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初恋 ルパート

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「よく来てくれた」

「伯父上、お久しぶりです。……いや、父上とお呼びするべきですか?」

「それは、どちらでも構わない。……スタンから息子を取り上げたい訳ではないからな」

 この国の筆頭公爵、カルディール・ティアール閣下は、私の伯父──つまり、父上の兄である。
 少し前に我が国の元王太子がやらかしたせいで、私にティアール公爵家の後継の座が回って来た。

 従兄のライ兄上が王籍を賜って王太子となり、従妹のフロリアーナは王家の養女となって隣国に嫁いだからだ。

 ……うん。まあ、仕方ないかなーとは思うけど、何で自分ちの後継、みんな放出したかな。私は2人の従兄弟であっても、しがない伯爵子息なんだぞ。

 整えてもらった部屋に落ち着き、思わず溜息を吐く。

 いや、公爵家の後継となるのは仕方ないとしても──上の兄上はうちの伯爵家の後継だし、下の兄上は騎士として領軍に入ってるから、無理──ここにいると、黒歴史を突きつけられるんだよね!!

 あああ……ホント、公爵家ここと王宮には近づきたくなかったのに……(泣)



▼△▼△



 ティアール公爵家次男だったうちの父は、伯父上よりだいぶ早く結婚して、とっとと領地に引っ込んだ。
 ぽやんとふわふわしてる母を、社交界に関わらせたくなかったらしい。

 いや、ちゃんと伯爵令嬢だったんだけどね?とにかくおっとり……といえば聞こえはいいが、騙されやすく利用されやすい母を守るためには、物理的に距離を空けるのが1番だと思ったんだと。

 それでも手紙で追っかけてきた、っていうからよっぽど使いやすかったんだろうなぁ。

 ちなみに、母の結婚前の渾名は、『無垢な阿婆擦れ』だった。
 ……まあ、それだけ当て馬として利用されて、強制的に浮名を流されてたんだろう。
 無垢な、とつくのは、本人が全くそれを把握してなかったからだろうな。話してみればすぐ判るくらいに。

 で、引っ込んだ父が次に領地から出て来たのは、何と子どもが3人生まれてからだった。
 今から思えばあの時は、ティアール公爵家の分家として、正式にティアール伯爵家を起こすための手続きだったんだな。

 だから、王宮に行ったんだ。



▼△▼△



 もう、衝撃だった。一目惚れだった。あんな綺麗な子、領地にはいなかった。

 キラキラと輝く赤みがかった金髪、ちょっと吊り上がった大きな緑色の瞳、何も塗らなくても赤い唇。
 薄紅のシンプルなドレスがすごく似合ってて、ものすっごく可愛かった。

 男が惚れたらどうする?そりゃもう、プロポーズでしょ!!

 私はその子に走り寄り、跪こうとして、護衛に止められた。

 ああ、身分もあるんだね!!……だって、誰か知らなかったから!!

 だから、ちょっと離れた所に跪いて、大きな声で言ったんだよ。言っちゃったんだよぉ……。

「お嬢さん、あなたに一目惚れしました!どうかぼくと婚約してください!!」

「無理です」

「無礼者!」

「……え?」

「だあぁ、ルパート!何やってんだお前は!!」

 下の兄上に思いっきり殴られた……慌てて謝罪する父の話を聞いていれば、その子……その方は、隣国の王太子殿下とご婚約なさっているアナスタシア王女殿下でした(泣)

 まだお披露目前の子ども──その時もう10歳だったけど、まだお披露目してなかった──だし、好意を伝えただけだから、と大目に見てもらって、何とか公爵家に戻れた。

 その間中、ずっと小声で上の兄上に説教されてたけど。



▼△▼△



 その日は部屋から出してもらえず、従兄妹たちに会ったのは次の日だった。

 天使だー!!天使がいるー!!昨日のアナスタシア殿下もすっごく可愛かったけど、この子の方がずっと可愛い!!

 ふわふわの金髪に、透けるような水色の瞳、可愛いピンクの唇。薄いピンクのフリルたっぷりのドレスで、ほんとに可愛いぃぃー!!

 従妹ならいいよね?結婚出来るもんね?これこそ一目惚れ、昨日のは間違いさ!

「フロリアーナ、ボクの婚約者になってくださいっ!!一目惚れしたからっっ!!」

「お前は全く懲りてないんかーっっ!!」

 また、下の兄上に殴られた。でも、そんなの効かないもんね!!
 フロリアーナはボクより3つ歳下だからまだ7歳の筈だし、それなら婚約だってしてないだろ!

 跪いてニコニコ手を差し伸べてると、フロリアーナは非常に気まずそうな表情を浮かべていた。

 そりゃそうだ。

「あの……ごめんなさい、無理です」

「え⁉︎何で⁉︎ボクのことキライ⁉︎」

「そういうことではなく……わたくし、もう婚約しておりますの」

 ……いやね、ここで諦めておけば、そこまで黒歴史でもなかったんだよ。『そうなんだ、不躾にごめんね』、とでも言って、握手でもすれば。

 だが、その時の私は昨日理不尽な恥をかいた(と思っていた)ストレスと、みんなの前で再び恥をかいたというストレスが重なり、甘えん坊の3男の本領を発揮し、……泣き喚いたのである。思いっきり。

「いやだぁ、フロリアーナの婚約者になるぅ!ボクと結婚してぇー、フロリー!!」

「…………」

「やぁだぁー!ボクがフロリーと結婚するのぉーっっ!!!」

 ……ああ、はい、ごめんなさい。我儘だったんです、兄たちと歳の離れた甘えん坊だったんですー!
 そうやって泣けば大抵のことは叶ったんですよ!

 どれくらい泣き喚いていたのか、気がついた時には何故かライ兄上しかいなくなっていた。

「そんなにフロリーがいい?」

「……うん!」

「フロリーのためなら努力する?」

「うん!!」

 ……ああはい、馬鹿ですね。判ってますとも。

 私はそのあと何故か王太子教育を受けさせられ、『この国の王太子になれば、フロリーをお嫁さんに出来るよ?』というライ兄上の言葉に乗せられて、撃沈するまで頑張ったのだった。

 チクショー!何でライ兄上も王太子殿下も、あんなに頭いいんだよ!
 3ヶ月で投げ出したよ!悪かったな!!

 ああ、黒歴史……。

 まあね。今、それが役に立たない訳じゃないから、人生無駄なことってないんだけどね!

 公爵家の後継教育を受けながら、今日も叫びたくなるのだった。
 フロリーが他国に嫁いでるだけ、マシなのかもしれない……。
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