型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第3章・神と精霊と、契約者と

第116話・商人に必要なのは、営業力とスマイルと誠実さです。

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 では、ここで問題です。

 筋肉は、『営業力』『スマイル』『誠実さ』、この三つの中のどれに当てはまりますか? なぜ、私は早朝の鐘が鳴る前から、サライの街の中を走っているのでしょうか。
 でも、確かにこのジャージという服は伸縮自在で動きやすく。
 汗をかいても外に揮発するという優れものだそうです。揮発の意味はまだ勉強中なのですけれど、多分すごいのだと思います。

「昨日は初日だから、あまり無理をしない方が良いな」

 私の横で、息を切らす事なく平然と並走しているクリムゾンさん。
 そもそもの体の作りがちがうと思いますよ、貴方はタイタン族で、私はハーフエルフ。近接戦闘特化型と魔力特化に少しだけ近い平均型では、そもそもの肉体構成が違うのではないですか?
 
「は、はい!! では、そろそろという事で」
「宿の前までは軽く走って行こうではないか。なぁに、無理をしないでのんびりとでも構わんぞ、いきなり止まると体に悪いからな。少しずつペースを下げて、最後は歩いても構わんが立ち止まらないことじょ。では、ラストスパートじゃ」
「あ、あの、その運動理論は勇者語録でも見たことがありませんけど」
「大丈夫じゃよ、ワシが知っている勇者語録には、『筋肉は裏切らない』というのがある。まあ、クリスティナ様は、まずは基礎から作り直す必要がありますからな」

 き、基礎から!!
 この私の身体を根底から作り変える?
 ま、まっちょいな体になってしまうではありませんか。

「それにな、筋肉をつけると新陳代謝が活性化する。つまり運動に必要な生体エネルギーを効率よくる使うために、甘いものを食べても直に消費して痩せられるのじゃぞ? 肉体労働を生業としているものの中に太ったものがいないのは、そういう理屈だが」
「あ、あの、私が知っているお肉屋さんの主人は、皆さんおでっぷりしていますけど?」
「需要と供給の差じゃ。ほら、よく考えてみろ、物語の中に出てくる悪役貴族は、みな、でっぷりと太っているだろ? あれは私服を肥やし部下に何もかも任せてクッチャネしているからだぞ」

──ガーン!!
 そ、そんな真実、知りたくはなかったですよ。

「でも、細身のキリッとした知的悪役さんは?」
「ありゃあ、策を練り過ぎて胃が悪くなっているか、もしくは頭を使っているから痩せているだけだ。さあ、悪役になりたくなければ筋肉をつけろ!! 悪役令嬢になんてなりたくはないだろう?」
「はい!!」

 つまり、運動したら食べても構わない、そういう事ならばこの日課も、苦痛ではなく楽しくなって来ましたよ。

………
……


──宿の食堂
「前言撤回です。身体中が痛いのですけど」
「まあ、最後のラストスパートを全力で走っただろう? わしはペースを下げろと言ったではないか」
「は、はい、クリムゾンさんのおっしゃる通りです……いたたたた」

 筋肉痛というものらしく、私の方を見て微笑んでいるお客もいます。
 うう、お恥ずかしい。

「はい、朝食を二人前ね。今日はブランシュさんじゃないのね?」

 女将さんが朝定食を二つ、持って来たくれました。
 サラマンの塩漬けを焼いたもの、卵焼き、ご飯と味噌汁、そしてこの港の近くの漁師さんが作った、黒い海藻を固めたもの。
 これは焼き海苔というものらしく、勇者様が作り出すのに成功したものを、このサライの漁師さんが教わったものです。
 海藻は幾らでも取れますし、ご飯によく合うという事でサライの名産品の一つでもあります。

「はい、ブランシュさんとノワールさんは修行の旅に出たので、今日からはクリムゾンさんが私の護衛兼フェイール商店の店員さんです」

 ニッコリと笑顔で返事をしますと、あちこちの冒険者さんたちから悲鳴やら絶叫やらため息が聞こえて来ますけど。

「あ~、あいつらは気にしなくていいよ。ノワールさんが好きだっていう野郎たちと、ブランシュさんに横恋慕しているお姉さんたちばかりだからね。でもさ、わ私はてっきり、クリスティナさんがブランシュさんの彼女かと思ったんだけどね。いつも一緒にいて、仲が良いじゃない?」
「ん? ブランシュさんは私の護衛でフェイール商店の大切な店員さんですよ? 私の彼氏でもなんでもありませんけど?」

 あれ?
 向こうの席のお姉さんたちが、拳を握ってガッツポーズしていますよ。
 異世界にいる勇者イシマーツさんの勝利の舞、それすなわちガッツポーズ。
 この世界でも勇者様が使っていたので、勝利のポーズはガッツポーズというのです。

「ふぅん。まあ、そういう事ならさ、夢を見るのは自由だし。おっと、仕事に戻らないと」
「あはは。それじゃあ頑張ってください……あれ?」

 気がつくと、米櫃のご飯が空っぽですが。
 
「美味い。久しぶりに米を食べたぞ、これは毎日3食たべても飽きないな」
「はぁ……あとでおかみさんに、お米を渡しておきますね。私たちの分で他のお客さんのご飯が足りなくなるのは問題ですから」
「済まんな。と、それじゃあ一服したら、仕事に向かうとするか」
「はいはい。今日からよろしくお願いしますね」

 どこまでもマイペースなクリムゾンさん。
 今頃、ペルソナさんたちやノワールさんたちは、元気に過ごしているのでしょうか……。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


──サライ港湾施設、商業ギルド所有貸し倉庫
 今日から午前中は、ここで福袋の作成を行います。
 すでにマキさんとケイトさんも作業用のジャージに着替えてもらって、準備はできています。

「あの、福袋とはなんでしょうか?」
「ギルドマスターから、それが恐らくはフェイール商店の新しい商品だと言われて来ましたが。それは、どのようにして作るのでしょうか?」
「はい、それでは簡単に説明しますね」

 すでに倉庫の中は、五つのブロックに分けて商品が置いてあります。
 ここから一つずつ、適当な商品を袋に収めてもらい、最後に私が受け取ってリボンで袋の口を縛り、段ボールに並べて完了です。
 一袋には五つの商品プラス、私の横にある商品が一つ入ります。
 私のところのものは少しだけ高額なので、私が担当。
 あとほ同じくらいの価値の商品ごとに五つに分けてありますし、多少の金額の誤差はあれど、皆さん満足してくれるかと思います。

「……という事です。それでは、クリムゾンさんが見本を作りますので、見ていてください」
「うむ、任せるのじゃ」

 ドン、と胸を叩いてからクリムゾンさんが福袋の中に商品を詰め始めます。
 ドレスであったり靴だったり。
 缶詰もありますし、お酒の瓶も入ってますね。
 それに、そ、それはクッキーアソートの缶!! 老若男女を楽しませる福袋とは、中々考えていますねぇ。

「これで良いのか?」
「ありがとうございます。ここに最後は私から……」

 箱の中に手を入れて、ランダムに商品を掴んで取り出しまして。

「あ、懐中時計ですか。当たりですね。これを入れて袋を縛って……はい、これが福袋です」

──ジャーン
 完成した福袋をお見せしますと、マキさんもケイトさんも呆然としています。
 あら、私何かやらかしましたか?

「え、あ、あの、この袋を売るのですか?」
「はい。しかも全て同じ金額。中身に何が当たるかは、買った人しかわかりません。まさに福が納められています。これぞ異世界、勇者様の世界の新年祭の商品、福袋でーす!!」

──パチパチパチパチ
 みなさん拍手してくれました。
 
「あの、これはおひとつ幾らで販売するのですか?」
「銀貨10枚です。お高いかもしれませんが、全て勇者様の世界の商品なので。それに、入っているものは銀貨20枚以上の価値があります」
「か、買います!! 私も買います」
「私も、家族の分を買いますので」
「あははは。それじゃあ販売当日、お昼の休憩時間にでも買ってください。先に買われるのも困りますし、売れ残りっていうのも残念な感じになりますので」
「「絶対に、完売します!!」
「だ、そうじゃが?」

 おおう、そこまで言い切ってくれますか。
 それじゃあ、気合を入れて福袋を作る事にしましょう!!
 今日の夕方にも、また別の商品が届きますし避難物資もかなり減って来ましたから、仕入れ予算もそこそこ潤沢です。
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