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エルフさん、行き先を探す

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 さて、いざ放送局から出てきたのは良いのだけれど、これからどうするかなんて考えていない。

 そもそも、私は元の世界に戻りたい。
 けれど、世界階層を超える多次元転移なんて術式を、私は知らない。
 普通の転移ならできるよ?
 一度でも見たことのある光景になら転移できるからね。

 取り敢えず、私は一気に高度を上げた。
 ようやく落ち着いて、この世界を見ることができる。
 そして遙か高い空から街を見下ろす。

 そこには、魔導王国よりも果てしなく大きい大都市が広がっていた。

 緑がかなり少ないのは、人がそれだけ多く住んでいるからだろう。
 外敵から身を守る城壁がないのも、この国が安全な証拠だ。
 巨大な鉄塔のような建物がいくつも連なってある場所、あそこが、高橋さんの記憶によると大通りという街の中枢のようだ。

「はぁ。最初からこうすればよかったのかもなぁ。ここから、この都市の一番偉い人がいる場所まで行って、直接話をすればよかったんだよ」
『ピッ……それが、現時点での最適解でしょう』
「|深淵の書庫(アーカイブ)もそう思うよね。私も今になって後悔しているけどさぁ。まあ、街道沿いに飛んで、誰かから偉い人がいる場所を教えてもらおうか」

 まず、足元で叫んでいる警察や機動隊が邪魔。
 だったら、ここから離れれば良い。
 周りをぐるりと見渡してみたら、赤い巨大な鉄塔が立っている場所が見えたので、あそこまで向かおう。
 
「あそこは……テレビ塔? へぇ、そう言うのもあるのか……」

 こめかみに手を当てて、高橋さんの記憶から名前とか地名を検索する。
 あっちの世界から、|深淵の書庫(アーカイブ)で検索して作った『知識のオーブ』を取り込むことで、すべてが自分の記憶になる。
 だけど、こっちの世界は魔素が薄いので、まるで羊皮紙に書き殴ったかのように頭の中に高橋さんやこの世界の文化がすりこまれている。
 結果、一々頭の中に検索をかけないとならないのが、実に面倒である。

 まあ、まずは大通りに向かうとしましょう。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 大通り公園。
 札幌市中央区に位置する、長い歴史を持つ防火公園である。
 古くは、火防線を設けてそれより北を官地、南を民地として格子状の区画整理を行っていったのが始まりであり、この火防線となった場所が大通り公園となった。

 その大通り公園一丁目にあるテレビ塔、その近くまでアルカは飛んできた。
 昨日の夜の特番を見た大勢の人々は、まさかここにアルカがやってくるとは思っていなかったらしく、アルカを見て手を振っている。

「お~、ここはあれか、王城に向かう街道のように大きいなぁ。そこに公園まで作って、人々が休んでいる……こう言う光景は、私の世界も異世界も変わらないんだなぁ……」

 そう呟きつつ、ゆっくりと高度を落とす。
 万が一にも捕まえられないように高さ3m辺りで停止すると、足元に集まってきた人に問いかける。

「この街の一番偉い人はどこにいるの?」
「一番偉い人? 市長か知事の事?」
「ええっと、一番権力を持っている人かな? それなら知事じゃないかな?」

 あ、そうかそうか、高橋さんの記憶にもあったか。
 よし、それなら|深淵の書庫(アーカイブ)に高橋さんの記憶を登録しよう。
 
「そ、それそれ、その知事さんってどこにいるの?」
「北海道庁かな?」
「そこまで案内してくれる?」
「え、構いませんけど……きゃぁぁぁ」

 善は急げ、すぐに高度を落として案内してくれる女性の手を引いて箒に座らせると、すぐさま高度を上げた。
 だってさ、警官が二人叫びながら走ってきたんだよ? そりゃあ逃げるさ。

「お、落ちる、落ちるぅぅぅ」
 
 悲鳴を上げている女性だけど、魔力によるシールドが働いているから落ちないんだよ?

「落ちないから大丈夫だよ。ほら、落ち着いて……|鎮静化(セディション)……」

 後ろに座っている女性に、精神を落ち着かせる魔法を施す。すると、それまで騒いでいたのがス~ッと落ち着いていく。

「あ、あれ……怖くない」
「魔法で落ち着いてもらったよ。ほら、あんた達の世界で言う、ジェットコースターと思えば怖くないでしょ?」
「いえ、あれはちゃんとレールがあってですね、安全装置もあるのですよ?」
「私の魔法だって、安全装置があるからさ。じゃあ、道案内してくれる?」
「はい‼︎ こっちです」

 そのまま女性に案内してもらい、私は道庁とやらに向かう。
 途中、真っ赤な煉瓦造りのしっかりとした地で物が見えたので、あれがそうかなぉと思ったのだけれど、その後ろの巨大な四角い塔がそうだと言う。
 なんて殺風景な建物なんだろう。


………
……



「ここが道庁? 知事さんにはどうやったら会えるの? 謁見の申請が必要?」
「謁見…。まあ、そうですね。その手続きは必要ですよ」
「成る程、それはあの塔の中でできるの?」
「はい。でも、今はちょっと難しいかなぁ」

 そう呟きながら、女性は眼下を見る。
 そこには10台ほどのパトカーや機動隊のバス、そして大勢の警官が集まっている。

「ふぅ。まあ、常識的に考えたらそうなるよなぁ」
「そうですよ」
「だよねぇ。隣国の賢者がいきなり王城に飛んできて、その国の宰相と話がしたいって叫んでいるようなものだよ。どうするかなぁ」
「まあ、見方によっては宣戦布告みたいなものですから……あれ?」

 ふと女性が道庁を見たとき、上の階でアルカ達を手招きしているように見えた。

「アルカさん、上で呼んでますけど?」
「うえ? どこどこ?」
「ほら、あそこ……って、あれは土方知事ですよ‼︎」

 あ、あの人が知事なのか。
 なら都合がいいや、そのまま近くまで行ってみよう。
 ゆっくりと上昇して、知事とやらのいる部屋の高さまで移動する。
 この高さだと、窓は開かないし防音もしっかりしているので声も届くかどうかわからない。

 まあ、物は試しに窓際まで移動すると、ちゃんと換気用に開く窓があるみたいだね。そこを少しだけ開けて、知事がこっちに来いって手招きしている。
 その背後には、警備員らしき人たちが集まっている。
 
「君が、昨日からお騒がせしている異世界のハイエルフさんだね? 私は土方唐十郎、この北海道の知事を務めている」
「はぁ、ようやくお会いできて光栄です。貴方達の言う異世界から来た賢者アルカ・トラスです。お会いできて光栄です」
「本当なら、正式にここに招きたいところなんだけれどね。貴方が法を侵したとか言って、警察は君を逮捕する気満々らしい」

 それについては、知らんとつっぱねたいところであるけれど、こっちの世界のことを知らなかったので頭だけは下げておく。この人は、敵に回ることはない、そんな気がするからね。

「それは申し訳ない。まさか異世界からの転移者に対して密航が適応するとは思わなかったもので。身分証明をしろと言われても、私はこれしか持ち合わせていませんから」

 右手で|魂の護符(ソウルプレート)を取り出して隙間から手渡すと、土方知事は裏表をしげしげと見ている。

「確かに、私たちの世界の文字ではないですね。これでは身分を示すこともできませんからなぁ……」
「それで困ってましてね。かと言って、この国の住民になる気はありませんし」
「そうなのか?」
「ええ。私の中の|高橋記憶(メモリー)によりますと、国籍を得た時点で制約が多くなりますし、それなら自由の国アメリゴに向かうと言う手も考えましたので」

 これは事実。
 日本よりもアメリゴという国の方が自由が多い。
 但し、私の力を悪用とする可能性もあるので、何処かのんびりと生きられる場所があれば日本以外でも構わないとも考えている。

「アメリゴか。それは不味いな」
「不味い? 私がアメリゴに向かって日本に何か不利益でも?」
「ああ、君の魔法は、莫大な富を生み出すことができる。いや、それだけではない、今現在、私たちが抱えている様々な問題を解決してくれる。そのような力を持つ君を、他国にみすみす送りだすことはできないのだよ」

 はあ。
 やっぱり既得権益にも関わっているんだろうなぁ。
 それにしても、この人も自分たちの都合のいいように私を使いたいだけじゃないか。
 なんだ、信用して損した。

「まあ、ここまでは知事としての意見。私本人としては、君の希望をある程度叶えてあげつつ、こちらにも色々としてもらいたいというところではある」
「私の希望は、のんびりと暮らしたいだけ。なので、何処か辺境でも構わないので、私が生きられる土地が欲しいだけだよ」
「まあ、その為にも、君にはこの日本に国籍を置いて欲しいのだけどね。国籍がなければ、私としても君の望みを叶えることはできない」

 ふむ。
 それはなんとなく理解できるけど。
 国籍を置いたとして、色々と強制されるのは断りたい。

「君が何を考えているのか想像はつくよ。けどね、国籍さえあれば、君の身柄は日本国民として保護されるよ? 当然法律は守ってもらうけれど、君に対して魔法で同行して欲しいと強要も出来なくなる」
「へぇ、随分と私に都合のいい話よねぇ。貴方、何を企んでいるの?」
「企んでいるのは事実だよ。まあ、人体実験とかではなく、きみの魔法を上手く役立てたいとは思っているけどね。この世界では、生きる為にはお金が必要だよ、そのきみの魔法を使って、仕事をすれば良い」

 ほう。
 確かに賢者としての知識はこっちでは通用しないだろう。けれど、魔法ならあるいは役立つかもしれない。

「そこで提案だ。私は君に、日本国の国籍が取れるように手続きを代行しよう。就籍許可申請と言ってね、何らかの理由で日本国籍を持っていない人に日本国国籍を与えることができるのだよ」
「へぇ。なら、お願いしようかな」

 この辺りが交渉のターニングポイントだろうなぁ。
 
「できるなら、私の家を建てられる場所も欲しいんだけどね。あまり人目につかない場所で、広いところ。もしくは狭くても良いから森がいい」
「探しておこう。どの道、国籍を申請するなら本籍地や住所も必要になるから。どれ、この紙に君の名前や年齢など、書ける範囲で構わないから書いてきてくれ。明日にでもここに持ってきてくれたら、すぐに申請して取れるようにはしておくから」

 土方は一枚の用紙を私に寄越した。
 まあ、ほとんど何も書いていない用紙だけど、こっちの世界の文字でなんか記してあるのは理解できた。

「じゃあ、明日またくるわ。それと、今日もHTN放送に帰るんだけれど、あの警官とか機動隊は退去してもらって。なんかあの人たち、私の話を聞かないでウザいから」
「まあ、そう邪険にしないでくれ、彼らも公務で動いているんだからな」

 それで話はおしまい。
 あとは後ろに座ってぼーっと話を聞いていた彼女を大通り公園に連れて帰ると、私もHTN放送局まで帰ることにした。
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