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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第152話・さあ、出発です!! 邪魔はさせませんよ

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 勇者の祠からの帰還。
 私たちが祠の扉から外に出ると、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図でした。
 大勢のエルフたちが傷つき、倒れ、血を流しています。
 
「な、な、何があった!!」

 近くに倒れていた女性に駆け寄り、ワカマッツさんが抱き抱えています。
 私たちもすぐに周りを見渡し、ひどい怪我をしている人の元へと駆け寄っていきます。

──ドン
 急ぎアイテムボックスから秘薬の納められている箱を取り出して開封します。

「柚月さん、ノワールさん!! この秘薬で怪我の治療をお願いします」
「かしこまりました」
「わかったし」

 私の意図がわかったのか、すぐに箱の中から秘薬を取り出しますと、急ぎ怪我のひどい人のところへと走っていき、なんとか飲ませてみます。
 すると、飲んだ人の体はゆっくりと輝き、怪我が塞がっていきます。
 飲めない人に対しては、ノワールさんが秘薬を傷口に掛けて治療を行っています。なるほど、服用ではなく傷にかけても効果はあるのですね。

 途中からワカマッツさんも箱から秘薬を取り出して飲ませ始め、ようやく話ができるようになりました。

「もう大丈夫だ。何が起こったんだ?」
「里長が扉を開けてから、パトレックたちが扉の中に入ろうとして。俺たちが奴らを取り押さえようとしたら、いきなり魔法を撃ってきたり斬りかかってきて……」
「この時を待っていたとか、秘宝は俺たちのものだとか叫んびながら中に入っていっちまって……里長たちは、あいつらに合わなかったのか?」

 そのあいつらは、柚月さんがロープに縛って引き摺っているぬいぐるみたちのことでしょう。
 ワカマッツさんがぬいぐるみをチラリと見て拳を握っていますが、なんとか怒りを抑えられたようです。

「奴らなら、そこにぶら下がっている……済まないが、シルフを召喚して近くの街まで伝言を飛ばしてくれるか? 犯罪者を捕まえたので引き渡したいと伝えさせて欲しい」
「わかった、すぐに飛ばしてくる」

 一人のエルフさんが飛び出していき、ようやくみなさん落ち着きを取り戻しました。
 
「フェイールさん申し訳ない。せっかく持ってきた秘薬を無駄に使わせちまったようだ。すぐにもう一箱取ってくるから、待っていてくれ」
「あ、は、はい、まだ残っていま……せんか。では、一休みしてからでも構いませんので、よろしくお願いします。午後からでも全く構いませんから」
「済まなかった。もしもここに秘薬が無かったらと思えば、ゾッとしてくるよ。ここの後片付けとかは俺たちがやるので、貴方たちは家に戻って休んでいてくれ」

 はい。
 それではと挨拶をしてから、私たちは一旦、借りている家へと戻ります。
 犯罪者のぬいぐるみたちはロープに釣られたまま精霊樹の太枝に吊るされましたので、もう安心だそうです。
 それにしても、事件が起こるの多すぎませんか?

………
……


「それにしても。今後も同じようなことが起こるかもしれないから、管理は厳重にしないとならないし。まあ、結界に包まれているから、中に入る人たちを厳重にチェックして、犯罪者まがいの奴らを選別することができるのなら…。う~ん。難しいし」
「そうですよね。ブランシュさんのように、人の魂を鑑定して犯罪者やそんな感じの組織に入っている人がわかれば良いのですけれど」

 そうですよ。
 対人鑑定スキルで人となりを確認できれば、問題はないのですよ。
 でも、鑑定は商人が得られる【神の加護】です。
 しかも、【商品知識】とか【瞬間計算カリキュラ】【アイテムボックス】のように幾つもある加護の中から、鑑定をうまく得られるかどうかは神のみぞ知る。
 しかも、加護の強さになっては名前がわかるだけとか、金銭的価値がわかるとかそんな感じにもなります。

「……あの、クリスティナさま? 今朝方届いたサングラスの中に、鑑定の効果が付与されているものがありましたよね? それをお渡ししておくのはどうでしょうか?」
「んんん? そう言えば、ありましたよね」

 急いでアイテムボックスからサングラスの収められている箱を取り出します。
 そこから【鑑定】が付与されているサングラスを取り出して、ノワールさんに試しに使ってもらいますと。

「……ふむふむ。犯罪歴まで確認できますので、かなりの高性能かと思われます。まあ、人となりや簡単な経歴、所属はわかるようですのでこれでも十分過ぎるかと」
「では、それはオマケとしてお渡ししておきますか」
「それが良いし……」

 柚月さんも頷いていますので、この後は里の皆さんにどうにかしてもらうことにしましょう。

「でも、勇者の祠が百貨店とは予想外でしたよ。しかも、地下に広がる迷宮のように隠されているなんて、思ってもいませんでした」
「うーん。それについては、謎しかないし。そもそも大賢者がこの地に避難してきた時、あの遺跡はあったのか。それとも大賢者が召喚したのか、そのあたりも曖昧すぎるし。この里のことだから、ワカマッツさんの聞いた口伝しか残っていなさそうだから、謎は謎のままで終わりそうだし」

 そうですよね。
 謎は謎のまま、それでも良いかもしれませんよ。

「何かも、その隠された真実を調べてみるのも楽しそうですけれど……謎って、分からない方が色々と考えられて楽しいかもしれませんよ?」
「それもそうか。まあ、クリスっちがそう言うのなら、この里のことはこれで終わりだし」

 そんな話をしていますと。
 ワカマッツさんが箱を二つ、持ってきてくれました。
 一つは勇者の秘宝が納められている箱、もう一つは別の薬が入っているそうです。
 それと引き換えに、私は鑑定の効果が付与されているサングラスを渡し、今後のことについて簡単なアドバイスを行いましたよ。

「それでは、私たちはこれで失礼します」
「色々と楽しかったし。まあ、祠の謎は、謎のままということで」
「では、失礼しますわ」
「ええ、本当に何から何まで助けられました。皆さんが無事に帰られることをお祈りしています」

 ワカマッツさんをはじめ、大勢のエルフたちが私たちを見送りに出てきてくれました。それでは、時間短縮のためにここからエセリアル馬車で帰ることにしましょう。

──シュンッ
 私がエセリアル馬車を出しますと、柚月さんの頬がヒクヒクと痙攣していますよ? 何かあったのでしょうか?

「そ、そっか、帰りもこれだし」
「当然です。さあ、帰りも私が手綱を取りますので、柚月さんとノワールさんは馬車の中へどうぞ」
「はぁ……覚悟を決めたし」
「中での出来事は、すべて内密にしますので」

 んんん?
 中で何かあったのかもしれませんけれど、内密ということは私にも教えてくれないのですよね。乙女の秘密というやつかもしれませんから、ここは素直に御者に専念することにしましょう。

「それでは、また何かありましたら来ますので!! 今後もフェイール商店をご贔屓に!!」

 ペルソナさんの真似ですよ。
 一度、言ってみたかったんです。

 そして馬車は一路、ガンバナニーワ王国王都へ走り出します。
 時間的には余裕で間に合いますし、これで納品依頼は完了です。
 でも、まだ何か巻き込まれそうな気がするのは、気のせいでしょうか?
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