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三つの力

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結界から離れるのとほぼ同時に結界は跡形もなく破壊された。
避ける暇もなく腕を振り回してきて、腕でガードしたが、壁に激突した。

壁に穴が開いて、何処かの部屋に転がった。
休まる暇もなく、怪物は腕を伸ばして俺の足を掴んで持ち上げた。

力いっぱい地面に叩き付けられた。

頭がクラクラする、体もあちこちが痛い。
立ち上がろうとしたが、体が上手く動かなかった。

腕に力を入れて体を転がすと、俺が倒れていた場所に怪物の拳がめり込んだ。
ふらつく体を壁に寄りかかりながら支えた。

その場所に一秒でも長く止まればあっという間にやられてしまう。

怪物の弱点さえ分かれば…

地面を揺らしながら、暴れている怪物を集中してみる。
何処が弱点なんだ?やっぱり頭か?

でも自分より大きな体の怪物の頭をどうやって狙うんだ。
避けてばかりでは隙が見えない。

またジャンプして、上からしか頭を狙えない。

今の俺にはそこまでの体力は残されていない。

力をぶつけるしかない、過去の時に戦った神の化身の時のように…

明らかに今までよりも強い神の化身だけど、強くなったのは神の化身だけじゃない。

俺だって、皆の力を借りて強くなっているんだ。

そう考えれば、相手が強敵だって怯む事はないんだ。

怪物の大きな拳が俺に迫ってきていた。

グッと強く拳を握りしめて、怪物の方を向いた。

思いっきり力を込めて殴り返した。

拳と拳がぶつかり、押し潰されそうになる。
衝撃で骨が軋むほどの痛みを腕に感じる。
皮膚が切れて、手が血に染まっていく。

一瞬でも痛みを感じたら、すぐに押されて死んでしまう。

諦めるわけにはいかないんだ、俺は絶対にカイウスを諦めない。

温かいものが俺の足元を包み込んだ。
視線を足元に向けると、そこには黒猫がいた。

ジッと俺の方を見ているだけの黒猫は幻覚だと分かるほどに体は透けていた。
それでも、温かい感触は確かにリーズナのものだ。

血だらけの手を優しい光が包み込んでくれた。
その光は手のカタチになり、背中にも同じ温かさを感じた。

「カイ…ウス」

『…ライム』

脳内に直接語り掛けてきた、確かに俺が記憶しているカイウスの声だ。
抱きしめられる優しさを幻覚だ幻聴だなんて思わない。

拳をゆっくりと開いて、手を広げる。
俺の手にカイウスの手が重なる。

俺の瞳が真っ赤に染まり、最大限の力が放たれた。

怪物は弾き飛ばされて、体が灰になって消えた。

ずっと息を止めていたのか、思いっきり息を吸ったら咳き込んだ。
ゆっくり深呼吸をして、落ち着かせる。

肩を触れられる感触がして、振り返った。

「カイウスっ!!」

「…えっ?」

後ろにいたのは、驚いた顔をしたハイドレイだった。

周りを見渡しても、カイウスは何処にもいなかった。
手の甲を見たら、見ていられないほどの酷い状態だった。

指を一本二本と動かしてみると、まだ動いた。
俺からリーズナが離れて地面に伏せていた。

リーズナを抱えると「俺はここまでみたいだ、カイを頼んだぞ」と言って瞳を閉じた。

俺の腕からリーズナが光となって消えた。
その光をギュッと抱きしめる。

「死んだのか…?」

「違うよ、元の場所に戻っただけだよ」

「も、元の…?」

「ハイドレイ、お願いがあるんだ」

「俺に出来る事があれば…こんな状態じゃ、あまり戦えないから足手まといにはなりたくない」

「外に行って騎士団の人達に説明してきてほしい」

「騎士団に?」

「もう敵は一人だけだ、終わったら騎士団にいろいろやってもらいたい事が多くなるから先に説明した方がスムーズに行くから」

ハイドレイも騎士の一人だ、俺が話すよりも話を聞いてくれる筈だ。

ハイドレイは俺を心配してくれるが、俺は大丈夫だと頷いた。
カイウスを取り戻すために、行くんだ。

ハイドレイも頷いてくれて、俺に背を向けて走っていった。

俺はカイウスのところに向かって走った。

すぐに足を止めて、足元を見つめた。

黒い、こんなところまで黒いのが広がっていたのか。
俺を追いかけて来ないのは、俺が死んだと思っているからだと思っていた。

でも、すぐにそれが違うんだと分かった。

黒いなにかを追って歩いてみると、そこにいたのは人のカタチをした黒いものと座り込んでいる神がいた。
神も半分以上黒く染まっていて、それでも動かなかった。

俺の足音に気付いた神は、下に向けていた顔を上げた。

「なんだ、まだ生きていたのか?カイウスの力があれば生きているのも当然か」

「……」

「カイウスの力はカイウスのもの、お前がカイウスを愛しているなら返せるよな…返さないと、カイウスは化け物へと変わるだろう…完全でないから神にはほど遠い……お前が取るのは自分の命か、カイウスか」
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