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カイウスとユリウス
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「君っ」
「…は、はい」
「今のうちに行って、ね」
マリーに優しく言うと「ありがとうございます」と頭を下げて走っていった。
ホッと胸を撫で下ろしたら、ユリウスに手を振り払われた。
マリーがいなくなったから、ユリウスも少しは正気になったのか舌打ちしていた。
そのまま無言で歩いて行き、俺も後から付いていった。
階段の横に扉があり、そこを上着の内ポケットから取り出した鍵で開けた。
そこにあったのは地下への入り口だった。
ローベルト家の地下みたいだな、と触ってみていたらユリウスが見えないくらいに離れてしまい、急いでユリウスを追いかける。
ユリウスは階段の先にいて、壁に寄りかかって腕を組んでいた。
そこの工房を見つめて、小さな声が無意識に出た。
武器を作る大きな工房や、壁一面に飾られたありとあらゆる武器が広がっていた。
「凄い、地下にこんな施設があるなんて」
「当然だろ、俺がどんな思いでここを作ったかなんて誰も知らねぇよ」
そう言ったユリウスは、中心に置いてある大きな窯に触れていた。
そういえば、元はカイウス殺すために武器を作っていたんだっけ。
今のカイウスは武器では倒せないから、ローベルト卿に使うつもりなんだろう。
ユリウスはここを作るほどにカイウスの事を…
俺には分からない二人の事情があるんだよな。
ユリウスは「使うなら自分で掃除しろ」と俺にブラシを投げてきた。
俺のわがままを聞いてもらったし、そのくらいやるのは当然だ。
水を入れたバケツを用意して、窯の汚れをブラシで丁寧に落としていく。
ユリウスはジッと俺の背中を見つめていた。
「お前から見て、俺はどう映る?」
「どうって、ユリウス様はユリウス様にしか見えないけど」
「そうじゃねぇよ、俺はカイウスの兄に見えるか?」
「それは、血が繋がっているから当然では?」
いきなりユリウスは何故そんな事を聞くのか分からない。
カイウスとユリウスが兄弟だなんて、有名な話だろ。
ユリウスが他の誰かの兄弟だとは誰も間違わないのではないのか?
そう言ったらまた違うと、近くにあったテーブルを蹴飛ばしていた。
何を求めているのか本当に分からないんだけど。
ユリウスは俺の肩を掴んで、無理矢理振り返させられた。
胸ぐらを掴まれて、怒っているユリウスと視線が合った。
床にブラシが落ちた。
「俺は、ユリウスより下か?俺はアイツなんかより凡人でなんでいつも比べられる?そんなにあの化け物の方が優れてるのか!」
「………っじ、ない」
「あ?何だよ、言いたい事があるならはっきりと言え!」
「カイウスはっ、化け物なんかじゃ…ない」
「…っ!!」
ユリウスに投げ飛ばされて、床に背中を打った。
痛くて顔を歪めていたら、目の前にユリウスの剣があった。
磨かれた剣は俺の顔を映していて、体を起こしてユリウスの方を向いた。
ユリウスの顔は憎悪に歪められて俺を見下ろしていた。
一瞬背筋が冷たくなったが、ここで負けてはいけないと思って俺もユリウスを見つめた。
カイウスの事、化け物って言うのはたとえ兄弟でもダメだ。
「お前も結局見た目の人間だな、カイウスの事を悪く言われたら崇拝している奴は怒るのか?」
「たとえ逆でも俺は怒るよ」
「…は?」
「カイウスの事、凡人の人間って言ったら怒るから」
ユリウスは心底不愉快そうに眉を寄せて俺を睨んでいた。
そんなに凡人だって思われるのが嫌なのか。
そもそもユリウスとカイウスは同じ人じゃない、当然俺だって他の誰だって同じじゃない。
違う人を比べるのがそもそも間違った事なんだ。
俺からしたら、ユリウスもユリウスが言っている人と変わらないと思う。
自分で気づいているのか?気付いていないからそう言えるのか?
「貴方も貴方の言う比べる人と同じだよ」
「俺が?あんな見た目で判断する奴となにが一緒なんだ!」
「貴方も見た目で判断してる」
「……っ」
「どうして自分だけが不幸だなんて思うんだ」
ユリウスはカイウスの事を優れているから、カイウスがいなくなったら自分の事を周りが見てくれる、そう思ってずっと信じていたんだろう。
でも、辛い気持ちだったのはユリウスだけじゃない。
カイウスも誰にも理解されない苦しみをずっと感じていた。
周りからの期待に押し潰されそうになって、望まぬ力に今自分自身が殺されそうになっている。
自分に殺されるのがどういう感じなのか誰にも分からない。
周りにはカイウスなら大丈夫だと言われて、誰にも相談出来ず一人ぼっちなんだ。
今だって苦しくて怖いのに、俺の幸せを一番に考えてくれている。
俺はカイウスが一人で抱え込んで、苦しまないように頼られたいといつも思っている。
カイウスを絶対に殺させたりしない、一人ぼっちだった俺を助けてくれたように俺がカイウスを一人ぼっちになんてさせない。
「貴方はカイウスの事をちゃんと見てた?カイウスの見た目だけで判断して避けていたんじゃないのか?」
「…っ!」
「神の子って呼ばれて、自分でも理解出来ない力を授かって…幸せに思える?」
「……うるさい、アイツは特別な力を持っていて誰にだって愛されて幸せに決まってる」
「何も、分かってないよ…カイウスの事」
カイウスの人生が全て不幸だったわけではない。
幸せな時だっていろいろあったんだって思う。
俺もカイウスといる時間は幸せだった…カイウスも幸せだと思ってくれたら嬉しい。
でも、今のカイウスが幸せだって思うなら俺は違うと言うよ。
「…は、はい」
「今のうちに行って、ね」
マリーに優しく言うと「ありがとうございます」と頭を下げて走っていった。
ホッと胸を撫で下ろしたら、ユリウスに手を振り払われた。
マリーがいなくなったから、ユリウスも少しは正気になったのか舌打ちしていた。
そのまま無言で歩いて行き、俺も後から付いていった。
階段の横に扉があり、そこを上着の内ポケットから取り出した鍵で開けた。
そこにあったのは地下への入り口だった。
ローベルト家の地下みたいだな、と触ってみていたらユリウスが見えないくらいに離れてしまい、急いでユリウスを追いかける。
ユリウスは階段の先にいて、壁に寄りかかって腕を組んでいた。
そこの工房を見つめて、小さな声が無意識に出た。
武器を作る大きな工房や、壁一面に飾られたありとあらゆる武器が広がっていた。
「凄い、地下にこんな施設があるなんて」
「当然だろ、俺がどんな思いでここを作ったかなんて誰も知らねぇよ」
そう言ったユリウスは、中心に置いてある大きな窯に触れていた。
そういえば、元はカイウス殺すために武器を作っていたんだっけ。
今のカイウスは武器では倒せないから、ローベルト卿に使うつもりなんだろう。
ユリウスはここを作るほどにカイウスの事を…
俺には分からない二人の事情があるんだよな。
ユリウスは「使うなら自分で掃除しろ」と俺にブラシを投げてきた。
俺のわがままを聞いてもらったし、そのくらいやるのは当然だ。
水を入れたバケツを用意して、窯の汚れをブラシで丁寧に落としていく。
ユリウスはジッと俺の背中を見つめていた。
「お前から見て、俺はどう映る?」
「どうって、ユリウス様はユリウス様にしか見えないけど」
「そうじゃねぇよ、俺はカイウスの兄に見えるか?」
「それは、血が繋がっているから当然では?」
いきなりユリウスは何故そんな事を聞くのか分からない。
カイウスとユリウスが兄弟だなんて、有名な話だろ。
ユリウスが他の誰かの兄弟だとは誰も間違わないのではないのか?
そう言ったらまた違うと、近くにあったテーブルを蹴飛ばしていた。
何を求めているのか本当に分からないんだけど。
ユリウスは俺の肩を掴んで、無理矢理振り返させられた。
胸ぐらを掴まれて、怒っているユリウスと視線が合った。
床にブラシが落ちた。
「俺は、ユリウスより下か?俺はアイツなんかより凡人でなんでいつも比べられる?そんなにあの化け物の方が優れてるのか!」
「………っじ、ない」
「あ?何だよ、言いたい事があるならはっきりと言え!」
「カイウスはっ、化け物なんかじゃ…ない」
「…っ!!」
ユリウスに投げ飛ばされて、床に背中を打った。
痛くて顔を歪めていたら、目の前にユリウスの剣があった。
磨かれた剣は俺の顔を映していて、体を起こしてユリウスの方を向いた。
ユリウスの顔は憎悪に歪められて俺を見下ろしていた。
一瞬背筋が冷たくなったが、ここで負けてはいけないと思って俺もユリウスを見つめた。
カイウスの事、化け物って言うのはたとえ兄弟でもダメだ。
「お前も結局見た目の人間だな、カイウスの事を悪く言われたら崇拝している奴は怒るのか?」
「たとえ逆でも俺は怒るよ」
「…は?」
「カイウスの事、凡人の人間って言ったら怒るから」
ユリウスは心底不愉快そうに眉を寄せて俺を睨んでいた。
そんなに凡人だって思われるのが嫌なのか。
そもそもユリウスとカイウスは同じ人じゃない、当然俺だって他の誰だって同じじゃない。
違う人を比べるのがそもそも間違った事なんだ。
俺からしたら、ユリウスもユリウスが言っている人と変わらないと思う。
自分で気づいているのか?気付いていないからそう言えるのか?
「貴方も貴方の言う比べる人と同じだよ」
「俺が?あんな見た目で判断する奴となにが一緒なんだ!」
「貴方も見た目で判断してる」
「……っ」
「どうして自分だけが不幸だなんて思うんだ」
ユリウスはカイウスの事を優れているから、カイウスがいなくなったら自分の事を周りが見てくれる、そう思ってずっと信じていたんだろう。
でも、辛い気持ちだったのはユリウスだけじゃない。
カイウスも誰にも理解されない苦しみをずっと感じていた。
周りからの期待に押し潰されそうになって、望まぬ力に今自分自身が殺されそうになっている。
自分に殺されるのがどういう感じなのか誰にも分からない。
周りにはカイウスなら大丈夫だと言われて、誰にも相談出来ず一人ぼっちなんだ。
今だって苦しくて怖いのに、俺の幸せを一番に考えてくれている。
俺はカイウスが一人で抱え込んで、苦しまないように頼られたいといつも思っている。
カイウスを絶対に殺させたりしない、一人ぼっちだった俺を助けてくれたように俺がカイウスを一人ぼっちになんてさせない。
「貴方はカイウスの事をちゃんと見てた?カイウスの見た目だけで判断して避けていたんじゃないのか?」
「…っ!」
「神の子って呼ばれて、自分でも理解出来ない力を授かって…幸せに思える?」
「……うるさい、アイツは特別な力を持っていて誰にだって愛されて幸せに決まってる」
「何も、分かってないよ…カイウスの事」
カイウスの人生が全て不幸だったわけではない。
幸せな時だっていろいろあったんだって思う。
俺もカイウスといる時間は幸せだった…カイウスも幸せだと思ってくれたら嬉しい。
でも、今のカイウスが幸せだって思うなら俺は違うと言うよ。
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