バイバイ、セフレ。

月岡夜宵

文字の大きさ
上 下
11 / 16

『その体温を分けて《尚紀の視点》』

しおりを挟む
(うわああああああぁぁぁぁっ!? ど、どどど、どうしよ!!)

 ベッドの上。枕に頭を押し付けて、脚をバタバタさせる。俺……俺…………っ。

「やっちまったあああーっ」

 紫君相手に完全にやらかした。――野沢尚紀、死す。完。って、そう簡単に終わってたまるか。

(はぁぁぁ)

 にしても、すっかりブチまけて逆に腹の中はスッキリ。頭は、打ち明けてしまったストレートな告白のせいでヒート寸前。混乱していたとはいえ、後から思い出すと恥ずかしい。あんな告白、するつもりもなかったのに。
 ガキかよ、俺。


 大好き過ぎて、死んでしまいそう。思い続けることに耐えられず、壊れそうになる、心。持て余した「すき」の感情は募って募って、でも行き場がない。そんな体の中にたまっていた感情はすべて紫君へぶつけてしまった。彼はどんな気持ちで受け止めたのだろうか。
 耳に残る声。

『尚紀、怖いなら、今は何も言わないよ。ただ、もしよかったら……今言ったこと、しないか。ふたりっきりで。あのホテルで待ってる。時間は――また連絡するな』

 今もまだ返事を聞くのは怖い。彼から突き放されたらと思うと、余計に。それでもあんなことを言われたら期待してしまうじゃないか。紫君のばか。振られるのも怖いけど、淡い希望が潰える時ほど、痛いことはないというのに。

(でも、もしかして。期待、してもいいのかな。望みに縋っても、俺は許されるのだろうか)

 だって、シないかって……。

(いやいやいや、ただの聞き間違いかも! あるいは俺がなにかと勘違いしてる可能性……だ……って)

 やばい情緒不安定過ぎる。考え過ぎだと思うとそれすら悲しい。枕にぎゅうぎゅうと顔を押し付けても泪は止まらない。

 ピローン♪

 チャットだ。メッセージの送信主を見るとそこには紫君の文字。がばっと体を起こして恐る恐る内容を開く。

紫:今夜9時、ホテルで待ってる。必ず来いよ。独り寝強制されたら泣くからな!

「ふっ、ふふ……。紫君、泣いちゃうってさ」

 これはもうダメかもしれない。
 彼から直接別れを切り出されるまでは、この夢の中にいたい。




 深呼吸。ノブに手をかける。扉をおずおずと開け、中の人を探す。ちょうどドライヤーの音が聞こえる。洗面台へと向かえば、優しく微笑む彼に出迎えられた。

「会いたかったよ、尚紀」

 乾きかけの髪。腰にバスタオルをまいただけの格好でハグされる。彼の見事な金髪からはホテルのシャンプーの匂いがした。それにちょっと残念な気持ちになる。いつもの彼の香りとは違うから。嗅ぎなれた体臭が恋しくて首元に鼻先を近づける。すんすんと匂いをかいでいたら、目元を赤らめた紫君と目が合う。

「ずいぶん大胆だね」
(ふわぁっ!? しまった……)

 つい耐えきれず、本能のまま体臭を嗅ぐなんて行為に出てしまった。俺の理性さんどこ行った!!
 紫君は目を細めて、俺の髪をすくような手の動きをする。

 あ、だめ。頭なでられるのきもちいい。それに、あの日のこと思い出して恥ずかしくなる。

 羞恥から顔を下に向けてしまう。俺の上からフッと格好いい吐息が降りてくる。 

「可愛い尚紀も好きだよ。時計塔の上ではすごく素直だったよね? ね、もっと甘えて。俺の知らない尚紀をもっと見せて」

(ひぃいいいいいいいいンンン、何ですか!? いつだれが紫君を、こんな官能ボイスであまあまな台詞を囁く色男に仕立てたんですか!? 俺の紫君になにがあ)

 って、俺のじゃないよな。履き違えるな、俺。

「ごめん。ちょっと動揺した。俺もシャワー浴び、」
「そのままでいい」
「え? でも汗臭いし」
「そうでもない。せっかくだし天然の匂いが知りたいな」
「ふぎゃ!?」
「あーやばい。あんまり可愛い声で鳴かれると俺の息子が元気になるぞ。最初はゆっくり楽しみたいから、ちょっと抑えてくれ」
「あ、……うん」

 納得した、と頷くと、ハグをしていた紫君に促され寝室へ。


「今日は俺もシたいようにするから。尚紀も要望があったら正直に言うこと。わかった?」
「わかった。……え?」
「ぷ。分かってないじゃん。だめだぞぉ、内容聞く前に頷いたら。そんなことしたらケダモノに襲われることになるからな」
「ケダモノって。俺を襲うようなモノ好きいないよ」
「いーや。それがいるんだな。ここに」

 とても、眼の前の彼にそんなイメージは抱けない。だってあまりにも眩しい。いつだって君は俺から見たら、光を集めたような存在。その光があまりに綺麗で、俺は目がくらむ。容易に手なんか伸ばせないほどに。

 ちゅ。ぴちゃ。ちゅるる。

 何の音かと手元を見ると、紫君が、俺の指を、舐めている!? は、何のプレイですか!

「いや、あの、紫君! そんなことしなくていいよ。むしろ俺がするから!? え。俺がするの!?」
「あ~~、おかしな尚紀もくせになりそう。もっと困らせたいから、この手はしばらく俺のキャンディーだね」
「ひゃんでえ!?」

「あー、腰にクる。指まで性感帯なの? ほかの触りたくなっちゃうなぁ」とかいうくせに、紫君は俺の指と指の間を舐めたり、口に入れたりして弄んでいる。そんなことされたら俺の方だってたまらないのに。

 いい顔だね、なんていわないで。そんな褒めるみたいなニュアンスで。

「ん。肩の力抜けてきたね。そろそろ愛撫始めてもいいかな」


「一つおねだりしてもいい?」
「何?」

 ――この前の下着の白いバージョンがあったら眼の前で穿いてみせて。

「そんなことでいいの?」
「ああ! え、まさか本当にやってくれるの!?」
「やって……?」
「言い忘れた。ついでに俺の前でその格好で一人えっちしてね」

 つまり、ええとその、紫君が見てる前で紫君を想って、恥ずかしい格好をしながら自慰をしろ、と。

「そんなの絶対ムリだからぁ!!」
「ああもう、泣いちゃった? 引くほど気持ち悪がらせたらごめん……」
「ちがうよ。あんまりにも恥ずかしいから……俺、そんな羞恥プレイやだ」

(そんなはしたないこと)

「紫君が手伝ってくれなきゃ、やだ」
「え? それって俺も参加していいの? マジ!」
「一緒にシてくれるならやってあげてもいいよ。どうする?」
「やりますやります! 次は絶対堪能するから! うおおお、燃えてきた」
「というかなぜああいうパンツに固執するの?」
「そんなのエロ可愛いからに決まってるだろ! 分かるだろ、男なら」

 紫君は手元をおざなりにしながら、白のレースやフリルの紐パンは最強だと力説する。最高に甘くてかわいいのにエロエロな所が男の股間を滾らせる、と。いや分からなくはないよ? ただそれを穿くのが男の自分だというだけで。

 話の間中、ローションで冷たい指が尻の穴をまさぐっている。しゃべりながらなのに器用だ、と感心してしまう。

「じゃあパンツは俺に贈らせて。尚紀にはやっぱり白だよ。絶対純白!」
(ひぇ!?)

 今でも十分恥ずかしいのに、それ以上のことを要求されている。真っ赤になった頬の熱が引かない。でも、腹の底がきゅんとしてしまった体は、実に正直者だ。

「えーっと、尚紀も期待してる? やっぱ、かわいーのな」
「えああああっ!?」

 かわいい、なんて褒めそやされて。それに喜んでしまう自分も自分だが、紫君だって相当どうかと思う。そんなリップサービスが平然と言えてしまう口が嬉しい反面ちょっとだけ憎らしい。今まで抱いてきた相手と比較してしまって、胸中に寂しさがこみ上げる。
 心の中まで見透かしたわけではないだろうが、紫君は俺に誠意をみせる。

「あの時は間違ってた。傷つけて、乱暴にしてごめん。今度こそはとびきり良く抱くから だから……だから、抱かせてほしい」

 それは懇願だった。俺は迷わずどうぞと、おずおずと自分を差し出した。勇気を出して、脚を広げ、奥の奥まで見えてしまいそうなぐらい、卑猥なポーズをとって。そうして紫君を誘う。

「の、残したら許さないから。食べるなら思い一つ残さず、奪ってくれ」
「おう。一思いに食べる。がっつくから覚悟しろよ。じゃ、尚紀のセカンドバージン、貰うな」

 もう一度処女を、なんて、その意味を捉えかねた。だが分かった。彼はまるで処女のように俺を抱いてくれていたのだ。そういう気持ちで大切に扱っていたのかと、嬉しくなかった。

「あっ」

 体を重ねた瞬間、これだと思った。俺の足りなかったピースが埋まるように。待ちに待った刺激に感動する。ハマった時には気づいたらイっていた。ぴゅゅぴゅっと小さく震えて精を吐き出す俺の陰茎。すでに満足に吐き出せないほどイかされていた証。きもちいいが止まらない。まぶたの裏には宇宙が広がっているような気がする。断続的にやってくる快楽のビッグウェーブが俺の意識をさらってしまう。

「大丈夫か!? 尚紀、尚紀、返事を!」
「あ…………うん。ちょっとトんでた、だけ。きもちよすぎて、へへ」
「勘弁してくれ。心配したぞ。ほんとに死んだらどうしようかと思った……」
「ごめんね?」
「ま、悪気がないのは分かってるから許す」

 ぎゅっと手を繋がれる。それは俗にいう恋人つなぎというやつで。今日の俺はおかしい。脳内で幸福物質がドパドパ溢れている気がする。過剰摂取のし過ぎで頭がふわふわする。

「応えは今度、きちんとした形で返す。だから今はとびきり楽しんでくれ」
「うん。うん……うん!!」

 やっとありのままの気持ちで君に抱かれることができた。すごくしあわせな気分だ。もう涙腺まで緩んでしまった。彼の腕の中に囚われ、その甘い拘束の心地。もはやこれ以上のしあわせなど無い気がした。初めてのセックスでは満たされなかったものが、今、ようやく満たされた。

「ううぅっ……ゆか、り、くっ……ん!!」
「なおき、……夢みたいだ」

 紫君の手や体で丁寧に作り変える体。愛する存在によって、惜しみなく愛の色で染めあげられる。優しく労られ、ぐずぐずに溶けるまで撫で回される。イっても、イッても、終わらない夜。ロマンチックは明け方まで続いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら

たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら 何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。 特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで… *別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。 後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。 目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。 気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。 街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。 僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。 そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。 それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。 けれど、その幸せは長くは続かなかった。 前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。 そこから、僕の人生は大きく変化していく。 オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。 ✤✤✤ ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。 第12回BL大賞 参加作品です。よろしくお願いします。

ゆあ
BL
付き合っている彼は浮気をしている。オレは、それを見て見ぬフリしかできない

君がいないと

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。 浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ…… それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮 翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー * * * * * こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。 似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑 なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^ 2020.05.29 完結しました! 読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま 本当にありがとうございます^ ^ 2020.06.27 『SS・ふたりの世界』追加 Twitter↓ @rurunovel

異世界現代あっちこっち ~ゲーム化した地球でステータス最底辺の僕が自由に異世界に行けるようになって出会った女の子とひたすら幸せになる話~

二上たいら
ファンタジー
・本作は1話1000~2000字程度のお手軽に読める異世界転移エンタメとなっております。 ・本作は1章4話までイジメ描写がありますが、その後は一方的にイジメられる描写はありません。 ・ヒロイン以外にもメインキャラとして女性が出てきますが、基本的には2人でイチャイチャしてるだけです。後々女性キャラに囲まれるようなシチュエーションにはなりますが、ハーレム展開の予定はありません。 ・主人公の恋のライバルになりそうな男キャラは登場させないつもりです。あるいはライバルにすらなれません。 世界のゲーム化から10年、あることがきっかけで異世界と現代を自由に行き来できるようになった僕は、日本と異世界の二重生活を始めることになった。助けてくれた異世界の女の子と仲良くなったり、お金を稼いだり、レベルを上げたりする日々が始まった。 第5章は毎日更新はできないかもしれません。(ストックが尽きた) この物語はフィクションです。登場する地名・人物・団体・サービス・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

処理中です...