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第37話 呪いの正体
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突然割り込んできたのは、細身の男性です。
身なりは良いけれど、貴族ではありません。
──この人は、商人です。
「フェルメズ王国の商会長を務める者です」
商人をまとめる商会、そしてその商会を取りまとめているのが商会長。
国内のあらゆる分野の商人たちの要望を王に届けること、王からの要望を商人たちに伝達することを主な役割とする人です。
しかし、貴族でもない彼がどうしてここにいるのでしょうか。
「何やらきな臭い気配がしましたので、外で控えておりました」
「きな臭い?」
「商売人のカンですよ。物が動く気配、とも言いますね」
彼の言う通り、戦となれば物が動く。
……大量の武器と兵糧が必要になるからです。
「武器と兵糧のことはご心配には及びません。我々商人が、すべての軍に直接お届けします」
「商人が武器と兵糧を戦場に届ける!?」
貴族たちが騒ぐのも当然です。
そのようなことは、これまで一度もありませんでした。
商人から買った資材を運ぶのは、兵の役割です。
あくまでも安全な場所から商売をする。それが商人ですから。
「貴女様が先導してくださった刺繍の交易で、我々商人はたいそう潤っています。この戦は、我々にとっても正念場」
彼らにとってもオルレアン帝国との同盟は生命線ということです。
「助かります」
「貴女様がなさったことを思えば、この程度のことは何でもありません」
ああ……!
この人は、私のしたことの目的を正しく理解してくださっているのですね。
「刺繍の交易はきっかけに過ぎません。貴女様が率先して西への交易を進めたことで、我々はより大きな商売ができるようになりました。貴女様のおかげで、フェルメズ王国はこれからますます豊かになります」
商会長は、イスハーク様の方に向き直りました。
「王太子殿下。一介の商人ではありますが、あえて言わせていただきます。政治とは、こういうことなのです。未来を見据え、民の利益のために種を蒔く。そのために骨身を削る者こそが、王なのです」
商会長が、拳を握りしめています。
「殿下がなさったことは、我々民の希望の芽を摘むことに外なりません。我々商人は、この度の発議に断固として反対いたします」
貴族でもない商人の身分で、王族に直接諫言するのはとてつもない勇気が必要だったことでしょう。
それでも、ここへ来てくださった。
「我々は、あなたを王とは認めません!」
「貴様……! 打首だ! あの商人の首を切れ!」
その命令に従うものは、もうこの場にはいませんでした。
「なぜだ! 誰か! ……皆殺しだ! 俺に従わないものは、全員殺してやる!」
イスハーク様が立ち上がりました。
その手には、鈍く光る刃。
「ひっ!」
ナフィーサが悲鳴を上げました。
「馬鹿なことを……!」
誰も、止めることはできません。
馬鹿でも阿呆でも、この国の王太子。
その尊い御身に刃を向けることはできないのです。
フェルメズ人ならば。
刃がきらめきました。
大きく振りかぶられた剣が、私に向かって振り下ろされます。
ですが、その刃が私に届くことはあり得ないのです。
──ギンッ!
受け止めたのは、シュナーベル卿。
次いで、鞘に収まったままの剣でイスハーク様の腰を打ち据えたのはデラトルレ卿。
肩を押さえつけたのはドルーネン卿とリッシュ卿で、ついでと言わんばかりに頬を殴ったのはイヴァンでした。
「姫さんを斬ろうとは。最低だな、あんた!」
「まったくです」
私の騎士たちが、その言葉通りに私を守ってくれました。
本当に、素晴らしい騎士たちです。
「王太子殿下」
いつの間にか、バルターク卿が戻ってきていました。
弟は無事にお母様の腕に抱かれています。よかった。
「分かりませんか? この国の貴族たちが、貴方ではなくシーリーン嬢の命令に従う理由が」
「うるさい! だまれ! 謀反だ!」
「殿下が血と肩書きとに胡座をかいている間、シーリーン嬢は自らの手で力を蓄えました。その力で、自らを追放した故国に報いたのです。貴方にもできたはずのことですが、貴方はしなかった。これはその結果です」
「うるさい! うるさい! うるさい!!!!!」
イスハーク様が押さえつけられた身体で暴れています。
そんなことで拘束が解けるはずもありませんが、その目は尋常ではありません。
──妄執に、取り憑かれてしまったのです。
「ナフィーサ! なぜ助けない! ナフィーサ!!」
呼ばれたナフィーサは、青白い顔で震えることしかできない様子です。
「なぜだ! お前の望み通りにしてやっただろう!」
「いやよ! こんなこと! 私は、ただ、王妃になりたかっただけ!」
甲高い悲鳴が、大広間に響き渡ります。
「お姉さまに勝ちたかっただけなのに!」
虚しい悲鳴に、誰も何も言えませんでした。
静寂の中、ナフィーサの嗚咽だけが聞こえてきます。
「なんという醜い人でしょう」
言ったのは、リッシュ卿でした。
「醜い?」
ナフィーサの顔が真っ赤に染まります。
「私のどこが醜いというの! まさか、その女と比べているの!? そんな、男の形をして、男のように戦う醜い女と比べないでちょうだい!」
「美しさとは、比べるものではありませんよ。貴女の醜さと、シーリーン嬢の美しさとは、まったく関係のないことです。貴女のことを醜くしているのは、貴女自身ではありませんか」
そのまま、リッシュ卿が私に向き直りました。
「このようなことで傷付かないでください」
「傷つく?」
「そうでしょう? そんなに悲しい顔をして」
傷ついている?
「私が……?」
そう、かもしれません。
かつて私が愛した二人は、すっかり項垂れてしまいました。
『王とは認めない』と、他でもない国民に謗られ、愛したはずの妻にまで見捨てられた王太子。
美しかったはずなのに、こんなにも醜くなってしまった妹。
私を追放した二人の惨めな姿に『ざまあみろ』と思わなくもありません。
しかし、私はこんな結末を望んだわけではありませんでした。
「……二人をこのような姿にしてしまったのは、私です」
「それは違うだろう!」
イヴァンが声を上げました。
「こいつらのことは、こいつらの問題だ! 姫さんのせいなんかじゃない!」
「いいえ。美しかったナフィーサを、こんな風にしてしまった」
美しかった。可愛らしかった。
私などよりも、よっぽど。
それなのに……。
「私とは違う。可愛らしくて美しいナフィーサ。……私とは、違うのに」
「何言ってんだ?」
本当にわけがわからないといった様子で、イヴァンが首を傾げます。
「姫さんは昔から可愛い。それに、大人になって綺麗になった。そうだろう?」
「違います。それは、私に向けられるべき言葉ではありません」
「……わたしたちはシーリーン嬢を口説くための方向性を、そもそも間違えていたようですね」
デラトルレ卿が苦笑いを浮かべています。
「どういうことですか?」
「これは、もはや『呪い』です」
割って入ってきたのはお母様です。
「美しいのはナフィーサ。可愛らしいのはナフィーサ。自分ではない。自分は他の令嬢と同じではない」
それは呪いなどではありません。事実です。
「貴女の生い立ちが、貴女に呪いをかけてしまった。母として、申し訳なく思います」
「お母様?」
「いいですか、シーリーン」
お母様の手が、私の手を握ります。
私などのために、何度も涙を流させてしまった。
今もまた、私の手の甲にポタリポタリと落ちる涙が──暖かい。
「私は、貴女を愛しているのよ。私の可愛いシーリーン」
愛されていないと、思っていました。
私は家のために生まれて、家のために生きる。
だからお母様も周囲の人々も優しいのだと、自分に言い聞かせてきた。
追放されてしまった今となっては、家のためには何もできなくなってしまった私。
それでも愛していると言ってくださる。
暖かな涙を流してくださる。
私は、愛されていた。
ずっとずっと、愛されていた!
お母様は、だから何度も涙を流して下さった。
私を、愛しているから。
そんなことに、今更気づくだなんて。
「貴女はシーリーン・アダラート。誇り高き戦士、『獅子姫』です。他の誰かと比べるのは、おやめなさい」
……私は、比べていたのですね。
自分とナフィーサを。
比べては、自分は劣っている、醜い……。
愛されていないと『呪い』をかけ続けてきた。
私を呪っていたのは、私自身だったのですね──。
「もう、貴女はこの国から解放されても良いのですよ。これが、最後の務めと思いなさい」
「お母様……」
「さあ。貴女自身に向けられる言葉に、耳を傾けるのです」
「お嬢様」
シュナーベル卿が、私の前に跪いて私の手を取ります。
「貴女は美しい。そして私たちにとっては、可愛らしい、たった一人の女性です」
シュナーベル卿が、一言一言を噛み締めるように言いました。
頬が赤い。照れているのでしょうか?
思わず、私の頬にも熱が集まります。
「もう、お世辞ではないと分かっているでしょう?」
リッシュ卿が、微笑みます。
「我々の本心なのです。あなたは美しい。ただし、貴女の美しさはナフィーサ嬢のそれとは違うものです。その強さが、貴女をより美しくする。まったく稀有な方です」
「強さが?」
そんなはずはありません。
強さと美しさは、本来共存するものではないはずです。
それなのに……。
「貴女を愛しています」
──何かが、私の胸にストンと落ちてきました。
「さあ。このお二人には、お部屋が必要ですね」
バルターク卿の一言で、衛士たちがようやく動き出しました。
「そうね。お部屋にご案内して。決して外には出ないように、きちんとお守りして」
「はっ!」
気力を無くした二人が、衛士の手によって部屋へと連れていかれます。
おそらく、もう二度とその部屋から外に出ることはないでしょう。
イヴァンの言う通り、彼らのことは彼らの問題。
そう考えるしかありません。
私にできることは、いつかこちらに戻ってきてくれる日が来ることを願うことだけです。
さあ。
今はまず、最後の務めを果たさなければ。
「私たちも出陣します!」
「はっ!」
この日から五日後。
通行を拒否すると伝えたにもかかわらず北の街道を進み続けたウォルトン王国軍に、奇襲を仕掛けました。
奇襲は見事成功。
本陣へ切り込んだ私と騎士たちとで、見事に敵将を捕らえることができました。
私たちは、フェルメズ王国とオルレアン帝国との同盟を、守り切ることができたのです。
身なりは良いけれど、貴族ではありません。
──この人は、商人です。
「フェルメズ王国の商会長を務める者です」
商人をまとめる商会、そしてその商会を取りまとめているのが商会長。
国内のあらゆる分野の商人たちの要望を王に届けること、王からの要望を商人たちに伝達することを主な役割とする人です。
しかし、貴族でもない彼がどうしてここにいるのでしょうか。
「何やらきな臭い気配がしましたので、外で控えておりました」
「きな臭い?」
「商売人のカンですよ。物が動く気配、とも言いますね」
彼の言う通り、戦となれば物が動く。
……大量の武器と兵糧が必要になるからです。
「武器と兵糧のことはご心配には及びません。我々商人が、すべての軍に直接お届けします」
「商人が武器と兵糧を戦場に届ける!?」
貴族たちが騒ぐのも当然です。
そのようなことは、これまで一度もありませんでした。
商人から買った資材を運ぶのは、兵の役割です。
あくまでも安全な場所から商売をする。それが商人ですから。
「貴女様が先導してくださった刺繍の交易で、我々商人はたいそう潤っています。この戦は、我々にとっても正念場」
彼らにとってもオルレアン帝国との同盟は生命線ということです。
「助かります」
「貴女様がなさったことを思えば、この程度のことは何でもありません」
ああ……!
この人は、私のしたことの目的を正しく理解してくださっているのですね。
「刺繍の交易はきっかけに過ぎません。貴女様が率先して西への交易を進めたことで、我々はより大きな商売ができるようになりました。貴女様のおかげで、フェルメズ王国はこれからますます豊かになります」
商会長は、イスハーク様の方に向き直りました。
「王太子殿下。一介の商人ではありますが、あえて言わせていただきます。政治とは、こういうことなのです。未来を見据え、民の利益のために種を蒔く。そのために骨身を削る者こそが、王なのです」
商会長が、拳を握りしめています。
「殿下がなさったことは、我々民の希望の芽を摘むことに外なりません。我々商人は、この度の発議に断固として反対いたします」
貴族でもない商人の身分で、王族に直接諫言するのはとてつもない勇気が必要だったことでしょう。
それでも、ここへ来てくださった。
「我々は、あなたを王とは認めません!」
「貴様……! 打首だ! あの商人の首を切れ!」
その命令に従うものは、もうこの場にはいませんでした。
「なぜだ! 誰か! ……皆殺しだ! 俺に従わないものは、全員殺してやる!」
イスハーク様が立ち上がりました。
その手には、鈍く光る刃。
「ひっ!」
ナフィーサが悲鳴を上げました。
「馬鹿なことを……!」
誰も、止めることはできません。
馬鹿でも阿呆でも、この国の王太子。
その尊い御身に刃を向けることはできないのです。
フェルメズ人ならば。
刃がきらめきました。
大きく振りかぶられた剣が、私に向かって振り下ろされます。
ですが、その刃が私に届くことはあり得ないのです。
──ギンッ!
受け止めたのは、シュナーベル卿。
次いで、鞘に収まったままの剣でイスハーク様の腰を打ち据えたのはデラトルレ卿。
肩を押さえつけたのはドルーネン卿とリッシュ卿で、ついでと言わんばかりに頬を殴ったのはイヴァンでした。
「姫さんを斬ろうとは。最低だな、あんた!」
「まったくです」
私の騎士たちが、その言葉通りに私を守ってくれました。
本当に、素晴らしい騎士たちです。
「王太子殿下」
いつの間にか、バルターク卿が戻ってきていました。
弟は無事にお母様の腕に抱かれています。よかった。
「分かりませんか? この国の貴族たちが、貴方ではなくシーリーン嬢の命令に従う理由が」
「うるさい! だまれ! 謀反だ!」
「殿下が血と肩書きとに胡座をかいている間、シーリーン嬢は自らの手で力を蓄えました。その力で、自らを追放した故国に報いたのです。貴方にもできたはずのことですが、貴方はしなかった。これはその結果です」
「うるさい! うるさい! うるさい!!!!!」
イスハーク様が押さえつけられた身体で暴れています。
そんなことで拘束が解けるはずもありませんが、その目は尋常ではありません。
──妄執に、取り憑かれてしまったのです。
「ナフィーサ! なぜ助けない! ナフィーサ!!」
呼ばれたナフィーサは、青白い顔で震えることしかできない様子です。
「なぜだ! お前の望み通りにしてやっただろう!」
「いやよ! こんなこと! 私は、ただ、王妃になりたかっただけ!」
甲高い悲鳴が、大広間に響き渡ります。
「お姉さまに勝ちたかっただけなのに!」
虚しい悲鳴に、誰も何も言えませんでした。
静寂の中、ナフィーサの嗚咽だけが聞こえてきます。
「なんという醜い人でしょう」
言ったのは、リッシュ卿でした。
「醜い?」
ナフィーサの顔が真っ赤に染まります。
「私のどこが醜いというの! まさか、その女と比べているの!? そんな、男の形をして、男のように戦う醜い女と比べないでちょうだい!」
「美しさとは、比べるものではありませんよ。貴女の醜さと、シーリーン嬢の美しさとは、まったく関係のないことです。貴女のことを醜くしているのは、貴女自身ではありませんか」
そのまま、リッシュ卿が私に向き直りました。
「このようなことで傷付かないでください」
「傷つく?」
「そうでしょう? そんなに悲しい顔をして」
傷ついている?
「私が……?」
そう、かもしれません。
かつて私が愛した二人は、すっかり項垂れてしまいました。
『王とは認めない』と、他でもない国民に謗られ、愛したはずの妻にまで見捨てられた王太子。
美しかったはずなのに、こんなにも醜くなってしまった妹。
私を追放した二人の惨めな姿に『ざまあみろ』と思わなくもありません。
しかし、私はこんな結末を望んだわけではありませんでした。
「……二人をこのような姿にしてしまったのは、私です」
「それは違うだろう!」
イヴァンが声を上げました。
「こいつらのことは、こいつらの問題だ! 姫さんのせいなんかじゃない!」
「いいえ。美しかったナフィーサを、こんな風にしてしまった」
美しかった。可愛らしかった。
私などよりも、よっぽど。
それなのに……。
「私とは違う。可愛らしくて美しいナフィーサ。……私とは、違うのに」
「何言ってんだ?」
本当にわけがわからないといった様子で、イヴァンが首を傾げます。
「姫さんは昔から可愛い。それに、大人になって綺麗になった。そうだろう?」
「違います。それは、私に向けられるべき言葉ではありません」
「……わたしたちはシーリーン嬢を口説くための方向性を、そもそも間違えていたようですね」
デラトルレ卿が苦笑いを浮かべています。
「どういうことですか?」
「これは、もはや『呪い』です」
割って入ってきたのはお母様です。
「美しいのはナフィーサ。可愛らしいのはナフィーサ。自分ではない。自分は他の令嬢と同じではない」
それは呪いなどではありません。事実です。
「貴女の生い立ちが、貴女に呪いをかけてしまった。母として、申し訳なく思います」
「お母様?」
「いいですか、シーリーン」
お母様の手が、私の手を握ります。
私などのために、何度も涙を流させてしまった。
今もまた、私の手の甲にポタリポタリと落ちる涙が──暖かい。
「私は、貴女を愛しているのよ。私の可愛いシーリーン」
愛されていないと、思っていました。
私は家のために生まれて、家のために生きる。
だからお母様も周囲の人々も優しいのだと、自分に言い聞かせてきた。
追放されてしまった今となっては、家のためには何もできなくなってしまった私。
それでも愛していると言ってくださる。
暖かな涙を流してくださる。
私は、愛されていた。
ずっとずっと、愛されていた!
お母様は、だから何度も涙を流して下さった。
私を、愛しているから。
そんなことに、今更気づくだなんて。
「貴女はシーリーン・アダラート。誇り高き戦士、『獅子姫』です。他の誰かと比べるのは、おやめなさい」
……私は、比べていたのですね。
自分とナフィーサを。
比べては、自分は劣っている、醜い……。
愛されていないと『呪い』をかけ続けてきた。
私を呪っていたのは、私自身だったのですね──。
「もう、貴女はこの国から解放されても良いのですよ。これが、最後の務めと思いなさい」
「お母様……」
「さあ。貴女自身に向けられる言葉に、耳を傾けるのです」
「お嬢様」
シュナーベル卿が、私の前に跪いて私の手を取ります。
「貴女は美しい。そして私たちにとっては、可愛らしい、たった一人の女性です」
シュナーベル卿が、一言一言を噛み締めるように言いました。
頬が赤い。照れているのでしょうか?
思わず、私の頬にも熱が集まります。
「もう、お世辞ではないと分かっているでしょう?」
リッシュ卿が、微笑みます。
「我々の本心なのです。あなたは美しい。ただし、貴女の美しさはナフィーサ嬢のそれとは違うものです。その強さが、貴女をより美しくする。まったく稀有な方です」
「強さが?」
そんなはずはありません。
強さと美しさは、本来共存するものではないはずです。
それなのに……。
「貴女を愛しています」
──何かが、私の胸にストンと落ちてきました。
「さあ。このお二人には、お部屋が必要ですね」
バルターク卿の一言で、衛士たちがようやく動き出しました。
「そうね。お部屋にご案内して。決して外には出ないように、きちんとお守りして」
「はっ!」
気力を無くした二人が、衛士の手によって部屋へと連れていかれます。
おそらく、もう二度とその部屋から外に出ることはないでしょう。
イヴァンの言う通り、彼らのことは彼らの問題。
そう考えるしかありません。
私にできることは、いつかこちらに戻ってきてくれる日が来ることを願うことだけです。
さあ。
今はまず、最後の務めを果たさなければ。
「私たちも出陣します!」
「はっ!」
この日から五日後。
通行を拒否すると伝えたにもかかわらず北の街道を進み続けたウォルトン王国軍に、奇襲を仕掛けました。
奇襲は見事成功。
本陣へ切り込んだ私と騎士たちとで、見事に敵将を捕らえることができました。
私たちは、フェルメズ王国とオルレアン帝国との同盟を、守り切ることができたのです。
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