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誤解が誤解を招く

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「んっ、んー…おはようユリウ…ス」

どのくらい寝たのか、窓がない地下にいたら分からない。
とりあえずユリウスに挨拶しようと、背を伸ばしつつユリウスを見渡して探す。

ユリウスは壁に寄りかかって眠っていた。
すぐに口を閉ざして、音を立てないように起き上がる。
ローブを叩いて、ユリウスに掛けた。

起こさないように、静かに作業を始めるかな。
初めて作ったからか、型取りした筈なのに歪だ。
カイウスにこんな変なアクセサリーあげるのはちょっとダメかな。

でもカイウスにはもう一つ作る時間がない。
せめてマシに見えるように綺麗に綺麗にゆっくりと磨く。

俺は魔力を消す力しかないし、その力は誰かにあげる事が出来ない。
気持ちを込めて、俺は磨く。

指輪が微かに光をまとっていて、指輪に触れた。
すると、脳内に声が響いてきた。

『おい、今何処にいるんだ』

「リーズナ、家は見つかった?」

『そんな事より場所を教えろ!俺はカイにお前を任されたんだぞ!』

「ご、ごめんなさい…今はカイウスの家にいるよ」

リーズナの声からして焦って連絡してきたのは分かる。
俺がいなくなれば、心配させちゃうよな。
リーズナにも、カイウスの事諦めてないって言わないと……リーズナにこれ以上心配掛けないように…

そして今、俺がいる場所を聞いてリーズナが喋らなくなってしまった。

ユリウスの話をしていないから、リーズナからしたら何でか分からないよな。
リーズナにユリウスの話をすると、とても低い声で『お前…』と言っていた。

『カイウスを諦めて自暴自棄になってないかと心配したが、まさか他の男に行くとはな』

「そんなわけないって!俺が好きなのはカイウスだけだから!」

「……うるせぇ、何一人で喚いてんだよ」

リーズナにとんでもない誤解をされて、全力で否定した。
俺自身も違うと早く言いたくて大きな声を出したら、当然寝ていたユリウスが起きてしまった。

指輪の声は俺にしか聞こえないから、ユリウスからしたら独り言をぶつぶつと言っている変人に見えるだろう。
ユリウスに「ごめんね、起こして」と謝ると脳内でリーズナが『カイじゃなくて、近くにいる男の部屋に泊まったのか』とさらに悪化した。

これ以上誤解されたくないから、とりあえずリーズナにカイウスの家まで来るようにお願いした。
口で言っても疑いは晴れそうになかったから見てもらえれば納得すると思う。
俺側の会話を聞いていたユリウスは、俺のところに歩いてきて頭の上からローブを被せられた。

「誰か他に来るのか?」

「うん、俺の仲間…師匠とも言う」

「お前にそんな関係者がいるなんてな、昔俺を殴ったのもその師匠に教えられたのか?」

「あれは、その…」

ユリウスはまだその事を覚えていたんだな。
あの時はリーズナではなく、カイウスに戦い方を学んでいた。
でも、あれはそういう事ではない。

カイウスの事を悪く言われて許せなかったんだ。
ユリウスにはユリウスの事情があった事を知っても変わらない。
後悔は一つもしていない。

「殴った事はごめんなさい、でも…カイウスを悪く言った事は謝らないから」

「あっそ、カイウス信者だもんな…お前は」

ユリウスの煽りを無視して、ローブを着ながらリーズナを迎えに行こうと階段に向かった。

最初は行く気がなさそうだったけど、結局気になったのか後ろから付いて来た。
地下から出ると、玄関に人影が見えた。
猫の姿だと入れてもらうどころか人に開けてもらう事も出来ないから、大人の姿のリーズナがいた。

ドアを開けたであろうリーズナの近くにいたメイドは俺達に頭を下げて行った。

リーズナに駆け寄ると、誤解を解くために呼んだのに顔を歪めていた。

「それ、お前の趣味か」

「だから全然違うって!」

女装していた事をすっかり忘れてしまい、余計な誤解を招いてしまった。
しかも、後ろにいるユリウスもリーズナを見て「師匠じゃなくて、お前の男?」と言っていた。

いや、どっちも違うんだって!

ユリウスは分からないとしても、リーズナはカイウスの兄だって事知ってるよね!?
とりあえず指輪はまだ仕上げが残ってるから、リーズナと一緒に地下に戻った。

リーズナもここの存在は知らなかったみたいで物珍しく見渡していた。

「こんなところがあったのか、カイから聞いた事ないな」

「ユリウス様の工房みたいなんだ、作りたいものがあったから借りてるだけ」

「………様?」

「細かい事は気にしなくもいいから、本当に俺はカイウスを想ってここに来たんだから!」

「カイを?諦めたんじゃないのか?」

リーズナもあの場所にいたから、俺とカイウスの事を見ていた。
カイウスの負担にならないように、あの場では諦めたフリをした。

カイウスがなんて言おうが、俺はカイウスを助けるよ…その気持ちは揺らぐ事はない。
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