても私たちの場所のところまで順番が来るのは少し先。
 馬車が何十台も連なる超隊商エクソダスですから、準備だけでも大忙しのようですから。

………
……


「それで、この残りの肉を分けるのですね?」
「はい。比率を出しますので、少々お待ちを。ノワールさんはバナヤンの葉を用意しておいてください。柚月さんは、私が指定する分量にお肉を切り出してもらえますか?」
「畏まりました。では、わたくしはキッチンへ」
「わかったし!!」

 それでは、【世界樹の算盤】を取り出しまして、計算を開始します。
 かなり細かい計算になりそうですけれど、全て算盤に読み上げていくことで計算してくれます。
 あとは、お腹を測るだけ。

「……クリスっち、いつのまにキッチンスケールを買ってあったし?」
「細かいものまで測れると書いてありましたので。香辛料などを正確に測るのに必要かもと思いまして、オーウェンにいた時に購入したのですけど、それっきりアイテムボックスの中にしまってあったのですよ」

 試食用の食べ物を測ったりするのにも使ってましたので。
 ええ、デンチとかいう魔石みたいなものが必要なのは知っています。
 それもしっかりと購入してありますよ。
 これは非売品として私が使うためのものですので、欲しいと言われましてもお断りするようにしていますか。
 そんなこんなで一時間ほどで、サーロインのお裾分け分は全て切り出し完了。
 少しずつですがハムやベーコンもおつけして、バナヤンの葉で包んで紐で縛って完成です。

「それじゃあ、それぞれの包みには札が付いていますから、書いてある商人さんの元へ配達することにしまじゃ……お?」

──ガタン
 突然、エセリアル馬車が走り出しました。
 どうやら前の馬車も動き始めたようです。

「夜になったら、また休息を取ると思われますから。その時にでも配ることにしましょう」
「そうですね。では、これは一旦、私のアイテムボックスに納めておきます」

 折角ですが、配達は一旦保留。
 フォートレスタートルさんに道を塞がれていた時間を取り戻すべく、ほんの少しだけ早い速度で馬車は走ってます。 
 そして夕方には超隊商エクソダスも止まりましたので、サーロインのおすそ分けを配ることにしました。

 それはもう、とにかく熾烈な戦いでして。
 配った先から、他の商人さんが交渉を持ちかけていましたよ。
 私たち三人は分担して配達をしていたのですけれど、いつの間にか私の後ろには、商人さんたちがついてくるようになっていまして。
 そして配る先から、買取交渉を持ちかけたりしていまして。

「なあフェイールさん、もう在庫はないのか?」
「あれっぽっちじゃあ、俺たちの腹に入っておしまいなんだよ。ほら、も上手く街道も雪が積もり始めているだろ? これだけ寒いなら保存が効くんだよ」
「頼む。うちの商会が独占したいんだ、継続的に卸してくれないか?」

 などなど。
 商人さんにサーロインを渡します。
 ↓
 受け取った商人さんと、他の商人さんが交渉します。
 ↓
 取引の成立、不成立に関わらず私との交渉が始まります。
 ↓
 お断りして、次の方のところへ向かいます。

 以後、振り出しに戻る……うん、私のところがこれなのですから、柚月さんやノワールさんも大変そうですよね。
 ちなみに、クリムゾンさんが護衛に出て来てくれていますので、私の身の安全は保障されていますし。
 強面のクリムゾンさんが同行していますから、無理な交渉もなく一時間ほどで配達は全て完了。私たちはようやく、馬車に戻ることが出来ました。

「では、また指輪に戻りたいところじゃが。少しだけ腹ごしらえをさせてくれぬか? 久しぶりに日本酒と、先ほど配っていた肉を焼いて欲しいのじゃが」
「あら? 私も少し休みたいのですけど?」
「そうか。では、ノワールが指輪に戻ると良い。流石の黒神竜も寒さには弱いと見たが」
「え、ノワールさんは寒さは苦手なのですか?」

 思わず問いかけましたけど。
 なにやらノワールさんは、恥ずかしそうに頷いています。

「そもそも、冬山をテリトリーとしているスノードラゴン種でないと、私たちは冬山なんて生活の拠点にすることはないのです。種によって、得意な生活環境と不得意な生活環境があるのですから」
「そうなのですか。では、ノワールさん、ありがとうございました。ここからはクリムゾンさんに代わってもらってください」
「そうね。では、そうさせて貰います。まあ、何かありましたらすぐに駆けつけますので、ご安心ください」

──シュンッ
 一瞬でノワールさんが指輪の中に戻りました。
 それと入れ違いに、柚月さんがクリムゾンさん用の酒の肴というものを用意して、リビングに戻って来ましたよ。

「あれ? ノワっちは?」
「クリムゾンさんと交代ですよ」
「へぇ。それじゃあ、またよろしく頼むし」
「任せるのじゃよ。荒事なら得意じゃからな」
「うん、まあ、よろしく……あの、クリスっち、ブランシュはまだ帰ってこないし?」

 ん?
 ブランシュさんですか?
 
「確か、ヘスティア王国の配達担当とペルソナさんが教えてくれましたから。追加で配達員が増えない限り、暫くは戻ってこないかと」
「ふ、ふぅ~ん。そっか、そうか」

 あれれ?
 心なしか柚月さんが寂しそうですよ?

「そこ、あーしを見てニヤニヤしないし。それよりも、この調子で進むと、ヤジーマ連邦に着く頃には2月になるし。そうなると、また新しい商品のことも考えないとならないし」
「それだ、そうなのですよ。柚月さん、【バレンタイン】というのはなんですか? ほら、来月の期間限定品のコーナーが、【バレンタインギフトコーナー】って書いてあるのですよ。ここまで大々的なイベントとなりますと、フェイール商店も乗らないわけにはいきませんよ?」
「あ~。もうバレンタインだし。それじゃあ、バレンタインについて説明してあげるし……」

 そのまま今日は、柚月さんからバレンタインについての説明を受けました。
 なるほど、恋人たちの祭典でしたか。
 好きな人にチョコレートを贈る風習で、男性から贈るのもありと。
 それで、この大量のチョコレートギフトというページがあるのですね。
 いつものお菓子のコーナーではなく、ピンクのハートマークがあしらわれたラッピングが行われるのも特徴であると。

「……こ、これは流行りますよ!! 異世界の恋人たちのお祭り。愛しい方にチョコレートを贈って告白する。これはいけますよ!」
「うんうん。クリスっちもペルソナに贈るといいし」

──カァァァァァァァツ
「な、な、な、何故、ここでペルソナさんの名前が出るのですか!」
「おやおやぁ? クリスっちの顔が真っ赤だし。耳まで赤いし」
「そういう柚月さんこそ、カタログギフトでブランシュさんに贈ればいいじゃないですか!」
「はぅあ!! 飛び火して帰ってきたし……でも、カタログギフトには、バレンタインコーナーはなかったはずだし」

 そう言いながら、柚月さんが自分の型録ギフトを開きましたが。

「あれ? トップページが変わっているし」
「ほら、あれですよ……以前、ペルソナさんが話していたアップデートですよ」
「へぇ。魔導具で自動アップデートって凄いし……でも、チャージがかなり減っているし。武田っちたちにも色々と送ってあげたから、そろそろ新しい型録ギフトを買った方が良いかもしれないし」
「では、次の配達の時に発注しておきますね」
「三冊ほど頼むし」

 柚月さんは、他の勇者さんたちにも優しいのですよね。
 さて、それじゃあバレンタインコーナーを眺めながら、次の商品のことを相談することに……ん、そういえば以前、ヘスティア王国で出会ったベルメさんからも、季節のお菓子とかいうものを買い取りましたよね?
 その中にも確か……あれ?

 節分ってなんでしょうか?
 それよりも、この【煎り大豆】って食べ物ですか?
 オーガキラーという効果が付与されていますが、これはなにものでしょうか?
 
 
しおりを挟む
感想 656

あなたにおすすめの小説

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。