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第3章・神と精霊と、契約者と

第120話・カマンベール王国からの使者? おっとととっと?

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 ラッシュアワーという言葉が、異世界には存在します。

 私も詳しくはわからないのですが、言い伝えでは人が波のように押し寄せてくるそうで、一日に数度、朝の時間に発生するそうです。
 その波の名前は人波。
 環状に走る停車場にて発生するそうで、先を急ぐ人々が馬車に乗るために押し合いへし合いして、虚な目で仕事に向かうそうで。
 他にも磯波、綾波、敷波、浦波といった軍用馬車もあるとかないとか。
 はい、いつもならこのあたりでブランシュさんが突っ込んできますが、クリムゾンさんは突っ込んできません。
 これは間違いがないようで。

「店長!! 次の箱をお願いするぞ」
「長靴型菓子の詰め合わせ、在庫8つです。次の箱をお願いします」
「オードブルは切れました、あと3つありますか」

 はい、午後になって、貴族の方々からお買い上げしてから、はらに噂が噂を呼んで人が山のように集まってきました。
 他の露店の前まで並ばれるとまずいということで、急遽、商業ギルドからも職員さんが派遣されて来ました。
 その方々は人員整理を始めてくれまして、お陰でクリムゾンさんも販売に回ってもらって、私は後ろで在庫のチェックと品出しを繰り返しています。

「はい、次の方、何をご注文ですか?」
「クリスティナ・フェイールが欲しい。カマンベール王国から、彼女を迎えに来ました」
「ケイトさん、それは販売していませんので他のものを!!」
「はい。誠に申し訳ございませんが、本日はクリスマス商品のみの販売です。何をお求めでしょうか?」
「あ、あ、なるほど。それじゃあオードブルを二つとケーキ? それを三つで。あと、君を買うことはできるかな?」
「はい、ありがとうございます。ちなみに私には夫がいますので。では次の方……」

 そのままケイトさんは、客さんの揶揄いを右から左へ受け流し商品をお渡しします。
 そんなこんなで忙しい時間も間も無く終了。
 夕方六つの鐘が鳴り始めると、すでに全ての商品は在庫が一箱に手がついた感じです。
 まお、私のアイテムボックスは時間停止の加護がついていますから、痛むことなく保存できますし。
 何よりも、熱々なのが冷めないのは最高ですよね。

「ちーっす。まだ在庫あるし?」
「はい、ございますよ。何をお求めでしょうか?」

 聞いたことのある声。
 これは、柚月さんが帰って来てくれたのですね?
  
「クリスっちが欲しいし」
「はぁ、本日はクリスマス商品のみでして」
「ケイトさん、そちらの方は予約の方ですから。まあ、私は置いておくとして、お帰りなさい柚月さん」
「王様の命令で、暫くはクリスっちと一緒だし。まあ、詳しい話は後にするので、ケーキとオードブルとチキンを四つずつ、勇者の人数分ずつ欲しいし」
「はいはい、それでは」

 すぐさま商品を用意して手渡すと、すぐさま柚月さんが受け取った商品を魔法で消しました。
 え。アイテムボックスじゃないのですか?

「い、いまのは?」
「武田っちが解析した『転送魔法』だし。これで三人にもクリスマスケーキとか送れたから、一つ目の任務は完了だし。あとは、あーしも手伝うから、はやくしごとをおわらせるし」
「わかりました!!」

 それではまず、この赤い衣服に着替えてもらって。
 商人ギルドからの人員整理の方たちもお時間なので帰られるそうですので、別に取り分けておいたオードブルとケーキ、そしてチキンをお渡しします。
 はい、お子様がいらっしゃるのですね、ではこの長靴もお持ちください、本日はありがとうございました。

「……うわ、この服ってアルバイトで着たことあるし!!」
「それでは、あと半刻、頑張りましょう!!」
「「「「おー!!」」」」

 気合い、入れて、頑張ります。
 と言いましても、街の人のほとんどが買って行ったような気もしますし、モジャモジャシェフとヒゲの店主も買って行きましたよ。
 あと、どうしてもということで、お酒も追加で販売しました。
 オードブルを酒の肴として飲みたいそうで、これはクリムゾンさんからも切実にお願いされたのでやむなく限定販売。

 そんなこんなで無事に全てを終わらせて。
 マキさんとケイトさんにも一通りのクリスマス商品を持って行ってもらって、本日、無事にクリスマス商戦は完了しました。
 あとは明日の朝の配達分で、もう一度仕入れをしておいて完了。
 今日購入きた方々が、追加で買いに来る可能性もありますからね。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


──いつもの宿屋
 さすがはクリスマス。
 いつもよりも混んでいますし、うちから購入したオードブルを持ち込んで酒を飲んでいる方々もいらっしゃいます。
 まあ、持ち込みについてはお店が許可しているようなので、特に私たちが気にする必要もありませんし。
 長期滞在契約しているので、私はいつものように指定席に移動して、柚月さんとクリムゾンさん、三人楽しいパーティーです。

「その前に、しばしお待ちを」

 急ぎ発注書を書き上げて発注。
 実は、明日の朝にはノワールさんとブランシュさん、ペルソナさん、クラウンさん、そしてジョーカーさんの元にも配達先指定でクリスマス商品を送ってあげました。
 本当ならみなさん一緒に楽しみたかったのですけど、せめてものお礼ということで。

「それじゃあ、かんぱ~い」
「乾杯です!!」

 ビアマグという、小樽に取っ手の付いたジョッキにコーラを満杯に注ぎ。
 温くならないように氷も入れておきました。
 ちなみにクリムゾンさんには、特製の日本酒をご用意しています。
 前にご用意した、美青年という名前の濁り酒。
 これがまた、微発泡とかで美味しいそうです。

「さて、あーしがいない間に、何か面白いことがあったんでしょ? この時間ならノワールさんがいるはずなのに、こちらのタイタンの戦士さんがいるってことは」
「あはは、やはりわかりますよね」
「うむ。それでは改めて。わしの名前はクリムゾン、初代勇者に仕えしタイタン族であり、エセリアルナイトである」
「あーしは大魔導師・柚月。クリスっちの親友だし」

 お互いに挨拶をしてから同時に頷き、ガッチリと握手。
 うん。あっさりと仲良くなったので拍子抜けですけれど、仲良きことは良きかなです。
 そのまま私がリバイアスの聖女に攫われたこと、それをペルソナさんたちが救出し、裏で起こった何かを阻止したこと、そしてそのやりすぎ責任を取るために、再教育とか修行に出たことなどを説明しました。
 クリムゾンさんは、ノワールさんたちが戻ってくるまでの私の護衛であることも説明したので、ハラハラしながら話を聞いていた柚月さんもどうにか納得してくれたようです。

「なるほど~。そんな危ないことになっていたなんて、あーしが一緒にいたら攫いに来た人たちをぬいぐるみに変えて箱詰めで送り返したし」
「あはは。まあ、今はもう安全ですから。それよりも、宝剣の封印は終わったのですか? あれは勇者でなくてはできないと伺っていますけど」
「全て終わったし。あーしたちは、送還魔法陣に魔力が溜まったら日本に帰るけど。それまではあーしは、クリスっちと一緒に旅をするから安心するし」

 はい。
 柚月さんは異世界からきた異邦人。
 いつかは帰らないとならないのですから、仕方がありません。
 でも、それまでの間、楽しい時間を少しでも多く過ごせたなら。
 私はそれで、満足です。

「はい。まだまだやりたいことがありますから」
「うんうん」

 そのあとはのんびりと王都での出来事を教えてもらったり、柚月さんの世界の話などを聞いていました。
 楽しいひとときって、時間が経過するのも忘れてしまいそうですよね。

「やぁ、こんなところで、女性二人と……護衛もいましたか。同席してもよろしいですか? マイハニー」

 ん? 
 どこのどなたでしょうか?
 いかにも貴族ですよと言わんばかりの、さらさらな金髪を髪でたくしあげるポーズ。
 ビロードで紡がれた衣服、小指を立ててワイングラスを持つ姿、そして胸元の貴族章は、隣国カマンベール王国を示す二つの輪が縦に重なっていう形。
 
「あ、昼間のカマンベール王国からのお客様でしたか。本日はリクエストにお答えできなくて申し訳ありません、明日はいつもの商品を取り扱いますので。なお、私は商品ではありません、非売品ですからね」
「これは失礼を。それで、私の同席は認められないと?」
「はい。本日は楽しく友人と語らいたいので。商談その他はお断りしておりますし、何よりも私は、あなたのことを知りませんから」

 たまに酒場などで、酔っ払いが絡んでくることもあります。
 よーねーちゃん、ここあいてっか? っていう感じで。
 まあ、大抵はノワールさんが対処してくれていますし、今もクリムゾンさんがのんびりとお酒を飲みつつチラッチラッと貴族の人を見ています。
 でも、柚月さんが睨むように見ているのはなんでしょうか?

「ああ、そういうことね。改めて自己紹介させてもらうよ、僕の名前はイオ。カマンベール王国はジュピトリア伯爵家の長男で、君の夫となる人物だよ。ということなので、これで他人ではないね? 横を失礼させてもらって構わないか?」
「構うし、そもそもその件については、ハーバリオス王家から正式に無かったことにという通達が届けられたはずだし」

 え、私の知らないところの話ですよね??
 しかも私の夫?
 何がどうしたのでしょうか?
 誰か、説明してください!!
 
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