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エルフさん、商談される

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 さて。

 アルカ・トラスというハイエルフの存在について、テレビを見た政府関係各省からはなんとか日本に引き止めるようにという通達が届いた。
 しっかし…自分たちで動けば良いものを、わざわざ俺に直接連絡をしてきて上から目線での指示とはどういう了見なんだろうなぁ。

 こっちとしても、警察からは彼女が俺と直接話をしたいと言っていたので、それが実現すれば良いとは思っているんだが。
 あ、朝からアルカがどっかに向かった?
 それはどこに向かった? あ、大通り公園?
 あのハイエルフは観光でもしているのか?

 その次の報告が届いたとき、へやのまどのそと、眼下にアルカが飛んでいたのが見えた。
 まあ、機動隊とかがガッチリと道庁を守っているから近寄れないよなぁ。
 ちょいとこっちに来い‼︎
 そう手招きしてさてみたら、どうやら気づいたらしく俺も部屋の真横まで飛んできた。

「君が、昨日からお騒がせしている異世界のハイエルフさんだね? 私は土方唐十郎、この北海道の知事を務めている」
「はぁ、ようやくお会いできて光栄です。貴方達の言う異世界から来た賢者アルカ・トラスです。お会いできて光栄です」
「本当なら、正式にここに招きたいところなんだけれどね。貴方が法を侵したとか言って、警察は君を逮捕する気満々らしい」

 まずは軽く挨拶から。
 そして何とかこのハイエルフを俺の手元に置いておきたい。
 政府としては、彼女の魔法が欲しい。
 その技術で日本を強大国に仕上げたいらしい。
 まあ、相手は異世界からきた存在、故にどんな事をしても法律は彼女を守ってくれない。
 薬物による洗脳とかもやるんだろうなぁ。

 あー勿体ねえ。
 それなら、この子には、北海道にいて貰って、俺のもとで役に立ってもらうかなぁ。
 ここからは知事としてではなく、俺の話術の勝負だ。相手が何を欲しているのか、それを聞き出して提供する。その代わりに彼女にも協力してもらう。
 日本政府の思惑なんて知ったことか‼︎


「君が何を考えているのか想像はつくよ。けどね、国籍さえあれば、君の身柄は日本国民として保護されるよ? 当然法律は守ってもらうけれど、君に対して魔法で同行して欲しいと強要も出来なくなる」
「へぇ、随分と私に都合のいい話よねぇ。貴方、何を企んでいるの?」
「企んでいるのは事実だよ。まあ、人体実験とかではなく、きみの魔法を上手く役立てたいとは思っているけどね。この世界では、生きる為にはお金が必要だよ、そのきみの魔法を使って、仕事をすれば良い」

 よし、隠し事はなしで話をする。
 結果として、俺は勝った。
 因みにアルカに勝ったのではない、日本政府に勝った。
 すぐさま就籍申請許可を書いてもらい、超法規的に処理して貰う。
 あ、捻じ込んだのじゃなく処理の順番を早くして貰っただけだぜ、いくら知事な俺でもそこまで違法なことはしない。キチンと書類を揃えて、しっかりと処理して貰っただけだ。

 その結果、数週間後には、俺の手元には彼女の国籍申請認可が下りたという通知が届いた。

 氏名は自己申告のとおりのアルカ・トラスで。
 生年月日も、彼女の自己申請に基づいたものなので、西暦1640年2月22日。影月の月、花風の日なんて言われてもわからなかったが、指折り数えたらこうなった。
 記憶喪失なので両親は不明、本籍地は本人の希望で豊平区平岸のHTN放送局の住所になった。

 明日、これは彼女に正式に伝えられる。ザマアミロ日本政府、これで異世界のアルカさんは北海道民だ。
 これで日本国の法律によって彼女は守られる。
 さあ、ここからが俺の政治家としての仕事だ。
 どうやって、彼女に魔法を使って貰って仕事を依頼しようか。
 いっそ、俺の所属している政党の一員として雇うのもありだよなぁ、日本人だし。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 そんな北海道知事の未来の思惑など、まだ知らぬ存ぜぬのアルカさんはというと。

 先日の夜に放送された魔導スマートフォン、略してマドホンの製作映像については、放送後にとんでもない反響が起こった。

 まず、各種携帯会社からの電波法についての問い合わせ、マドホンを量産して販売しないかと言う売り込み、そして総務省からは電波法違反ではないかと言う問い合わせがあった。
 まあ、電波法とやらについては、マドホン本体を調べて貰えば問題ないし、電波なんて出ていないから大丈夫。
 |魂の護符(ソウルプレート)所持者にしか繋がらないっていうことを説明したのに、どこまで理解していることやら。

 それでも話し合いがしたいというので、後日、私の家の庭、テントの横にテーブルを並べて、各社まとめての質問会を行ってみた。
 量産については、材料を揃えられるのなら製作方法を教えると各メーカーには通達して貰った。
 これは便利だし、製作方法を教えるにしても私の手元には莫大な利益が舞い込んでくるから。
 でも、どうして材料を見た瞬間に頭を抱えるかなぁ。


「では、一旦休憩としましょう。その上で、各メーカーさんは今後のことについて考えてみてくださいね」

 そう告げていったん解散。
 私は庭の片隅で、マドホンを量産する。
 錬金術の魔法には、|量産化(プロダクション)という便利な魔法があって、自分が作ったものならば、サンプルさえあれば同じものが量産できる。
 当然ながら原材料は必要だけど、同じものを大量に作れるので重宝している。
 私の場合、普段は魔法薬を量産するのに使っている。
 また、|深淵の書庫(アーカイブ)を使って対象の構造を解析したものならば、その構造パターンを|記憶水晶球(メモリーオーブ)という魔導具に転写しておけば、やはり原材料は必要だけど同じものが作れる。
 

「あの、アルカさん、今は何を作っているのですか?」

 Heard bankというメーカーの人が話しかけてきた。まあ、目の前で魔導具作っていると気になるよね?

「マドホンを魔法で量産していますけど?」
「そ、その魔法で量産できるのなら、是非とも発注したいですが」
「あ、無理。材料が勿体ないから、これは知り合いにプレゼントする分として少数だけ作っているだけだし」
「それでは、サンプルとして売っていただけますか? 社に持ち帰って解析したいのですよ」

 つまり、コピーを作るということだね?
 馬鹿正直でよろしい。

「後で材料費を計算するから。まあ、予測では金貨百枚程度で済むと思うよ?」
「そうですか。では、後ほど……」

 うちの世界じゃ金貨一枚が銀貨100枚、銀貨が一枚あれば朝と夜の食事が普通に食べられる。
 こっちの世界だとどれぐらいの価値があるのだろう? このあたりの擦り合わせも必要だなぁ。

 そんなこんなで昼休みも終了。
 私の手元には、量産したマドホン35個が並べられている。


「先程、本社と相談したのですが。アルカさんは、我々現代の技術で魔導具を作ることはできますか? それが可能なら、是非とも我が社に技術員としていらして欲しいのですが」
「それは我が社も同様ですぞ、開発主任としての席も用意します」
「そ、そ! それなら我が社は‼︎」

 次々と条件を出してくるのはいいんだけれど、私は、こっちの技術なんて知らないんだよ? なんでできること前提で話を進めるかなぁ。

「まあ、皆さんのお気持ちも理解できますが、私はまだ、この世界に来て一月も経っていないのですよ? そんな責任あることはできませんし、そもそも私は、皆さんが誰なのかも知りません。ですので、その申し出はお断りします」

 キッパリと断る。
 いや、どこの馬の骨とも知らない人が美味しい話を持ってきたとしてもさ、それに軽々しく乗るのは危険だよ?
 これが例えば、商業ギルドに登録している大商会で貴族の後ろ盾があるとかなら話は別だけどさ、この世界って商業ギルドは無いからね。
 貴族制度も廃止されているんだから、皆平民でしょ? 何を持って信じれば良いかっていうと自分の目しかないから。

 そのまま午後もダラダラとした話が続いて、夕方には皆さんお帰りになった。
 お土産にマドホンを買いたいっていう人については、後日、金貨持参でもう一度来てくれるらしいからそれはヨシ。


「はぁ~いくら魔法がない世界だからって、此処まで食いついてくるとドン引きだよ」
「まあ、珍しいのが半分と、あと半分は自社が魔導具を販売していますっていう看板が欲しいのですよ」

 晩ご飯を庭で食べていると、高橋さんもやって来たので二人分用意してディナータイムを楽しんでいる。

「そういうものかねぇ。まあ、マドホンの話は今日で終わったので、もう煩わしいことはないからね」
「あら、その件ですけれど、自動車メーカーがアルカさんにお会いしたいそうですよ?」
「自動車メーカーって、あの鉄の無人馬車のメーカー? 私はそんなの持ってないわよ?」

 あの鉄の無人馬車には私も興味がある。
 アレを是非魔導具化したいとは思っているけれど、今は足元を固める時期だから無理。

「アルカさんの持っている魔法の箒を量産化したいそうですよ?」
「あ~、なんでアレを? 魔力がないと乗れないよ?」
「そうですよね。でも。一度お会いしてお話だけで持って連絡が18社程来てますよ?」

 え?
 今日の5倍近く?
 絶対に無理。

「全部断って頂戴。今日だけでもクタクタになったんだから」
「ええっとですね。では、5社だけでもどうにかなりませんか? うちのメインスポンサーのメーカーだけでも」

 あー、スポンサーってあれか、番組作る製作費を稼ぐために番組枠の中にコマーシャル入れているやつか。
 この制度を近藤局長から説明された時はあんまり実感わかなかったんだけれど、そのメインスポンサーがヘソを曲げたら製作費の都合がつかなかったり収益が減るって言っていたよなぁ。

「あ~、ならその6社だけね。ここの土地を借りているから断りづらいわ」
「ありがとうございます。では明日にでも連絡しておきますので。日時が決まったらマドホンで連絡したら良いですか?」
「それで良いよ……って、そうだ、これ渡しておくわ」

 |空間収納(チェスト)から新しいマドホンを取り出して、高橋さんに手渡す。

「???」
「最新型マドホンよ。少し多めに作ってね、お世話になった人にお礼にあげようと思ってね……ちょっと待っててね?」

──ヒュゥゥゥゥ
 高橋さんの足元に魔法陣が広がる。
 |魂登録(オンリーワン)を発動し、マドホンと高橋さんの魂を結びつける。

「こ、これってなんですか?」
「|魂登録(オンリーワン)っていう魔法でね、アイテムを所有者の魂に登録するのよ。こうすれば、そのマドホンも高橋さんの意思で自在に出し入れできるし、貴方から離れたところに移動したら自動的に消滅するから」
「うわぁ、忘れ物知らずの魔法ですか?」
「いや、戦術魔法だよ。もともとは戦争に行く時に、自分の所有している魔導具や武具を登録するものよ」

 その説明では、高橋さんにはピンと来ないらしい。

「戦争に行って、もしも敵に捕まったり死んだ場合に、自分の持っている強力な魔導具が敵の手に渡らないようにするためのものよ。まあ、大戦争が終わってからは忘れ物防止魔法として広まったから、間違いでもないかなぁ」
「な、成る程、魔法の影に歴史ありですか」
「そこまで大袈裟じゃないけどさ。生活に必要な魔法の大半は、戦争期に生み出されたからなぁ」

 あ~。
 そう言えば、魔導大戦時にはかなり魔法を開発したよなぁ。殆ど使えなかったり微妙な魔法ばっかりだったけどさ。
 特に、強制的に性転換する魔法なんて、依頼されて作ったのは良いんだけれど、あれ何に使ったのかなぁ?
 まあいいや、明日は自動車メーカーとの話し合いなんだろうなぁ。
 



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