上 下
6 / 8

06 ふたつの山を越えた町へ行こう

しおりを挟む
  
 急きょ、私も一緒に村の特産品などを街へ届けに行くことになった。
 この世界の街。ここからどれくらいの距離なのかな ? どんな街並みだろう ? どんな人たちが暮らしているのだろう ? 
 これは行かないという選択肢は無いよね !

 そんな中、皆は荷造りをしていた。麻を紡いだ糸や布といった、これまでに作り貯めたたくさんの繊維類と、森や山でとれた素材や食材などが用意されていた。

 そこで、行く気もやる気も満々なわたしは腕をまくり、荷車も荷馬車もまるまる全部そのまま収納してしまった。
 残念ながら馬は入らなかったのだが……

 荷物が圧倒的に軽くなったので必然的にじいさんたちはお留守番になった。彼らは「年寄りには堪えるだで助かるわい」などと安堵していた。


 「荷物はこれだけで良いのかしら ? まだまだたくさん入りそうよ」


 「君の収納はどれだけ入るんだいったい ? それにしても、底無しだね。だったら奥の小屋に溜め込んでる魔物の素材も運んでくれると助かるんだが…… 」

 「は~い ! 奥の小屋ね」

 「ああ。ウルフの毛革のように高価な素材は売れるけれど、それ以外の牙などの素材や、売却できるかどうか分からない安価なものは捨てるのもね、もったいないから一応保管してたんだよ」

 物置小屋にあったたくさんの素材も収納した。見たこともない不思議な素材とかがあるのかと期待したけれど、骨や皮、そして小さな魔石ばかりだった。
 
 これで荷物ほとんど無くなった。馬は荷をひくこともなく空のままで、私たちは身体一つで出発することが可能になった。

 メンバーは私とクラウ、後は村長とレイの4人に変更。爺さんたちはお留守番になった。

 目的地は山を2つ越えたコンテの町だ。

 「こいつは楽で良いぜ !」

 「聖女様の護衛はお任せください !」

 レイとクラウの兄弟はそれぞれにやる気みたい。

 転移のスキルで行けると楽なんだけど、残念ながら行ったことのない場所には転移できないようなので、今回は歩いて行くしかない。

 たくさんの人達が見送る中を出発した。

 「ちゃんと帰ってこいよアイリー !」

 「気を付けてね !」

 「行ってきま~す !」

 まだここに来て3日ほどなのに、優しいじいさん婆さん達の声が見送る家族のようで嬉しかった。

 こんなふうに優しい声を掛けられるのは何年振りだろうか ? 

 この村が第二のふるさとになりつつある。絶対に帰ってこようと、心の中で小さく呟いた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 さて、村を出てしばらくは弱い魔物ばかりが、ポツポツと出没しただけで何の問題もなかった。

 それにしても、ゴブリンが出るわ出るわ。

 たまにオークやウルフが混じるけど何体ゴブリンを斬ったかもう、覚えがないほどよ。


 初めて出会った時にはあんなに気味が悪かったゴブだけど、皆でサクサク倒し続けると今ではもう慣れて全然怖くない。

 
 今では率先して倒し、ゴブリン撲滅運動のリーダーとして頑張っている。

 なぜあんなヤツに抱きつかれるような遅れをとったのか、二匹、三匹をまとめて退治できる今となっては、思い出したくもない恥ずかしい出来事だ。

 行程は森や藪の中を歩くのかと思ったけど、そもそも荷馬車で行く予定をしていたくらいだから、それなりの道があった。

 こんな歩きの旅は初めてだから、少しだけしんどいけど、まだ道が良くて安心した。

 だけど、元の世界の平和な日本とは違って、いつ何処から魔物が現れるかわからないから周りを警戒しながら進まなければならない。

 初めて見る谷や小川の脇の道を、そして小さな村や集落を横目に無難に進んだ。

 しかし、ひとつ目の峠道に差し掛かると5体のゴブリンに続いてすぐに、3頭のコボルトが現れた。

 「この峠道の周辺がコンテの町までの道中で一番瘴気の濃いところなんだ。ここからは相当の注意が必要だからね !」

 「はーい !」

 レイはレベル17のシーフ、クラウはレベル9の魔法剣士、村長はレベル31の剣士だ。ゴブリンやコボルトなどの魔物なら相手にならないだろう。


 村長の声に従い、3頭目のコボルトを心して倒した。
 しかしその後突然、たて続けに何だか大きなヤツが現れた。
 ぱっと見、大きな木でも倒れたのか、山が動いたのかと思ったほどだった。

 直視して、やっとそれが2体の魔物だと気がついた。
 その大きな魔物は私たちの身長を軽く超えている。
 しかもどう猛で、思いのほか動きは早かった。

 「グオーーーー !!」

 「ギャオーーーー !!」

 ブオオオオオオオーーーーーーーー  

 すると、その魔物は小手調べのようにいきなり火を吹いてきた。

 「うわっ、火を吹くの ? 凄~い !」

 少し距離があった私は、その火炎をササッとかわした。
 かわしたはずなのに熱かった。
 私はこの辺りの魔物と比べたらかなりスピードがあるのだけれど、もっと間近だったらかわせなかったかも知れない。

 「ヤバイぞ、レッドベアだ。それも2体一緒に出やがった。コイツらつがいなのか ? こんなに近くに来るまで気付かないなんて、連続で魔物が現れたモノだからそっちに気をとられてたぜ。皆、すまない」


 魔物の探索に秀でているレイの言う通りに、続けて何頭も現れた魔物に気を取られていたからだろうか、私もまったく気が付かなかった。


 「おい ! 3人とも下がれ !俺たちの敵う相手じゃないぞ。2体だとBランクプラスだ」

 「そんなことは分かってるぜ村長 ! だけど何とかしてアイリだけでも逃がさなきゃ !」

 「ああ大丈夫だ。オマエ達を逃がすぐらいなら俺がどうにかするさ ! 慌てずに早く。前を向いたまま少しずつ後退するんだ」

 レッドベアは彼らにとってはかなり脅威の魔物のようね。
 
 向き合った私たちは、とても緊迫した状況になってうち震えていた。
 自分自身も初めて目の当たりにする強い魔物の存在感にちょっとビビってる。

 「ガオーーーーーーー !!」

 「グオーーーーーーー !!」

 Bランクの非常に強き魔物のレッドベアが2体かぁ。

 かなりの強敵だ。
 素早いし火を吹くし、見たところかなり狂暴そうだけど、動きは追えるし、どうにもならないといった感じはしない。これくらいならたぶん何とかなるんじゃないかな ?

 (うっ、でもこわっ ! 良く考えたら攻めるにしろ守るにしろ素手じゃマズいよね、何か武器がないかしら ? 
  ……う~~ん。 ……そういえばサバイバル的なナイフがあったような ?)

 ということで、私は遠い記憶から呼び覚まし、アイテムボックスからサバイバルナイフを探し出して準備が完了。

 さて、覚悟を決めて戦いますかね ?
 さあさあ、どっからでも来なさいなっと……
 
 ところが他の皆はひどく慌て怯えていて、なにやら必死な形相だった。  

 (クラウはかばってくれるし、レイは私を逃がそうとしてるのかしら ? 意外と男らしいところもあるのね。村長は的確に指示を出していた)


 その様子を見るとレッドベアは彼らにとってはかなり脅威の魔物のようだ。

 向き合ってしまった私たちはとても緊迫した状況だけど、彼らは自分が盾になってでも仲間を逃がしたいという方向で動いていた。

 (えええ~~、この熊ってそんなにヤバい魔物なの~ ?)

 村長の指示を受けてレイとクラウは少しずつ後退していった。

 そんな流れで状況がちょっと分からなくなってきたし、とりあえず皆がワーワー言うので、警戒しつつレッドベアを鑑定していた。

 すると、レッドベアの攻撃力は150で防御力は110程だった。

 能力は攻撃の方がかなり優れていて、火魔法は要注意といったところかしら。

 対するこちらの戦力はというと、村長がレベル31で攻撃力は100ちょい。防御力は90くらいなので倒すのは厳しそうなのかな ? 

 レイでも攻撃力80、クラウなんて30足らずだから一撃で即死するかも知れないわね。
 気を付けてクラウ !

 確かに彼らのステータスからするとレッドベアはかなりの脅威かも知れない。
 それも、二頭を相手にするとしたら勝てる気がしないわね。

 あれっ ? でも確か私は攻撃力も防御力も1000でHPは10000だよね ? 

 え~ 確認、確認、再確認っと。うん、間違いない。これ、余裕でイケるんじゃね ?

 試しに少~~しレッドベアの近くに行って、動きを良く見てみた。

 「アイリ ! 君も下がるんだ !」

 「ああ、いいの、いいの !」

 適当に返事をして敵に集中する。
 ゴブリンよりは幾らか速いけど、それほどスピードは感じないわね。

 うんうん、十分に対応できそう。

 威嚇しながらこっちに駆け寄って、鋭い爪で殴り掛かってきたけど、動きが遅いので何てことなく楽々かわすことができた。

 そもそも私の間合いには入れさせない。

 初めての強敵なんだから慎重に慎重に、くれぐれも無理をしないように。

 常に鋭い爪の届かない場所に身を置いている。
 あんな爪の攻撃は間違っても受けたくないわ !

 まずは私が攻撃するのは考えずに、相手の攻撃をかわし避けることを最優先にして、いつでも逃げられるようにしないとね。


 だけど熊さんの移動スピードよりも私の移動スピードの方が倍以上速いみたいだからね。ひょっとしたら10倍くらいかも ?


 「おいおいおい何してるんだいアイリ ? 驚いて身動きとれないのか ? 怖いもの見たさか ? おーいアイリーー !! 下がれ ! 下がるんだ ! ソイツはとんでもなく強い魔物なんだよ !」

 村長は声をかけ続いている。

 「バカ !! アイリ、死ぬぞオマエ !」

 「ムムムムッ、バカって言ったなぁ ! バカって言うやつが馬鹿なのよ !」

 (レイめっ、やっぱさっき褒めたのは訂正させてもらおうかな ?)

 「おいおいお前たち。そんなこと言ってる時じゃないぞー !」

 「アイリーー !!!」

 「大丈夫よ 心配いらないわ !」

 村長たちは私のことを心配してコッチに近付いてきたけど、実はレッドベアの目の前で余裕で向かい合っていた。

 「やっぱりステータスの通りで、この熊たちは見た目が怖そうなだけだね。全然大したことなさそうだよ」

 「アイリは魔物のステータスが解るのか ? ……で、その上で逃げなくても良いという判断なのか ?」(ゴクリ…… )

 村長は呟くようにこぼした。

 十分に相手を観察した結果、私は攻撃を解禁することにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

勇者と魔王、選ぶならどっち?

Red
ファンタジー
 私、樹神御影《こだまみかげ》は現在地元の高校に通う17歳の女子高生だ。  ……いや、だったという方が正しいかな。  ある日、見知らぬ家の見知らぬ部屋で目覚め、見覚えのない女性が母だと名乗り、王宮に行き王様にあって来いと言われ……って、私が勇者!?何の冗談よ!!  見知らぬ街、見知らぬ人々、訳の分からない自分設定……ここは、私は……一体どうなってるの?  混乱する私の前に女神を名乗る妖精が現れて、私に勇者としてこの世界を救えといいだす。  ここは異世界で、魔王の所為で人類が滅びの危機にあり、それを救えるのは勇者のみ……混乱しながらも理解する自分の状況だけど……何で私が勇者なのよ?  世界を救う?冗談じゃないわ。  私は私よ、元の世界に帰れないのなら、この世界で自由を謳歌することに決めたわ。  もしそれを邪魔するというなら、神でも悪魔でも魔王でも相手になるわよ!……でも怖いから来ないでね。  これは勇者として異世界に召喚された女子高生の物語。  少女は世界を救事が出来るのか?

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

追放された武闘派令嬢の異世界生活

新川キナ
ファンタジー
異世界の記憶を有し、転生者であるがゆえに幼少の頃より文武に秀でた令嬢が居た。 名をエレスティーナという。そんな彼女には婚約者が居た。 気乗りのしない十五歳のデビュタントで初めて婚約者に会ったエレスティーナだったが、そこで素行の悪い婚約者をぶん殴る。 追放された彼女だったが、逆に清々したと言わんばかりに自由を謳歌。冒険者家業に邁進する。 ダンジョンに潜ったり護衛をしたり恋をしたり。仲間と酒を飲み歌って踊る毎日。気が向くままに生きていたが冒険者は若い間だけの仕事だ。そこで将来を考えて錬金術師の道へ進むことに。 一流の錬金術師になるべく頑張るのだった

処理中です...