4 / 17
オレ強ぇぇぇ!!
しおりを挟む
「わたくしのクラスには、ジム・シュタイン男爵子息という転入生が来まして。“この世界の主人公”だとか、“モテモテでハーレム”だとか、意味は判りますが、言葉が通じませんの」
口許だけは微笑んでいるエヴァンジェリンに、クローディアスは少々ゾワッとした。
自分に向けられている訳ではない、と、判ってはいたのだが。
「同性とは会話しているようですが……まあ、変な会話ですけど」
「変な?」
「ええ。『どんな女もオレのものだから、アンタの婚約者も取っちゃうケド、ゴメンな』と、いったような?」
「何だ、それ……」
クローディアスは、美しく盛り付けられたティーフードの中からスパイスクッキーを選んで口にすると、わずかに表情を緩めた。
お気に召したらしい。
「で、モテているのか?その男」
「いえ?まったく。他人の容姿をどうこう言うのはよろしくありませんが、その男は何の特徴もない外見ですし、何より言葉が通じませんので」
「それで何でその自信⁉︎」
「さあ?まあ、ほんの少し太り気味なのと、茶髪茶眼なのが、珍しいと言えば珍しいでしょうか。……貴族としては」
エヴァンジェリンの言葉に、クローディアスはガクッと肩を落とした。
「まあ……その特徴って、ほぼ平民だよねー……」
まったく、意味が判らない。貴族の中に平民の特徴を備えて混じっていて、何故モテると思えるのか。
「何でも、わたくしがハーレムづくりのきっかけになるとか?わたくしは、“チョロイン”で、“ナデポで即落ち”なんだそうで」
「……はぁ?」
聞き覚えのない言葉に眉を寄せたクローディアスに、エヴァンジェリンは肩を竦めた。
「意味は訊かないでくださいませ。何度も聞かされたので覚えましたが、言葉自体は判りませんの。……それで、何故か執拗にわたくしの頭に触れようとしていまして」
「なっ……!触れられたりは……!」
「もちろん、していません。ただ、わたくしの護衛が遮るたびに癇癪を起こして騒ぐので、いい加減鬱陶しいのですわ」
「……成程?彼女に通ずるものがあるな」
クローディアスが諦めたように溜息を吐くと、エヴァンジェリンは、今度こそにっこり微笑んだ。
「そうでしょう?ですから、多少でも会話の出来る同性であり、身分が最も高い、あなたの出番だと思いますの」
「……きみのクラスの男生徒は何をしてるんだ」
「そうですわねぇ。嫌がってまったく近寄らない人と、おこぼれがもらえると信じて取り巻いている人に分かれますわねぇ」
「……おこぼれって」
「彼が飽きた女性を、回してもらえる約束?とか?」
「……嬉しいのか⁉︎それって」
「さあ?男性の感覚は何とも」
澄ましてお茶を飲んでいるエヴァンジェリンを、クローディアスは恨めしそうに見つめた。
「そんな男の相手を、私にしろと言うの?」
「……ねぇ、殿下。自分がされて嫌なことは、人にしてはいけません。どうしてか、知っていて?」
「……っ、ああもう!!こうやってやり返されるからだよ!」
「ほほほ、今は正解」
嫌そうにゆっくりと立ち上がって、クローディアスは執務室に戻るため、歩き出した。
すぐに立ち止まり、愛しい婚約者に耳許で囁く。
「きみの焼いたクッキー、美味しかったよ。わざわざありがとう」
「…………っ」
ちゅ、と、わざと音を立てて耳たぶにキスすると、みるみる耳が赤くなる。
可愛いなぁ、と姿勢を戻すと、顔色は変えずにキッと睨まれた。
「殿下!!」
「はいはい、ちゃんとお仕事しますよ。……ごちそうさま」
ヒラヒラと手を振って立ち去るクローディアスに、エヴァンジェリンは今度こそ真っ赤になってテーブルに突っ伏した。
「もうっ……もう!破廉恥ですわ!!」
その背後に、すすすっと近づく影。
「お嬢さま……お茶を入れ替えましょうか?」
もちろんその場にいた侍女が静かに尋ねると、エヴァンジェリンはビクッとしたが、テーブルに突っ伏したまま、自棄になって言った。
「ええ!今度はアイスティーにしてちょうだい!ミントでね!」
「……かしこまりました」
もそもそ姿勢を正すお嬢さまに吹き出しそうになりながら、侍女はお茶の準備を始めた。
お嬢さまの好みに合わせて、ミントティーを冷やすのではなく、濃いめのアイスティーにミントシロップで甘みをつけたものを淹れるために。
口許だけは微笑んでいるエヴァンジェリンに、クローディアスは少々ゾワッとした。
自分に向けられている訳ではない、と、判ってはいたのだが。
「同性とは会話しているようですが……まあ、変な会話ですけど」
「変な?」
「ええ。『どんな女もオレのものだから、アンタの婚約者も取っちゃうケド、ゴメンな』と、いったような?」
「何だ、それ……」
クローディアスは、美しく盛り付けられたティーフードの中からスパイスクッキーを選んで口にすると、わずかに表情を緩めた。
お気に召したらしい。
「で、モテているのか?その男」
「いえ?まったく。他人の容姿をどうこう言うのはよろしくありませんが、その男は何の特徴もない外見ですし、何より言葉が通じませんので」
「それで何でその自信⁉︎」
「さあ?まあ、ほんの少し太り気味なのと、茶髪茶眼なのが、珍しいと言えば珍しいでしょうか。……貴族としては」
エヴァンジェリンの言葉に、クローディアスはガクッと肩を落とした。
「まあ……その特徴って、ほぼ平民だよねー……」
まったく、意味が判らない。貴族の中に平民の特徴を備えて混じっていて、何故モテると思えるのか。
「何でも、わたくしがハーレムづくりのきっかけになるとか?わたくしは、“チョロイン”で、“ナデポで即落ち”なんだそうで」
「……はぁ?」
聞き覚えのない言葉に眉を寄せたクローディアスに、エヴァンジェリンは肩を竦めた。
「意味は訊かないでくださいませ。何度も聞かされたので覚えましたが、言葉自体は判りませんの。……それで、何故か執拗にわたくしの頭に触れようとしていまして」
「なっ……!触れられたりは……!」
「もちろん、していません。ただ、わたくしの護衛が遮るたびに癇癪を起こして騒ぐので、いい加減鬱陶しいのですわ」
「……成程?彼女に通ずるものがあるな」
クローディアスが諦めたように溜息を吐くと、エヴァンジェリンは、今度こそにっこり微笑んだ。
「そうでしょう?ですから、多少でも会話の出来る同性であり、身分が最も高い、あなたの出番だと思いますの」
「……きみのクラスの男生徒は何をしてるんだ」
「そうですわねぇ。嫌がってまったく近寄らない人と、おこぼれがもらえると信じて取り巻いている人に分かれますわねぇ」
「……おこぼれって」
「彼が飽きた女性を、回してもらえる約束?とか?」
「……嬉しいのか⁉︎それって」
「さあ?男性の感覚は何とも」
澄ましてお茶を飲んでいるエヴァンジェリンを、クローディアスは恨めしそうに見つめた。
「そんな男の相手を、私にしろと言うの?」
「……ねぇ、殿下。自分がされて嫌なことは、人にしてはいけません。どうしてか、知っていて?」
「……っ、ああもう!!こうやってやり返されるからだよ!」
「ほほほ、今は正解」
嫌そうにゆっくりと立ち上がって、クローディアスは執務室に戻るため、歩き出した。
すぐに立ち止まり、愛しい婚約者に耳許で囁く。
「きみの焼いたクッキー、美味しかったよ。わざわざありがとう」
「…………っ」
ちゅ、と、わざと音を立てて耳たぶにキスすると、みるみる耳が赤くなる。
可愛いなぁ、と姿勢を戻すと、顔色は変えずにキッと睨まれた。
「殿下!!」
「はいはい、ちゃんとお仕事しますよ。……ごちそうさま」
ヒラヒラと手を振って立ち去るクローディアスに、エヴァンジェリンは今度こそ真っ赤になってテーブルに突っ伏した。
「もうっ……もう!破廉恥ですわ!!」
その背後に、すすすっと近づく影。
「お嬢さま……お茶を入れ替えましょうか?」
もちろんその場にいた侍女が静かに尋ねると、エヴァンジェリンはビクッとしたが、テーブルに突っ伏したまま、自棄になって言った。
「ええ!今度はアイスティーにしてちょうだい!ミントでね!」
「……かしこまりました」
もそもそ姿勢を正すお嬢さまに吹き出しそうになりながら、侍女はお茶の準備を始めた。
お嬢さまの好みに合わせて、ミントティーを冷やすのではなく、濃いめのアイスティーにミントシロップで甘みをつけたものを淹れるために。
50
お気に入りに追加
823
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄された公爵令嬢、やることもないので趣味に没頭した結果
バレシエ
恋愛
サンカレア公爵令嬢オリビア・サンカレアは、恋愛小説が好きなごく普通の公爵令嬢である。
そんな彼女は学院の卒業パーティーを友人のリリアナと楽しんでいた。
そこに遅れて登場したのが彼女の婚約者で、王国の第一王子レオンハルト・フォン・グランベルである。
彼のそばにはあろうことか、婚約者のオリビアを差し置いて、王子とイチャイチャする少女がいるではないか!
「今日こそはガツンといってやりますわ!」と、心強いお供を引き連れ王子を詰めるオリビア。
やりこまれてしまいそうになりながらも、優秀な援護射撃を受け、王子をたしなめることに成功したかと思ったのもつかの間、王子は起死回生の一手を打つ!
「オリビア、お前との婚約は今日限りだ! 今、この時をもって婚約を破棄させてもらう!」
「なぁッ!! なんですってぇー!!!」
あまりの出来事に昏倒するオリビア!
この事件は王国に大きな波紋を起こすことになるが、徐々に日常が回復するにつれて、オリビアは手持ち無沙汰を感じるようになる。
学園も卒業し、王妃教育も無くなってしまって、やることがなくなってしまったのだ。
そこで唯一の趣味である恋愛小説を読んで時間を潰そうとするが、なにか物足りない。
そして、ふと思いついてしまうのである。
「そうだ! わたくしも小説を書いてみようかしら!」
ここに謎の恋愛小説家オリビア~ンが爆誕した。
彼女の作品は王国全土で人気を博し、次第にオリビアを捨てた王子たちを苦しめていくのであった。
何でもするって言うと思いました?
糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました?
王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…?
※他サイトにも掲載しています。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる