褒美は変わった皇女様

よしき

文字の大きさ
上 下
4 / 21

侯爵と皇女

しおりを挟む
 サージャリオンは、皇女アナスタシアとは普段から顔を合わせてはいた。何しろ近衛兵として、皇族を守ってきたのだから、当然のことである。
 しかし、警備をしていた訳で、気軽に話をすることなどはない。(もっとも、皇帝は、いつも気軽に声をかけてくれるのだが・・・)
 と呼ばれる程、見た目は美しく履かない皇女が、降嫁してくるのである。それも3ヶ月後に・・・
 サージャリオンは、急いで侯爵家に戻り、家令に家の修繕やアナスタシアへの贈り物の準備をさせることにしたのだが。
 皇帝からの使いの者が言うには、式も神前で違う以外はこじんまりと行うと言うし。ドレスも全ての必要品は、皇女が持参すると言う。侯爵家に於いては、無用な出品も必要がないとのお達しだった。
「旦那様、せめて寝室と奥方様の自室だけは改装なさせては?」
と、家令マチフスの助言を行うのみであった。(もちろん、侯爵家だけあるので、作りは豪華であるが、古い屋敷でもあるのでそうすることとした)
 しかし、屋敷の者たちも皆、口を揃えて不思議がった。
「普通、迎える側の家は、降嫁する方の身の回りのものを整えて迎えるのが普通なですが・・・?」
「皇女様とのご結婚なのに、どうしてかしら?」
「きっと、皇女様には何か秘密があるんだよ!」
しかし、サージャリオンは、それを嗜めるように使用人達に徹底をさせた。
 サージャリオン自体、あまり噂話は好きではなかったこともある。自身も、『英雄』と言われることは好きではなかったこともあるのだが。

 そんな中、後一月で婚礼が行われると言うある日のこと。サージャリオンは、城に呼ばれ初めて皇女にお茶に誘われた。やっと周囲でも降嫁の話が物珍しくなくなった頃のことである。

 薔薇の咲き誇る城の庭にテーブルが用意されて、2人は初めてお互いの顔を間近で見る事となったのである。
「ジェットラム侯爵・・・いえ、これからはサージャリオン様ですわね。」
皇女の金糸の髪は、今日も美しく結い上げられている。白い肌は白磁の様で、触れてしまったら壊れてしまいそうだ。
「皇女様にはおかれましては、ご機嫌麗しく・・・」
「ああ、私の事はアナスタシア・・・シアとお呼びください。」
「では、シア様。私の事もサージャとお呼び下さい。」
 「あら、そうね。ではサージャ、陛下の事、怒っておられます?」
 皇女は、そうニッコリと笑いながらカップに入ったお茶を口に入れた。ではなく、と。
「私如きに少々お戯れが過ぎるかと。」
サージャは、実直にそう語った。
「あら、『英雄』と言われる割には控えめなのですね?」
 ふふふっと、皇女は笑った。それを見て、サージャはため息をつく。
「私は本来貴方様や陛下を守るための者。この様な席に呼ばれる様な者ではありません」
 「なぜ?私、貴方に嫁ぎますのに?それとも、顔を見ずとも結婚してもよろしかったのでしょうか?」
 「いえ、ご尊顔を・・・」
 「あなた、本当に昔から堅物です事。私は子供の頃からあなたの事を知っているのに。サージャ、あなたは私の事を全く知らないのですね?」
 シアは、表情一つ変えずにサージャにお茶を飲む様に勧めた。仕方ないとばかりに、サージャは、お茶を口にする。
 それを見ながらシアは、話始める。
「一つ聴きたかったのです。陛下の戯れと知っていながら、私との結婚を承諾してくださったのは、何故ですの?」
「それは・・・」
不自然な間合い。
 皇女は、ふふふと笑いながら細い指を組み、その美しい顔を乗せた。
「いいのですわ。言いたくない事を答えなくても。」
 皇女は、そういうと、少し楽しそうな表情をした。
「私、生まれて初めてですの。こんなに心が動くのは。」
「サージャ、一月後が楽しみですね」
 そういうと、皇女は席を立った。

 
 
 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...