愛の証明

月岡夜宵

文字の大きさ
上 下
12 / 16

12◇夢◇

しおりを挟む
 俺は気がつくと鬱蒼うっそうとした森に迷い込んでいた。いつからここに居たのか、それは分からない。自分の意志とは無関係に俺は立ち尽くしていた。

 恐怖と緊張。その二つを伴って俺は歩き出した。かさかさと木の葉が揺れる音に混じって、不気味な風の音がする。

 歩き続けると、森から開けた場所に出た。そこには廃墟然とした館がぽつんと存在した。俺は促されるように、その扉に手をかけた。そこでようやく頭が冴えるが、既に体は俺の意志とは関係なく動き出していた。

「いっひっひ、無礼な奴だね。ノックもなしに【魔女の館】を訪ねるなんて」

 俺の行動を咎めたのは、あろうことか魔女だった。さすがの俺も警戒する。

「そんな風に威圧するのはおよしよ。アタシとアンタの仲だろう?」
「別にいいだろうが。俺はお前と仲良しになったつもりはないからな」
「仲良しだって? ひっひ、笑かすんじゃないよ。まったく」

 魔女はというと、大がまを沸騰させて何かを煮詰めている様子だった。グロいものでなければいいと俺は密かに願った。

「【魔女の館】を訪ねるなら、土産みやげを一つ。さぁ、アンタの土産はなんだい?」
「そんな決まり知るかよ」
「いいや、知らなくてもここに来れたアンタはなにかを持ってるはずだ。とっとと出しな」
「……」

 話を聞く気が無さそうだな。
 ん? 話といえば……。

「そういえば、なんで俺は元に戻ってたんだ? いつ魔女の呪いが解けたんだ?」
「ほー、それが土産かい」
「土産?」
「贈り物にしてはちゃちだが、ま、いいだろう」
「なんでそれが土産になるんだよ。意味分かんねーよ」
「言うだろ? 土産話って」
「……」
「なんだい。最近の若いもんはつまんないねぇ! もっと顕著な反応をよこしなさいな。ま、それはいい。それよりとっとと話しなよ」

 魔女に催促されたので、俺はくだんの事を口にした。

「ほぉ。目覚めたら若返っていた、ねぇ。うんうん、成る程、成る程。そういうこともあろうねぇ」
「なんだよ。もったいぶらず話せ」
「アンタはね、確実に死にかけていた。だから意識を失ったんだよ。でも変だねぇ。死にかけた相手を嫌うような事を言うなんて、アンタの相手は変った奴なのかい?」
「変った奴なんかじゃな……、くもない、か?」

 エルメスが変ってない、とは言い切れない。老人の世話をせっせと焼き、ときに笑顔まで浮かべていたし。

「って、別に変ってるか、どうかはどうでもいいだろう!?」

 危うく話しに流されるところだった。

「俺は……あいつに嫌われたのか? だから戻ったと?」
「だからそう言ってるんだよ」

 キラワレタ?
 俺はエルメスに?

 さっきまで散々怒っていたというのに、その一言の衝撃たるや計り知れない。心臓を直に刺されるような、心地悪さ。一瞬で呼気すら止まる程だった。俺は言葉を失った。

「今更ショックを受けているなんてねぇ、ひひ、これだから人間の観察は止められない」

 悪趣味な魔女め。だが、それどころではなかった。

 俺は――エルメスに嫌われたのか。
 
 じゃあ最後の告白の返事は……。

 考えるまでも無い、と頭を振った。老人と若者の恋なんて成就するわけもないのに、と。

 だから、振られるのは当然のことで。

 そこまで考えてはっとした。

 エルメス。それならあいつは何故、老人を探していたんだ? あんなに必死になって。

「気付かないのかい?」
うるさい、魔女!」
「黙れと言われれども喋るのが魔女さ」

 魔女の軽口を叩く様に苛立つ。そのせいで、考えに集中できない。

 なんでエルメスは、俺を探していた?
 未練でもあったか? それとも職が無くなるのが困るから? でも死んだ、とあいつは言っていたし……。確実に別れを経験してなお、求める理由は?

 いや、違う。

 未練があった・・・のは俺の方だ。もしやエルメスはそのせいで? あいつはそのことを引きずっているんじゃないか?

 俺が最後に託した想いを、彼が受け取っていたならば。

 俺が一方的に押し付けた感情。それを知っているからこそ、あいつは負い目を感じた?

 馬鹿馬鹿しい推測だった。でもそれを笑って否定出来ない自分が居た。

 ――告白などするべきではなかった。

「答えは出たかい?」

 魔女のくせに、人の心を見透かしたような事を言う。正直に話すのもしゃくに障って、俺はそっぽを向いて答えた。

「さぁね」
「人間は素直じゃないねぇ。ま、いいさ。さぁ、もうすぐ目覚めだよ。準備はいいかい?」
「は? 目覚めって? ――ッ!?」

 魔女に問い返した直後、館の窓から目を焼くような、強烈な光が差し込む。俺は目を開けていられず、慌てて閉じた。だが、その光は脳に残って――、痛みを覚えるような錯覚をし、気付いたら俺は、ベッドに沈んでいた。


「…………夢?」

 夢にしてはやけに感覚が現実的リアルだった。だが魔女との会話というのがまるっきり現実を無視していた。そのわりに、内容を笑って流せない。

 俺の出した答えと、エルメスの今。それがどうにも気になって、いても立ってもいられなくなり、俺はメイド達の制止を振り切って外へ飛び出した。全てを、確かめる為に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

色んなBL詰め込み ( R18有です )

きなこ
BL
. 色んなBL小説になります 短編 で R18もかなり入ってます ♡ / あへおほ有 / 潮吹き / 玩具 / 露出 / スパンキング .. 結構ハード多めなので苦手な方は気を付けてくださいませ R18の場合、語尾に※ついてます よろしくお願いしますm(_ _)m . 聴覚障害有なので文章おかしかったりするかもしれませんが心広く読んでくださると嬉しいです( ; ; ) コメントでここおかしいよ〜!って教えてくださるともっと嬉しいです ※家庭持ちなので更新遅めだったりするかもです。時間できた時に一気に更新します。 .

田舎の秘密

たきはる
BL
私は視力に障害を持ちながら、普段女装子としても活動しています。そんな私が僕として過ごした子供時代、それは限界集落の田舎 そんな田舎での子供時代の体験した出来事を、エッセイと官能小説僕描いてみました。話の内容は、過激な描写もありますのでご注意ください。

クローゼットの君のワンピース。どうしても着たかった。

かすはる☆春見陽日
BL
普通の男の子だった圭柊。 でも彼の人生には、「もしも女の子だったら」回避できた障害にいくつも遭遇する。 いじめをうけた幼少期。現実に打ちのめされ想像の世界で遊ぶようになる圭柊。 その想像の世界で圭柊は女の子だった。 違う世界を思い描くのに、自分自身のシチュエーション、つまりは性別を変えてしまうことが一番楽だった。 心のなかにもう一人の自分が生まれる。女の子の「ケイト」。 ただ、生まれながらに持っている普通の男の子の心の部分もあり、彼女ができる。 ひとつ下の女性ゆいとの交際が始まる。 彼女がいても女装したい、女性になりたい、その願望は圭柊の中にあり続けた。 その思いをゆいに打ち明ける圭柊。 自分のジェンダーはどこ? ただ、その迷いはゆいの迷いにもなる。圭柊は男?女? 彼女ははっきりしたかっただけ。 中途半端はいやだった。 圭柊は、女?。女でいい。次第にそう思うゆい。 ゆいの策略にはめられ圭柊はとうとう女として生きることになる。 それもゆいのメイドとして、ゆいの次の彼氏の奴隷として仕えることになっていく。

君の手の温もりが…

海花
BL
親同士の再婚で兄弟になった俊輔と葵。 水への恐怖症を抱える俊輔を守ろうとする葵と、そんなに葵が好きだと気付いてしまった俊輔が、様々な出会いによってすれ違い傷付き、それでも惹かれ合う…。

不安障害の僕と、無神経な彼

ほわいと
BL
仕事で上手くいかず不安障害を患った主人公と、とある無神経な男との出会いです。 気が付くと大きくなっていた気持ち。お互いじゃないとダメになっていく過程。

伏魔殿の静寂

あづま永尋
BL
障害のある恋で非王道学園物語。副会長親衛隊隊長が奮闘する。

君を好きになるんじゃなかった

きなこ
BL
_____ こんな苦しい思いするぐらいなら 君のことなんて 好きになるんじゃなかった . . _____ 私自身が聴覚障害有なので文おかしかったりする部分もあるかもしれませんが多目に見てください、ここ間違えてるよ〜!もあればコメント下さい( ; ; ) 学生時代、一時期小説書きまくってましたが一時期飽きて久しぶりに復活しました 1話1話が他の方と比べたら短めです。 主人公である男性が他の人とヤる所も出てきます。地雷の方は気を付けて下さいませ。 喘ぎ声に、たまに♡が出てきます。喘ぎ声を書くことも久しぶりなので上手く書けなくてすみません。 そこも心広く読んでいただけたら嬉しいですm(._.)m 長編と設定してますが、実際は長くないかもです。 こちらのアプリでは初投稿になりますので短編がどのぐらいなのか想像出来ず、長編を選びました。 ※家庭持ちなので、更新遅めだったりするかもです。時間出来た時に一気に更新します。よろしくお願いします。 .

失ったモノ

ハーマ
BL
「………」 最後に見たものは俺の首を絞める恋人の顔だった……… 焦りと困惑………怒りを含めたその瞳に映る俺は……… 手を伸ばしていた……… 届くことのなかったその手は床に落ち……… 俺の意識は闇に落ちた……… 最後の最後……… 魂が肉体と切り離される直前に聞こえた声……… その声の主は……………… 〜人物紹介〜 デロイド・フェルイエン パラレルワールドに飛ばされた歳若き軍人 旧式の能力者で自らの死の直後を覚えていない 戦闘能力が高く守護力も高いが日常生活を送るには難がありすぎる 深いトラウマ持ちで1週間眠れない日もざらにある デイーザ・フェルイエン デロイドの実の父親 パラレルワールドに息子を探しにやってきたが何らかの障害で頻繁に再開しては殺し合いをすることになる 戦闘方法は多種多様で旧式の能力者 部隊の人間を撲殺した張本人でもある ザイド・ガルアーナ パラレルワールドで別の生き方をしたデロイドの義理の弟 血は繋がっていないが旧式の能力者 デロイドを「兄さん」と呼んでいた 童顔でかなり見た目若いがデロイドの1つ違い デイーザのことを「覚えている」 ガルガード、レオン、リク、レイド、ラグア、龍、キリヤ、ジンド 最初から「GAME」に参加してた人物達 デロイドのいた元の世界ではかなりの権力者だったり実力者 能力は持っているがデロイドと比較するとかなり弱い 戦闘能力もまちまちで最も弱いのがガルガード ラミ・ノイル パラレルワールドを行き来する旧式の能力者 戦闘経験豊富でたまに試合にも駆り出される デロイドとは戦友 デイーザとは傭兵時代からの仲で元いた世界のレオン達よりも付き合いが長い 夫が2人いる

処理中です...