上 下
15 / 30

レンタル15・無茶振りしたけど、相手もかなり無茶だった

しおりを挟む
──魔導レンタルショップ・オールレント
 
 バチカン市国からの依頼。
 それは、世界に三つ存在する【聖杯】の真贋を確かめること。
 そのためにルーラーには海外に向かい、現地にて直接鑑定をお願いしたいということであったが、ルーラーはあっさりと断りを入れる。
 その理由が、『飛行機に乗ることが嫌だから』という理由であることは、弟子の関川ひばりしか知らない真実。
 そして断りの話は外務省経由でバチカン市国に届いたのだが。


「……あの、師匠。外務省からの連絡が届いているのですが」

 いつもの、のんびりとした午後。
 昼休みで来客らしい客はおらず、常連が喫茶コーナーでのんびりとおしゃべりしている時間。
 ひばりが書類を手に、カウンターの中のルーラーの元にやってくる。

「ほう、此の前の件じゃな。どれ……」

 受け取った書類を確認すると、バチカンとしてはルーラーと会うことができなかったことが残念であるという一文を乗せ、直接日本に聖杯を持っていったなら、鑑定をお願いできるだろうかという質問が記されている。
 
「ひばりさんや。直接日本に来るというのなら、こちらとしても断るという道理はない。そう連絡をしてもらえるか?」
「わかりました。でも、来ないと思いますよ」
「ほう、それは何故?」

 ルーラーにはわからないが、聖杯、つまり聖遺物として認定されているものは管理環境などがしっかりと整えられている。
 それをわざわざ、鑑定するという理由だけで持ってくるとは思ってもいない。
 しかも、いざ鑑定となると保管しているバレンシア大聖堂所蔵、ジェノヴァ大聖堂所蔵、そしてメトロポリタン美術館所蔵のメンツも掛かってくる。

 自分のところのものこそが、聖杯である。

 そう信じているにもかかわらず、それが偽物だと知ったなら。
 信じてくれているものたちに、どう説明したら良いのかわからなくなるだろう。
 それ故に、どこも鑑定にはやって来ない。
 それが、ひばりの予測。
 ルーラーにそう説明すると、髭を撫でつつルーラーが頷く。

「どこか一ヶ所が動いたら、残りも動くじゃろうなぁ。じゃから、報告書にはこう一言説明を付け足してくれるか?」
「それは構いませんが、どのような一文を?」
「『鑑定結果は、ローマ法王のみに伝える。そして、どのような結果となっても、聖杯についての対応は今までと変わらない』と。頼むぞ」

 つまり、鑑定してもその結果を知ることはできない。
 知っているのはルーラーとローマ法王のみ。
 結果の如何に関わらず、聖杯についての対応は変更しない。
 そうすることで、どの聖杯が本物であるかという真実は守られる。

「はい、わかりました」
「まあ、そうそうすぐには来ないじゃろうから……なぁ」

 にこやかに話すルーラーだが、カウンターでコーヒーを飲んでいる飯田が、新聞の一面をルーラーに見せる。

「なあルーラーさん。来週から北海道近代美術館で、『聖杯と騎士伝説』って言う展示があるようだが。メトロポリタン美術館主催らしいが、ここに聖杯も特別展示って書いてあるぞ?」
「……ほう? それはまた、予想外な。どうやら一番乗りは、メトロポリタン美術館となるのかな?」

 少しだけ嬉しそうに、ルーラーが呟く。
 実は、ルーラーも聖杯については興味があった。
 いろいろな伝説が伝えられている神器の存在、それは故郷にもいくつも存在したから。
 現代世界では神の奇跡というものに触れることはそうそうないが、ルーラーのいた世界では神からの加護や奇跡の顕現は、高位神官によって行われている。
 こっちの世界では、どのような力が現れるのか気になっているのである。

………
……


──翌日・夕方
「師匠、予約のお客様がいらっしゃいましたが」

 夜七時。
 本来ならばオールレントは閉店時間。
 だけど、この日は北海道近代美術館へ出張鑑定に向かう。
 そのために、メトロポリタン美術館からやってきたキュレーターや関係者たちが、ルーラーを迎えにやってきたのである。

「ふむ。それじゃあ出かけるとしようか。ひばりさんは閉店業務が終わったら、帰って構わないからな」
「お手伝いは必要ありませんか?」
「まあ、チラッと見るだけじゃから問題はないな……」

 すこし残念そうなひばりに後を任せて、ルーラーは美術館に向かう。
 そして特別展示室にある【聖杯】をケース越しに確認してみる。

「ヒュー、マ・ラーン。イーリッヒ……」

 魔法後による詠唱がしばらく続くと、やがて展示ケースの中の聖杯がほんのりと輝き始める。

「こ、この光は、まさしく聖杯の光なのですね?」
「いや、わしの鑑定魔術の発動光で、聖杯の力でもなんでもないわ。このまま少し待つと、わしにしか見えない文字が浮かび上がってきてな……」

──ブゥン
 そう説明している最中にも、聖杯の表面に光の文字が浮かび上がってくる。
 それを読み取ると、ルーラーは軽く頷いて見せた。

「どうですか? 我がメトロポリタン美術館の聖杯こそが、本物の聖杯ですよね?」
「答えは秘密じゃな。そういう約束で、鑑定をしているのだからな。では、残り二つの鑑定結果が出てから、ローマ法王に親書でも送ることにしようか」

 結果を知らなかった関係者はがっかりしていたものの、ルーラーが鑑定する姿をしっかりと動画に収めている。
 それは後日、宣伝用に使用されたのだが、それを知った残りの二ヶ所の大聖堂も、極秘裏に聖杯を手に来訪。
 こっそりとオールレントを訪れて、鑑定を依頼することとなった。

 
 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


──一ヶ月後、バチカン市国
 ルーラーから届けられた小包。
 それには木製の小さな盃が一つと、ルーラー手書きの鑑定結果が同封されている。

 ちなみに鑑定結果は、『全てが神器であり、聖杯というにふさわしい』。
 大勢の人々の信仰を集めた結果、三つの聖杯候補全てが【神威】を纏ってしまったらしい。
 そして、最後に記されている【本物の聖杯】についての鑑定結果を見ると、法王は満足したように頷いている。
 この結果は、表に出ることはない。
 法王のみが知る真実として、未来永劫、誰にも語りたがららことは無くなった。

 そして、ルーラーから送られた木製の盃を窓辺に飾ると、法王はそれに向かって十字を切ると、静かに祈りを始める。

 最後の鑑定には、こう記されていた。

『神は、それを知ることにより争いが起こるのを良しとしていない……と、わしに告げてくれた。じゃから、このような結果となった。
 なお、その盃は、目が覚めたら枕元に届けられてあったから、正当なる所有者であるローマ法王庁へ送らせてもらった。
 神は、いつでも見ているそうじゃよ……』

 と。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

うっかり故郷を滅ぼしたくないので、幼馴染と旅に出る!

一花カナウ
ファンタジー
あたしが生まれたこの世界にはこんな言い伝えがある。 『十年に一度、年頃となる少年あるいは少女を町から一人選び神に差し出せ。 選択が間違いでなければ、町に幸福が訪れるだろう』 つまり、選択に間違いがあれば町には不幸がやってくる。 あたしことミマナ=グラシアは、 町長の見た夢が原因で、町の運命を左右するといわれる町の代表に選ばれた。 十六歳になったばかりの夏の出来事だった。 -------- 恋愛成分が残念な方向に伸びてしまっているような気がしないでもない、ご都合主義ラブコメ冒険ファンタジー。 -------- 2019/03/19 21時HOTランキング53位感謝!

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...