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黒い感情

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カイウスか自分か、そんなの…ここに来る前から決まってる。

俺はカイウスと自分、両方を助ける。

どちらが欠けたって、それは助ける事にはならない。
カイウスに近付くと、俺とカイウスの間に神が立っていた。

カイウスから出た黒いなにかのせいなのか、目が虚だ。
俺も黒いなにかに触れているが、カイウスの力に守られているから平気だ。

この黒いなにかがカイウスの体を蝕んでいるんだ。
でも、これもカイウス…俺の大好きなカイウスには変わりない。

受け入れたい、このカイウスも全部俺が受け止める。
指輪に触れて、ゆっくりと外した。

俺を守ってくれていた、俺を包み込んだ結界が壊れていくのを感じた。
その瞬間、一気に体が重くなって立っていられなくなった。
膝を付くと、足がだんだんと黒くなっていっていた。

ゆっくりだが確実に俺を黒く染めていた。

痛くて苦しい、悲しい、嫌な感情が頭の中を支配しようとする。
死んでしまえたら、この痛みもきっと楽になる。
痛みに顔をしかめて息も荒くなり、手で黒くなった足に触れると手も黒くなった。

「人間がカイウスの力に耐えられるわけがないだろ、お前のその力と比べるのもおこがましい神の力なんだからな」

神はそう得意げに笑っていて、俺に手をかざしていた。
神の力…?違う、この力は神の力なんかじゃない。
神が手に力を込めていると、カイウスの気配が混じっている事に気付いた。

黒いなにかにずっと触れていたから、カイウスの力を自分の中に取り込んだのか。

その力はカイウスの力なのに……

嫌な気持ちになると、痛みが増してきて足が痺れる。
感覚はなくなったけど、無理矢理動かせば何とかなる。

神の力から避けようと黒い地面を這っていたら、神は手を握り力を消した。

何故か考える暇もなく、神が俺とカイウスの前から離れた。
俺の視界に全身が黒いカイウスが映り込んだ。

真っ黒な剣を持ったカイウスは、そのまま俺目掛けて剣を振り下ろした。
地面が割れて、周りの木や建物を巻き込んで衝撃波で破壊した。
俺の指輪が割れて、力が放出した。

キラキラと光り輝くそれは、俺の周りに集まってきた。
動かない体を軽くしてくれている。
大丈夫、まだ俺は生きている…どんなに傷付いても、カイウスの絶望に比べたらなんて事はない。

俺の体も黒く染まっていて、それのおかげで助かった。
人よりも早い回復力だ、その代わり痛みは残る。
悲しみも苦しみも全て背負っている。

カイウスのだったら、構わない…俺は全部受け入れる。
どんなカイウスも愛してる、俺の気持ちはなにがあっても変わらない!

神は俺を睨みつけて、俺達の前に再び立とうとしていた。
それよりも早く、走って走ってカイウスに手を伸ばした。
神の怒鳴り声が聞こえるが、俺にはカイウスしか見えていない聞こえない。

「俺の全部、カイウスに返すよ!」

自分の手に全てを集中させた。

カイウスは自分が自分でなくなるかもしれないって、あの時から気付いていたんだ。
だから俺に自分の心が入った指輪をくれたんだ。

俺を信じて、カイウスは俺に預けてくれたんだ。

ごめんね…ずっと傍にいたのに見つけるのが遅くなっちゃった。

今、それを返すよ…リーズナの力とカイウスの心と、俺の生まれ持って手にしていた悪魔の力。
俺の手とカイウスの手が触れた。

唯一真っ黒になっていない、俺がカイウスにあげた指輪が見えた。
ギュッと手を握り…カイウスを包み込むように抱きしめた。
背中に腕を回すと、冷たい感触がした。

俺の力がカイウスに吸収されている感覚がした。
全身の力が抜けていく、それでもしがみつくようにカイウスを離さなかった。

バチバチと頬を切るように、力が拒絶反応していたが気にしなかった。

手の感覚がなくなり、しがみつく事も出来なくなりカイウスの背中から手がずり落ちた。
やっとここまで来たのに、ここまでが俺の限界なのか…

全身の力が抜けていたが、地面に倒れる事はなかった。
俺の頭を撫でる手に、安心して全ての負の感情が愛しいものへと変わった。

「カイ……ウス」

「ライム、ありがとう…俺を見つけてくれて」

「ごめんね、見つけるの…遅くなっちゃって」

鮮やかな青い髪を靡かせて、カイウスは静かに微笑んでいた。
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