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第3章・神と精霊と、契約者と
第142話・残念、私はガンバナニーワへ向かいます
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新年祭の熱い日々も終わり、今日からは街の中も普段の日常へと戻りました。
あちこちにあった飾りを撤去する人々、街中の商店街も特別メニューは消え去りいつもの商品が並び始めます。
それと同時に、雑貨屋や衣料品店などには中古の衣類が並び、それを目当てにした人々が殺到しています。
目の付け所がシャープな商会などは、あらかじめ貴族の元へと赴いて衣類を安く購入。それを自分の店舗や露店で販売しています。
「そのせいか、今日は暇ですなぁ。なんというか、周囲の露店の方が忙しそうですが、ここ1番の起死回生の商品などはないのかな?」
「あのですね、そんなに都合のいい商品はありませんよ。常に堅実に、商人としての道を外さない。それがフェイール商店です」
昨日の話から、フェイール商店は衣類の販売量を制限しました。
どれだけ再現したかと言いますと、サンプルを仕入れてからそれをノアールさんとクリムゾンさんに鑑定して貰い、付与された効果が安全なものなら使用するということ。
ま、まあ、ジャージはもう直ぐ在庫が無くなりますし。
朝一番で大勢の船乗りさんがやって来て、大量のお土産を購入して母国へと帰って行きましたので、在庫不足は夕方に到着するように手配はしてあります。
「それがよろしいかと。私どもは、クリスティナさまの安全を守るためにいらっしゃいませ。本日はこちらのイヤリングがお勧めですわよ。淡水真珠というものを使っていまして、普通の純白のものではなく貴重な黒真珠でもありません。ほら、光の加減でピンク色に輝きますよね?」
ぷ、プロです。
私との話の最中にやって来た貴族のご婦人相手に、直ぐに商人の顔に戻って接客を開始してくれます。
これは、私も負けてはいられません!!
「お嬢や、瓶ワインを六本出してくれるか? あの珍しいピンク色のやつを」
「ええっと、ロゼというのですね、はい、こちらです」
「クリスティナ様、ネックレスのサンプルを出してもらえますか?」
「はい、こちらのケースがサンプルです。商品は化粧箱に入っていますので」
「お嬢や、缶詰とやらは取り扱っているのか? こちらのお客さんがパルフェノンで購入したことがあるとか」
「か、缶詰は売り切れですね。お酒に合うものでしたら、こちらなどどうですか? わさびというハーブに漬け込んだ魚卵……です」
あれ、接客したいのに次々と商品を出さなくてはならないとは。
在庫管理は私の仕事、それはわかっていますけれど。
何かこう、うまく回るように工夫した方が良さそうです。
「ちーっす。手伝いいるし?」
今後の課題ということでメモを取っていますと、ニィッと笑いながら、指を二本立てている柚月さんの参上です!
「お帰りなさい。異世界の新年祭はどうでしたか?」
「ん、ん、ん~。楽しかったし?」
「どうして疑問系ですか?」
「話せば長くなるからまあ、それはそのうちだし。それよりも福袋販売は成功したし?」
「そうだ、実は色々とありましたけど、それはまた後で宜しいですか?」
「了解したし。それじゃあ売り子に入るし……おや、ノワルッちもお久しぶりだし」
「これは柚月さん、ご無沙汰していました。お菓子の販売をお願いします」
さあ、ここで問題です。
ノワールさんとクリムゾンさんの二人が接客してくれたおかげで、かなりお客様もスムーズに買い物を楽しんでくれています。
そこに新たな販売員である柚月さんが参加することで、お客さまの数も増えて来ました。
「クリスっち、ミホノのバラエティセットを出すし!!」
「は、はい、クッキーの詰め合わせですね」
「お嬢や、日本酒とやらは扱っているか?」
「あります!! 新年限定の七福神? 神様? そんなお酒あります」
「それを四本じゃ」
「クリスティナ様。手鏡はありますか?」
「それは福袋に全て詰めてしまいましたから在庫はありません。夕方に再入荷しますけれど、その後でよろしければ」
つまり、品出しの手が足りません。
「ええっと、先にわさび漬けのたらこ? そのあとが缶詰のクジラノヤマトニーさんで、鏡台の大きいのは在庫があります。それから」
あたふたしてきました。
まず落ち着きなさいクリスティナ、深く深呼吸です。
ゆっくりと息を吸って、肺の隅々まで酸素を送り込む。
勇者様たちが気を落ち着かせるために行なっていた呼吸法です。
その理屈と言いますか、原理については一切不明ですけれど、大気中にあるマナを呼吸により体の中に取り込み、それが血管とかいう場所を経由して全身に送られるそうでして。
確か、初代勇者様の一人である聖女さまの手記に、そのような事が書いてあったとか。
──スーハースーハー
はい、落ち着いてきました。
「クリスっち、アイテムボックスの共有って分かる?」
「え? 共有? それはなんでしょうか?」
「商人の祝福で貰えるアイテムボックスの効果。あーしたち勇者のアイテムボックスは、指定した相手にも使えるようにできるし。だからクリスっちのアイテムボックスを共有してくれたら、品出しが楽になるし。ボックス内のフォルダに触れて起動するし」
「なんですって!!」
急いでアイテムボックスを開き、羊皮紙を取り出します。
その中の商品が収められている場所の一つを指でなぞります。
すると『共有しますか? 共有対象者を指定してください』という表示が浮かびます。
こ。こんなの知りません、アイテムボックスに詳しいお父様からも聞いたことはありません。
なので恐る恐る共有を許可し、対象者である柚月さんに触れます。
──ピッ
『アイテムボックス内、【フェイール商店在庫】が柚月さんに共有されました。共有可能距離は20メートルです』
「できました!!」
「わかったし」
すぐさま柚月さんが私のアイテムボックス内にある【フェイール商店在庫】から商品を取り出します。
す、すごい、これならノワールさんやクリムゾンさんにも共有できますね。
そう思って指定しようとしましたが。
──ピッ
『アイテムボックス共有は一人のみです』
『対象者ノワール及びクリムゾンは、勇者クラスの祝福を所有していないため、共有は不可能です』
そう羊皮紙に浮かび上がります。
うん、残念ではありますけれど作業速度は十分に上がり始めました。
私はクリムゾンさんとノワールさんの分を担当。
そして柚月さんは手が空いていたらお二人の分の商品を出してくれます。
これは凄いですよ、共有恐るべしです。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ガラガラガラガラ
夕方配達便のペルソナさんから商品を受け取りました。
今月分のカタログの中身については、見たことのない不明な商品や謎の祭事についての商品も扱われているらしく、このあたりは柚月さんから聞かなくてはなりません。
「そういえば。早朝便はお使いになっていないようですが」
「ええ、今は急ぎの納品の仕事とかもありませんので。夕方便で十分間に合っていますから」
そう返事を返した時の、マスクの向こうのペルソナさんの目が優しそうに笑っている感じに見えるのは、気のせいでしょうか。
「そうでしたか。それでは、お一つだけご忠告を……これから冬になりますと、ガンバナニーワ北方のロッコウ山脈は絶対凍土と呼ばれる世界に変貌します。できるならば近寄らないように、どうしても向かうのでしたら防寒装備を徹底してください」
「はい……あの、どうして私がガンバナニーワへ向かうことをご存知で?」
そう問いかけます。
本日届けてもらった商品の中には、確かにガンバナニーワ行きとサライは戻るための旅行券が入っていましたけれど。
まさか、この封筒の中身を確認したのですか?
そう思って、少しだけ考えそうになりましたが。
「契約の精霊が、クリスティナさんとお会いできる日を楽しみにしているって話していましたので。それで、なんとなくそんな気がしただけです。あの方が嬉しそうに話しているのは、本当に珍しいものでして」
「そ、そうなのですか」
「ええ。多くの人々は、契約の精霊は融通が効かないとか、一度でも契約したら解除できないとか言われていますけれど。実際には解除もできますし契約内容の変更なども可能ですよ。まあ、遠すぎるので直接向かうのは厳しい体と思いますけどね。それでは、失礼しました。今後とも、【型録通販のシャーリィ】をどうぞご贔屓に」
「はい、ありがとうございます」
そしてペルソナさんは馬車に乗って帰って行きます。
「クリスっち。昼間のお客さんっていう人も来たみたいだし、もうすこし露店は開くし?」
「はい、明日にはガンバナニーワへ向かわなくてはなりませんので。今日はあと一刻だけ、露店を開くことにします」
そして明日にはガンバナニーワへ。
そういえば、あの難題についてはまだ何も考えていませんでしたね。
柚月さんやノワールさんにも尋ねてみることにしましょう。
あちこちにあった飾りを撤去する人々、街中の商店街も特別メニューは消え去りいつもの商品が並び始めます。
それと同時に、雑貨屋や衣料品店などには中古の衣類が並び、それを目当てにした人々が殺到しています。
目の付け所がシャープな商会などは、あらかじめ貴族の元へと赴いて衣類を安く購入。それを自分の店舗や露店で販売しています。
「そのせいか、今日は暇ですなぁ。なんというか、周囲の露店の方が忙しそうですが、ここ1番の起死回生の商品などはないのかな?」
「あのですね、そんなに都合のいい商品はありませんよ。常に堅実に、商人としての道を外さない。それがフェイール商店です」
昨日の話から、フェイール商店は衣類の販売量を制限しました。
どれだけ再現したかと言いますと、サンプルを仕入れてからそれをノアールさんとクリムゾンさんに鑑定して貰い、付与された効果が安全なものなら使用するということ。
ま、まあ、ジャージはもう直ぐ在庫が無くなりますし。
朝一番で大勢の船乗りさんがやって来て、大量のお土産を購入して母国へと帰って行きましたので、在庫不足は夕方に到着するように手配はしてあります。
「それがよろしいかと。私どもは、クリスティナさまの安全を守るためにいらっしゃいませ。本日はこちらのイヤリングがお勧めですわよ。淡水真珠というものを使っていまして、普通の純白のものではなく貴重な黒真珠でもありません。ほら、光の加減でピンク色に輝きますよね?」
ぷ、プロです。
私との話の最中にやって来た貴族のご婦人相手に、直ぐに商人の顔に戻って接客を開始してくれます。
これは、私も負けてはいられません!!
「お嬢や、瓶ワインを六本出してくれるか? あの珍しいピンク色のやつを」
「ええっと、ロゼというのですね、はい、こちらです」
「クリスティナ様、ネックレスのサンプルを出してもらえますか?」
「はい、こちらのケースがサンプルです。商品は化粧箱に入っていますので」
「お嬢や、缶詰とやらは取り扱っているのか? こちらのお客さんがパルフェノンで購入したことがあるとか」
「か、缶詰は売り切れですね。お酒に合うものでしたら、こちらなどどうですか? わさびというハーブに漬け込んだ魚卵……です」
あれ、接客したいのに次々と商品を出さなくてはならないとは。
在庫管理は私の仕事、それはわかっていますけれど。
何かこう、うまく回るように工夫した方が良さそうです。
「ちーっす。手伝いいるし?」
今後の課題ということでメモを取っていますと、ニィッと笑いながら、指を二本立てている柚月さんの参上です!
「お帰りなさい。異世界の新年祭はどうでしたか?」
「ん、ん、ん~。楽しかったし?」
「どうして疑問系ですか?」
「話せば長くなるからまあ、それはそのうちだし。それよりも福袋販売は成功したし?」
「そうだ、実は色々とありましたけど、それはまた後で宜しいですか?」
「了解したし。それじゃあ売り子に入るし……おや、ノワルッちもお久しぶりだし」
「これは柚月さん、ご無沙汰していました。お菓子の販売をお願いします」
さあ、ここで問題です。
ノワールさんとクリムゾンさんの二人が接客してくれたおかげで、かなりお客様もスムーズに買い物を楽しんでくれています。
そこに新たな販売員である柚月さんが参加することで、お客さまの数も増えて来ました。
「クリスっち、ミホノのバラエティセットを出すし!!」
「は、はい、クッキーの詰め合わせですね」
「お嬢や、日本酒とやらは扱っているか?」
「あります!! 新年限定の七福神? 神様? そんなお酒あります」
「それを四本じゃ」
「クリスティナ様。手鏡はありますか?」
「それは福袋に全て詰めてしまいましたから在庫はありません。夕方に再入荷しますけれど、その後でよろしければ」
つまり、品出しの手が足りません。
「ええっと、先にわさび漬けのたらこ? そのあとが缶詰のクジラノヤマトニーさんで、鏡台の大きいのは在庫があります。それから」
あたふたしてきました。
まず落ち着きなさいクリスティナ、深く深呼吸です。
ゆっくりと息を吸って、肺の隅々まで酸素を送り込む。
勇者様たちが気を落ち着かせるために行なっていた呼吸法です。
その理屈と言いますか、原理については一切不明ですけれど、大気中にあるマナを呼吸により体の中に取り込み、それが血管とかいう場所を経由して全身に送られるそうでして。
確か、初代勇者様の一人である聖女さまの手記に、そのような事が書いてあったとか。
──スーハースーハー
はい、落ち着いてきました。
「クリスっち、アイテムボックスの共有って分かる?」
「え? 共有? それはなんでしょうか?」
「商人の祝福で貰えるアイテムボックスの効果。あーしたち勇者のアイテムボックスは、指定した相手にも使えるようにできるし。だからクリスっちのアイテムボックスを共有してくれたら、品出しが楽になるし。ボックス内のフォルダに触れて起動するし」
「なんですって!!」
急いでアイテムボックスを開き、羊皮紙を取り出します。
その中の商品が収められている場所の一つを指でなぞります。
すると『共有しますか? 共有対象者を指定してください』という表示が浮かびます。
こ。こんなの知りません、アイテムボックスに詳しいお父様からも聞いたことはありません。
なので恐る恐る共有を許可し、対象者である柚月さんに触れます。
──ピッ
『アイテムボックス内、【フェイール商店在庫】が柚月さんに共有されました。共有可能距離は20メートルです』
「できました!!」
「わかったし」
すぐさま柚月さんが私のアイテムボックス内にある【フェイール商店在庫】から商品を取り出します。
す、すごい、これならノワールさんやクリムゾンさんにも共有できますね。
そう思って指定しようとしましたが。
──ピッ
『アイテムボックス共有は一人のみです』
『対象者ノワール及びクリムゾンは、勇者クラスの祝福を所有していないため、共有は不可能です』
そう羊皮紙に浮かび上がります。
うん、残念ではありますけれど作業速度は十分に上がり始めました。
私はクリムゾンさんとノワールさんの分を担当。
そして柚月さんは手が空いていたらお二人の分の商品を出してくれます。
これは凄いですよ、共有恐るべしです。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ガラガラガラガラ
夕方配達便のペルソナさんから商品を受け取りました。
今月分のカタログの中身については、見たことのない不明な商品や謎の祭事についての商品も扱われているらしく、このあたりは柚月さんから聞かなくてはなりません。
「そういえば。早朝便はお使いになっていないようですが」
「ええ、今は急ぎの納品の仕事とかもありませんので。夕方便で十分間に合っていますから」
そう返事を返した時の、マスクの向こうのペルソナさんの目が優しそうに笑っている感じに見えるのは、気のせいでしょうか。
「そうでしたか。それでは、お一つだけご忠告を……これから冬になりますと、ガンバナニーワ北方のロッコウ山脈は絶対凍土と呼ばれる世界に変貌します。できるならば近寄らないように、どうしても向かうのでしたら防寒装備を徹底してください」
「はい……あの、どうして私がガンバナニーワへ向かうことをご存知で?」
そう問いかけます。
本日届けてもらった商品の中には、確かにガンバナニーワ行きとサライは戻るための旅行券が入っていましたけれど。
まさか、この封筒の中身を確認したのですか?
そう思って、少しだけ考えそうになりましたが。
「契約の精霊が、クリスティナさんとお会いできる日を楽しみにしているって話していましたので。それで、なんとなくそんな気がしただけです。あの方が嬉しそうに話しているのは、本当に珍しいものでして」
「そ、そうなのですか」
「ええ。多くの人々は、契約の精霊は融通が効かないとか、一度でも契約したら解除できないとか言われていますけれど。実際には解除もできますし契約内容の変更なども可能ですよ。まあ、遠すぎるので直接向かうのは厳しい体と思いますけどね。それでは、失礼しました。今後とも、【型録通販のシャーリィ】をどうぞご贔屓に」
「はい、ありがとうございます」
そしてペルソナさんは馬車に乗って帰って行きます。
「クリスっち。昼間のお客さんっていう人も来たみたいだし、もうすこし露店は開くし?」
「はい、明日にはガンバナニーワへ向かわなくてはなりませんので。今日はあと一刻だけ、露店を開くことにします」
そして明日にはガンバナニーワへ。
そういえば、あの難題についてはまだ何も考えていませんでしたね。
柚月さんやノワールさんにも尋ねてみることにしましょう。
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