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お姉様、策を講じる。

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今思えば、アルフォンスと妹のエリーゼは私が婚約破棄される前から逢瀬を重ねていたはず。

前の人生で私は二人の怪しい点に気付いていたのにも関わらず愚かにも、アルフォンスを愛していたからそんなはずはないと現実を受け止められずに現実から目を逸らしていた。

だけど、当時を振り返ると屋敷の中でアルフォンスがエリーゼの部屋の方からやってきたりと疑いようのないことはことは多々あった。






そうとなれば早速、

復讐の準備をしないとね。





私には昔から使用人はつけられなかった。
この屋敷に誰も私を気にかける人もいない。


まあ、コソコソと復讐の準備するにはうってつけね。


とはいえ、今の私はまだ十五歳で学生だから学園には通わないといけない。

私は懐かしいの制服に袖を通し、朝食を食べに向かう。




「おはようございます。」


食堂に入れば、懐かしい顔が並ぶ。


私が声をかけても両親は無反応。

私が挨拶をしても誰も何も言わないのは当たり前だったから今更何も思わないけれど、挨拶もなしに入ればもっとひどい態度を取られるのよね。

私を居ないものとしている両親の態度。そして、愛されて当然という顔をして私の大事なものを次々奪っていたエリーゼ。



昔の私はこの三人の愛情が欲しくて仕方がなかった。
少しでもいいから家族から愛されたかった。
だから、エリーゼの分かりやすいウソも信じたかった。

たったひとりの私の味方を奪われていると知ってしまうのが怖かった。

いえ、今思えば確信していたからこそ目を背けていたのよね。



けれど、もう私は貴方達の愛なんていらない。
首が斬られない未来を迎えて、エリーゼの悪事を白昼のもとに晒してやるわ。



「お姉様…今日はとてもよく食べられますわね。」

「ぞうかしら。」

時間が巻き戻る前は、処刑されるまで何ヶ月もまともなものを食べられなかった。

だからたとえ使用人と同じ食事でも今は喜んで食べられたわ。

そもそも公爵家の料理人が作る料理だからなんでも美味しいはずよね。

食材はちょっと質が悪かもしれないけど、、腐ってなければどれも美味しく感じるわ。



「ありがとう、美味しかったわ。」

つい満腹で幸せな気分になり、食器を片付けている使用人の子にそう言えば、ギョッとした顔をして驚かれた。

そうよね。
私が話しかけてくることなんてなかったものね。



「機嫌がよろしいのですね、お姉様。
何かいい事でもおありに?」


朝食終わりに両親がいなくなったところでエリーゼが話しかけてきた。

そういえばこの子はいつも両親のいないところでは親しげに話しかけてきた。

私達が仲がいいとお父様とお母様がよく思わないでしょう?というエリーゼの言葉を昔は信じていたけど、今思えばお父様とお母様に聞かれると私を裏でイジめていると分かるようなことばかりしていたからよね。鈍い私は馬鹿にされていることも分からずにいつまでもこの子のことを信じていた。


顔だけは天使みたいに愛らしいから誰もが騙されるのよね。





「もうすぐ魔法カメラを学園のゼミで扱うの。
花の季節だから屋敷の裏の庭を撮ろうかと思って楽しみなの。」


「お姉様は魔法研究がお好きですものね。」


「新しいカメラが開発されたそうよ。撮ったらエリーゼにも是非見てもらいたいわ。」


まあ、その時カメラに映っているのは可憐な花々ではないでしょうけどね。


 


***



貴族の子息令嬢は適齢期になると剣術か魔術どちらかを専攻して学園へ通う。


私の通う学園は、魔法を操れる貴族の令息令嬢達が通っている魔術専攻の学校。稀に平民でも魔法を発動出来た者もいるから生徒全員が貴族という訳ではないけれど、魔力ゼロの両親から魔力を持った子どもが産まれる可能性はゼロに近い。
でも、平民上がりの魔術師は魔力が異常に強いという統計があるからこの学園は平民の魔術師は学費が免除されている。



割と自由な校風で、授業は属性ごとに行われ、それとは別に学生サークルや教授達が開くゼミの活動もある。

以前の私は友人がいなかったからゼミの研究に没頭することでその寂しさを紛らわせていた。



「やあ、リビア。」

「おはようございます、クリフト教授。」


ボサボサの髪に分厚いメガネのクリフト教授。魔法道具の開発を専門にしているこのゼミ。初めは自分の属性とは関係の無い魔法道具を対象にしているゼミだから、嫌な思いもせず余計なことを考えずに済むのではと思って入ったゼミだけれど、クリフト教授は人間に興味がない方でゼミに入っている生徒も少なかった。今思えば私の人生で唯一の居場所はここだった。


私の大切なクリフト教授のゼミ。

またここに通えるなんて、と心がいっぱいになる。





「見てごらんよ。隣国から仕入れた魔法掃除機だよ。」



言われて床を見ると、そこには直径50センチくらいの丸い形の金属の塊が機械音を小さく上げながら動いている。





「なんだか小動物みたいで可愛いですね。」



「そうだろうまるで仔犬のようだ!
健気に床を掃除する姿はまるで主人を追いかけるまさに仔犬だよ!」


そう言って魔法掃除機に可愛い可愛いと話しかけているクリフト教授。


天才なのに変人といわれるのはこの異常なまでの魔法道具愛のせい。



ボサボサの髪と分厚いメガネで顔もまともに分からないけれど、前の人生でも確かクリフト教授は結婚なさらなかった。

いい歳みたいだから奥さんをもらって、食生活をきちんと管理してもらった方が私も安心して学園を卒業出来るのだけど。教授は面倒くさがりでもあるから、一生結婚するつもりないのかもしれない。





それはそうと、



「教授、そういえばこの間言われていた新しい魔法カメラの件はどうなったのですか?」


「ああ、これかい?完成したよ!」


そう言って教授がゴソゴソ取り出した大きめのカメラ。



「ええ、それを貸していただけると言われていたので……ちょうど、撮ってみたいものができましたの。」


「君になら喜んで貸すよ。鮮明さも今までよりもいいからね。きっとびっくりするよ。撮った後にすぐに映像を確認出来るようにもなったんだ。」



「まあ。それはとても楽しみですわね。」



これさえあれば準備はバッチリよ。


   
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