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第3章・神と精霊と、契約者と
第115話・ラブシーンは突然に……あれ、ない?
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ジョーカーとクラウンが、魔族に覚醒した聖女ストラトスに鉄槌という名の梱包処理を行っていた時刻。
ペルソナは抱き抱えていたクリスティナを白い馬車の中にある、空間拡張された部屋の中へと連れて行った。
そして、寝室にあたる部屋で彼女をベッドに横たえると、そのひたいにそっと手を翳した。
「鑑定……」
ペルソナが鑑定術式を唱えると、目の前に一枚の羊皮紙が姿を表す。
それは彼女の健康状態や呪詛に侵されているなど、外的要因による彼女の変化が書き記されている。
本来のペルソナが使える鑑定なら、出自から始まり血脈やステータス、そして普通には見ることができない【神によって隠蔽された加護】に至るまで、その全てを網羅することができる。
だが、それを行うのは対象者の許可があってのこと、今のペルソナに使えるのは治癒行為としての鑑定、および商人や冒険者が使うことができる【一般鑑定】のみ。
その羊皮紙に記されたクリスティナの状態を見て、ペルソナはようやくフッ、と笑みを浮かべることができた。
「体内魔素の魔人覚醒要素も消滅。大賢者の血が、彼女を守ってくれたようですか……クリスティナさんが、ここまで勇者適正が高いとは予想外でしたけど」
今のクリスティナは、素養はあっても大魔導師にはなれない。
すでに【シャーリィの魔導書】との契約を果たしているため、一人の人間が複数の魔導書との契約を行うことができないという【世界の理】により彼女は大魔導師への道を歩めない。
それを理解したのか、ペルソナもまた、頭を傾げてしまう。
「……魔王覚醒の時に必要なのは、時の勇者の存在。まあ、いまは柚月さんや緒方といった、今代の勇者の存在がありますから、魔素枠も無茶なことはしないはずなのですが……やはり、聖域の奪取が不可能となったことが、彼らに焦りを生んだのかもしれませんね」
手にした羊皮紙を丸めると、左手をパチンと鳴らす。
すると羊皮紙が一瞬で燃え尽き、ペルソナも静かに頷く。
「これで問題なし……それにしても。忙しすぎて喉がカラカラですね」
ペストマスクを外し、アイテムボックスから冷たい水が入った竹の水筒を取り出すと、それを口元に運び、一口、また一口と喉を潤した。
シャーリィからクリスティナの消息が途絶えたと聞いた時、ペルソナは精霊の祠から外に飛び出していた。
自分が使える力でクリスティナの消息をたどり、シャーリィからもヒントを得ると、ペルソナは急ぎクラウンとジョーカーを召喚しクリスティナ奪回のために馬車を走らせたのである。
そのあとは認識阻害効果を極限まで使用しリバイアス島に乗り込むと、そのまままっすぐにクリスティナの囚われている場所まで走り抜けた。
たとえどこにいようとも、結界によって閉じ込められようとも、精霊女王シャーリィの加護である【型録通販のシャーリィ】の会員であり、発注を済ませてある以上、担当者は届け先である契約者の場所を見逃すはずはない。
「……ふう。あとはクリスティナさまをサライの宿まで送り届け、この忌まわしい記憶を消すだけ……」
そう呟いてから、ペルソナは考える。
確かにこの体験は、彼女にとってもトラウマレベルの事件であることは間違いがなく。そしてクリスティナのことだから、自分が狙われたことにより、ブランシュやノワールを巻き込んだこと、さらにペルソナたちにまで迷惑をもたらしたことなどを悔やむのが目に見えている。
それならば、何も無かったことにした方が良いのではと思い、右手で【忘却の術式】を組み上げたのだが。
「……いえ、全てを語りましょう。その上で、彼女自身に選択してもらう方が良いのかもしれませんね。そうする事で、彼女にも何か、新しい力が覚醒する可能性がありますから」
歴代勇者のように、窮地に陥ると道の力が覚醒することがある。
そして彼女自身の成長のためにも、これは必要な事だとペルソナは考えていた。
「はぁ……相変わらず、あなたは面倒臭い性格をしていますね?」
ふと、背後から声が聞こえてくる。
そのクラウンの言葉に、ペルソナの顔が引き攣ってしまう。
「あ……あの、私は、なにか話していましたか?」
「クリスティナ様と一緒ですよ。その子もたまに、心の声が外に漏れていることがあるようですからね……と、はい、これは回収して来ましたので、術式破棄をお願いね」
クラウンがペルソナに小さな袋を投げて寄越す。
それを受け取ると、中に封じられているブランシュとノワールを解放すべく、すぐさま指を鳴らし袋の術式を破棄した。
──パチン!
一瞬で袋が消滅し、中に閉じ込められた二つの彫像が実体化し、ブランシュとノワールへと変化する。
「クリスティナさま!! 誠に申し訳ありません……このノワール、一生の不覚です。もう、言い訳も何もいたしません」
「済まない姐さん……」
ベッドに横たわっているクリスティナ、その前に跪いて頭を下げる二人を見て、ペルソナはマスクを被り直す。
「相手が悪かったよなぁ。まさか、リバイアスを謀ってクリスティナさんを攫おうなどと考えたとは、相手の方が一枚上手だっていうこと。今後のこともあるだろうから、シャーリィさまにもお話を伺った方がいいんじゃないかな」
「「畏まりました」」
ペルソナに深々と頭を下げるノワールとブランシュ。
「さて、そうなるとクリスティナさんをサライに届けるのは後回しにした方がいいか。護衛が足りなくなるから……と、クリムゾンにしばらくの間、彼女の護衛を頼むという方法もあるが」
【そうですね。では、クリムゾンに当面の間の護衛をお願いするようにと、カネック王にも打診しておきましょう。ペルソナ、貴方たちはクリスティナさんを届けてから、速やかに精霊の祠まで戻って来てください……今回の件は看過することはできませんけれど、貴方の独断専行についても考えなくてはなりませんから】
ペルソナの言葉に被さるように、シャーリィの声がその場に響く。
するとペルソナたちの顔も真っ青に変わり始める。
「ま、待ってください。確かにクリスティナさんを助けるために、クラウンとジョーカーに助力を仰いだことはやり過ぎであったかもしれません。ですが、あの場合はそうしなくてはならなかったというのは、ご理解頂けますよね?」
【……例えば。クリスティナさんが心から信頼している柚月さんに神託、もしくはカタログギフトのメッセージ機能を使って連絡を取るとか】
そうすれば、柚月はブランシュも攫われているときき、全力でクリスティナを助けに向かったであろう。
そこへのほんの少しの助力、その程度ならばシャーリィを目を瞑ることはできるのだが。
今回は、いきなり【型録通販のシャーリィ】が世界に干渉したことになる。
それは、本来はあってはいけないこと。
個人への干渉、そこからの文明の加速。
その程度なら、クリスティナが型録通販でさまざまな商品を取り寄せ、それを販売して来たとしても、そこからの模倣や研究などで、同じようなものを作るものがいつか現れるかもしれない。
シャーリィとしても、その程度ならば気にする必要もないのだが。
その一個人を、シャーリィのエージェントたちが『個人的理由』で助けに向かったことが問題なのである。
【いずれにしても、貴方たちはクリスティナさんを送り届けてから、精霊の祠まで戻るように。彼女には私から神託を授けますし、今し方、カネック王からも許諾を頂きました……】
「畏まりました」
その場で片膝をつき頭を下げるペルソナ。
そしてクラウンも自分の馬車に戻っていくと、先に精霊の祠へと戻っていく。
………
……
…
──港町サライ・常宿
「……気のせいでしょうか……」
私は夢を見ていたような気がします。
私は何者かに攫われ、どこかの島の屋敷に監禁され、リバイアスさまの巫女となるべく呪いのようなものを掛けられていたようです。
でも、そこでクラウンさんが助けに来てくれて、ペルソナさんが私を抱きしめて、薬を飲ませてくれました。
そこで私は安心して、どうやら寝てしまったようですが。
その中で見た夢。
それは、以前、精霊の祠で出会ったアクターさんが、ペルソナさんの仮面を着けていました。
それは本当に夢なのでしょうけれど、おそらく私が攫われていたのは真実で。
──がばっ!!
はい、意識がすっかりしゃっきりぽんとしました。
「ノワールさん、ブランシュさん!!」
周りを見渡しますと、横のテーブルでは腕を組んでうとうとしている真っ赤な鎧を身につけた男性の姿が。
こ、この方はどなたでしょうか?
全身ムキムキ筋肉質の、マッチョな方は。
なんと言いますか、腕を組んでポージングして『まっちょ~い』っていう擬音まで聞こえて来そうですけど。
「お、目が覚めましたか」
「は、はい、それはもう……あの、ノワールさんとブランシュさんは、どこにいるのか分かりますか?」
「ん、その件については、こちらの手紙をシャーリィ様から預かっておりますぞ。不詳ながらこの私、クリムゾンが二人の代わりに少しの間だけ、クリスティナさまの護衛を務めることになりました」
「クリムゾンさん? それに手紙ですか!!」
んんん?
あの、私の知っているクリムゾンさんは巨大なマッチョーイっていう感じのタイタン族なのですが。そう言われて繁々と顔を見てしまいましたが、確かにクリムゾンさんのようてす。
それで、手紙を受け取って内容を確認しましたところ。
私は、魔族に狙われていたようです。
リバイアスを巧みに操り私を攫わせ、その後ろで私を生贄とすべく魔人にしようとしたそうで。
その私を助けてくれたのがペルソナさんやクラウンさん、ジョーカーさんの三人だったのですね。
でも、私を助けるために御三方は【型録通販のシャーリィ】の規約違反となり、当面の間は謹慎処分。手紙には【再教育】と書いてありました。
さらにはノワールさんとブランシュさんは、次にこのようなことがないようにと【神核】を高める修行を行うそうです。
「わ、私のために……三人が、そしてノワールさんやブランシュさんまで」
「ん、それは違いますな。魔族の企みを阻止した、その延長上にクリスティナさまが居たのです。因みにですが、修行と再教育の方々は、クリスティナ様の悲しい顔を見たくて、お助けしたのではありませんよ」
「え?」
「今の貴方は、自分自身を責め、悲しい顔をしています。ですが、それは違います。今、貴方が告げる言葉は『ごめんなさい』ではなく、『ありがとう』。悲しい、申し訳ない顔ではなく、いつもの笑顔です」
そのクリムゾンさんの言葉は、私の中に深く刺さります。
それは分かりますし、だからと言ってすぐに笑顔に戻ることなんて……。
「とまあ、ここまではシャーリィさまのお言葉。そこで私からもお言葉を一つ。今日あたりから商品の準備をしないと、クリスマス商戦を生き抜くことはできません。まさか、仕入れたものを無駄にするおつもりですか? 貴方は商人ですよね?」
にぃぃぃっ、と白い歯を輝かせて話しかけるクリムゾンさん。
なんと言いますか、このシュワルツっていう感じの笑顔は憎めないものがあります。
この、私を焚き付けるような言い方。
「悔しいですけど、クリムゾンさんの仰る通りですわ……」
そのまま私は天井を仰ぎ見ます。
私がなぜ狙われたのか、そしてまた、このようなことが起こるのか。
不安なことはいっぱいありますし、もっと真実を知りたいと思います。
でも、今は、助けてくれてことを皆さんに感謝します。
「ペルソナさん、クラウンさん、ジョーカーさん。ありがとうございます。ノワールさん、ブランシュさん、私はいつでも、お二人が帰ってくるのを待っています……シャーリィさま、この度は、ご迷惑をおかけして申し訳ありません、そして、ありがとうございます……」
【はい、聞こえましたよ……まだ、貴方には伝えられないことが多すぎますけど、しばらくは、クリムゾンと新しい担当で護衛とお仕事を回してもらいますので。そうそう、次にこのようなことがあっても困らないように、次の配達の時にはプレゼントをお届けしますね。それでは】
シャーリィさまの声が聞こえました。
そしてクリムゾンさんにも、その声は聞こえていたようです。
「ふぅ。それでは、クリムゾンさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ。私はノワールやブランシュなどとは作りがちがうので、一晩中どころか一年近く寝ずに護衛をしても疲弊することはないから安心するが良い」
「うわ、それはなんと言いますか、こう、う~ん。交代の方はいないので?」
「四人目のエセリアルナイトは居ないからなぁ。まあ、安心するが良い」
豪快に笑いながら告げられますと、逆に心配になりそうですが。
でも、少しは元気が出て来ました。
それでは今日から、また頑張りますか!!
ペルソナは抱き抱えていたクリスティナを白い馬車の中にある、空間拡張された部屋の中へと連れて行った。
そして、寝室にあたる部屋で彼女をベッドに横たえると、そのひたいにそっと手を翳した。
「鑑定……」
ペルソナが鑑定術式を唱えると、目の前に一枚の羊皮紙が姿を表す。
それは彼女の健康状態や呪詛に侵されているなど、外的要因による彼女の変化が書き記されている。
本来のペルソナが使える鑑定なら、出自から始まり血脈やステータス、そして普通には見ることができない【神によって隠蔽された加護】に至るまで、その全てを網羅することができる。
だが、それを行うのは対象者の許可があってのこと、今のペルソナに使えるのは治癒行為としての鑑定、および商人や冒険者が使うことができる【一般鑑定】のみ。
その羊皮紙に記されたクリスティナの状態を見て、ペルソナはようやくフッ、と笑みを浮かべることができた。
「体内魔素の魔人覚醒要素も消滅。大賢者の血が、彼女を守ってくれたようですか……クリスティナさんが、ここまで勇者適正が高いとは予想外でしたけど」
今のクリスティナは、素養はあっても大魔導師にはなれない。
すでに【シャーリィの魔導書】との契約を果たしているため、一人の人間が複数の魔導書との契約を行うことができないという【世界の理】により彼女は大魔導師への道を歩めない。
それを理解したのか、ペルソナもまた、頭を傾げてしまう。
「……魔王覚醒の時に必要なのは、時の勇者の存在。まあ、いまは柚月さんや緒方といった、今代の勇者の存在がありますから、魔素枠も無茶なことはしないはずなのですが……やはり、聖域の奪取が不可能となったことが、彼らに焦りを生んだのかもしれませんね」
手にした羊皮紙を丸めると、左手をパチンと鳴らす。
すると羊皮紙が一瞬で燃え尽き、ペルソナも静かに頷く。
「これで問題なし……それにしても。忙しすぎて喉がカラカラですね」
ペストマスクを外し、アイテムボックスから冷たい水が入った竹の水筒を取り出すと、それを口元に運び、一口、また一口と喉を潤した。
シャーリィからクリスティナの消息が途絶えたと聞いた時、ペルソナは精霊の祠から外に飛び出していた。
自分が使える力でクリスティナの消息をたどり、シャーリィからもヒントを得ると、ペルソナは急ぎクラウンとジョーカーを召喚しクリスティナ奪回のために馬車を走らせたのである。
そのあとは認識阻害効果を極限まで使用しリバイアス島に乗り込むと、そのまままっすぐにクリスティナの囚われている場所まで走り抜けた。
たとえどこにいようとも、結界によって閉じ込められようとも、精霊女王シャーリィの加護である【型録通販のシャーリィ】の会員であり、発注を済ませてある以上、担当者は届け先である契約者の場所を見逃すはずはない。
「……ふう。あとはクリスティナさまをサライの宿まで送り届け、この忌まわしい記憶を消すだけ……」
そう呟いてから、ペルソナは考える。
確かにこの体験は、彼女にとってもトラウマレベルの事件であることは間違いがなく。そしてクリスティナのことだから、自分が狙われたことにより、ブランシュやノワールを巻き込んだこと、さらにペルソナたちにまで迷惑をもたらしたことなどを悔やむのが目に見えている。
それならば、何も無かったことにした方が良いのではと思い、右手で【忘却の術式】を組み上げたのだが。
「……いえ、全てを語りましょう。その上で、彼女自身に選択してもらう方が良いのかもしれませんね。そうする事で、彼女にも何か、新しい力が覚醒する可能性がありますから」
歴代勇者のように、窮地に陥ると道の力が覚醒することがある。
そして彼女自身の成長のためにも、これは必要な事だとペルソナは考えていた。
「はぁ……相変わらず、あなたは面倒臭い性格をしていますね?」
ふと、背後から声が聞こえてくる。
そのクラウンの言葉に、ペルソナの顔が引き攣ってしまう。
「あ……あの、私は、なにか話していましたか?」
「クリスティナ様と一緒ですよ。その子もたまに、心の声が外に漏れていることがあるようですからね……と、はい、これは回収して来ましたので、術式破棄をお願いね」
クラウンがペルソナに小さな袋を投げて寄越す。
それを受け取ると、中に封じられているブランシュとノワールを解放すべく、すぐさま指を鳴らし袋の術式を破棄した。
──パチン!
一瞬で袋が消滅し、中に閉じ込められた二つの彫像が実体化し、ブランシュとノワールへと変化する。
「クリスティナさま!! 誠に申し訳ありません……このノワール、一生の不覚です。もう、言い訳も何もいたしません」
「済まない姐さん……」
ベッドに横たわっているクリスティナ、その前に跪いて頭を下げる二人を見て、ペルソナはマスクを被り直す。
「相手が悪かったよなぁ。まさか、リバイアスを謀ってクリスティナさんを攫おうなどと考えたとは、相手の方が一枚上手だっていうこと。今後のこともあるだろうから、シャーリィさまにもお話を伺った方がいいんじゃないかな」
「「畏まりました」」
ペルソナに深々と頭を下げるノワールとブランシュ。
「さて、そうなるとクリスティナさんをサライに届けるのは後回しにした方がいいか。護衛が足りなくなるから……と、クリムゾンにしばらくの間、彼女の護衛を頼むという方法もあるが」
【そうですね。では、クリムゾンに当面の間の護衛をお願いするようにと、カネック王にも打診しておきましょう。ペルソナ、貴方たちはクリスティナさんを届けてから、速やかに精霊の祠まで戻って来てください……今回の件は看過することはできませんけれど、貴方の独断専行についても考えなくてはなりませんから】
ペルソナの言葉に被さるように、シャーリィの声がその場に響く。
するとペルソナたちの顔も真っ青に変わり始める。
「ま、待ってください。確かにクリスティナさんを助けるために、クラウンとジョーカーに助力を仰いだことはやり過ぎであったかもしれません。ですが、あの場合はそうしなくてはならなかったというのは、ご理解頂けますよね?」
【……例えば。クリスティナさんが心から信頼している柚月さんに神託、もしくはカタログギフトのメッセージ機能を使って連絡を取るとか】
そうすれば、柚月はブランシュも攫われているときき、全力でクリスティナを助けに向かったであろう。
そこへのほんの少しの助力、その程度ならばシャーリィを目を瞑ることはできるのだが。
今回は、いきなり【型録通販のシャーリィ】が世界に干渉したことになる。
それは、本来はあってはいけないこと。
個人への干渉、そこからの文明の加速。
その程度なら、クリスティナが型録通販でさまざまな商品を取り寄せ、それを販売して来たとしても、そこからの模倣や研究などで、同じようなものを作るものがいつか現れるかもしれない。
シャーリィとしても、その程度ならば気にする必要もないのだが。
その一個人を、シャーリィのエージェントたちが『個人的理由』で助けに向かったことが問題なのである。
【いずれにしても、貴方たちはクリスティナさんを送り届けてから、精霊の祠まで戻るように。彼女には私から神託を授けますし、今し方、カネック王からも許諾を頂きました……】
「畏まりました」
その場で片膝をつき頭を下げるペルソナ。
そしてクラウンも自分の馬車に戻っていくと、先に精霊の祠へと戻っていく。
………
……
…
──港町サライ・常宿
「……気のせいでしょうか……」
私は夢を見ていたような気がします。
私は何者かに攫われ、どこかの島の屋敷に監禁され、リバイアスさまの巫女となるべく呪いのようなものを掛けられていたようです。
でも、そこでクラウンさんが助けに来てくれて、ペルソナさんが私を抱きしめて、薬を飲ませてくれました。
そこで私は安心して、どうやら寝てしまったようですが。
その中で見た夢。
それは、以前、精霊の祠で出会ったアクターさんが、ペルソナさんの仮面を着けていました。
それは本当に夢なのでしょうけれど、おそらく私が攫われていたのは真実で。
──がばっ!!
はい、意識がすっかりしゃっきりぽんとしました。
「ノワールさん、ブランシュさん!!」
周りを見渡しますと、横のテーブルでは腕を組んでうとうとしている真っ赤な鎧を身につけた男性の姿が。
こ、この方はどなたでしょうか?
全身ムキムキ筋肉質の、マッチョな方は。
なんと言いますか、腕を組んでポージングして『まっちょ~い』っていう擬音まで聞こえて来そうですけど。
「お、目が覚めましたか」
「は、はい、それはもう……あの、ノワールさんとブランシュさんは、どこにいるのか分かりますか?」
「ん、その件については、こちらの手紙をシャーリィ様から預かっておりますぞ。不詳ながらこの私、クリムゾンが二人の代わりに少しの間だけ、クリスティナさまの護衛を務めることになりました」
「クリムゾンさん? それに手紙ですか!!」
んんん?
あの、私の知っているクリムゾンさんは巨大なマッチョーイっていう感じのタイタン族なのですが。そう言われて繁々と顔を見てしまいましたが、確かにクリムゾンさんのようてす。
それで、手紙を受け取って内容を確認しましたところ。
私は、魔族に狙われていたようです。
リバイアスを巧みに操り私を攫わせ、その後ろで私を生贄とすべく魔人にしようとしたそうで。
その私を助けてくれたのがペルソナさんやクラウンさん、ジョーカーさんの三人だったのですね。
でも、私を助けるために御三方は【型録通販のシャーリィ】の規約違反となり、当面の間は謹慎処分。手紙には【再教育】と書いてありました。
さらにはノワールさんとブランシュさんは、次にこのようなことがないようにと【神核】を高める修行を行うそうです。
「わ、私のために……三人が、そしてノワールさんやブランシュさんまで」
「ん、それは違いますな。魔族の企みを阻止した、その延長上にクリスティナさまが居たのです。因みにですが、修行と再教育の方々は、クリスティナ様の悲しい顔を見たくて、お助けしたのではありませんよ」
「え?」
「今の貴方は、自分自身を責め、悲しい顔をしています。ですが、それは違います。今、貴方が告げる言葉は『ごめんなさい』ではなく、『ありがとう』。悲しい、申し訳ない顔ではなく、いつもの笑顔です」
そのクリムゾンさんの言葉は、私の中に深く刺さります。
それは分かりますし、だからと言ってすぐに笑顔に戻ることなんて……。
「とまあ、ここまではシャーリィさまのお言葉。そこで私からもお言葉を一つ。今日あたりから商品の準備をしないと、クリスマス商戦を生き抜くことはできません。まさか、仕入れたものを無駄にするおつもりですか? 貴方は商人ですよね?」
にぃぃぃっ、と白い歯を輝かせて話しかけるクリムゾンさん。
なんと言いますか、このシュワルツっていう感じの笑顔は憎めないものがあります。
この、私を焚き付けるような言い方。
「悔しいですけど、クリムゾンさんの仰る通りですわ……」
そのまま私は天井を仰ぎ見ます。
私がなぜ狙われたのか、そしてまた、このようなことが起こるのか。
不安なことはいっぱいありますし、もっと真実を知りたいと思います。
でも、今は、助けてくれてことを皆さんに感謝します。
「ペルソナさん、クラウンさん、ジョーカーさん。ありがとうございます。ノワールさん、ブランシュさん、私はいつでも、お二人が帰ってくるのを待っています……シャーリィさま、この度は、ご迷惑をおかけして申し訳ありません、そして、ありがとうございます……」
【はい、聞こえましたよ……まだ、貴方には伝えられないことが多すぎますけど、しばらくは、クリムゾンと新しい担当で護衛とお仕事を回してもらいますので。そうそう、次にこのようなことがあっても困らないように、次の配達の時にはプレゼントをお届けしますね。それでは】
シャーリィさまの声が聞こえました。
そしてクリムゾンさんにも、その声は聞こえていたようです。
「ふぅ。それでは、クリムゾンさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ。私はノワールやブランシュなどとは作りがちがうので、一晩中どころか一年近く寝ずに護衛をしても疲弊することはないから安心するが良い」
「うわ、それはなんと言いますか、こう、う~ん。交代の方はいないので?」
「四人目のエセリアルナイトは居ないからなぁ。まあ、安心するが良い」
豪快に笑いながら告げられますと、逆に心配になりそうですが。
でも、少しは元気が出て来ました。
それでは今日から、また頑張りますか!!
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