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異変

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俺から視線を外して何処かを見ていた。
ローベルト卿が帰ってきたのかと思って、俺も横を見たらまだ誰もいなかった。
さっきまで居てもお構いなしだったし、今更気にしないよな。

でも、カイウスは俺の腕を掴んでいる手を離した。
そして、頭を抱えて眉を寄せていた。

息も荒くなって苦しげな表情に驚いて、カイウスを抱きしめて支えた。

「カイウスどうしたの?苦しい?」

「…ぅ、くっ」

どうしよう、医務室に連れていったらいいのかな…でもカイウスを連れていって大丈夫なのか?
俺にカイウスを治す力があったら…

そこで、ジークの言葉を思い出した。

ジークは俺に治癒の力があるって言っていた。
自分ではそんな力があるなんて知らないが、ジークが言ったという事は見たって事なんだよな。
俺が無意識に治癒の力を使った。

意識していなかったからどうすればいいのか分からない。

なんで大事な時に大切な人を守れないんだよ。
苦しげなカイウスを見て、頬に触れようとした。

その瞬間、カイウスが俺の手を振り払った。
乾いた音とヒリヒリと熱くなる手の痛みを感じた。

カイウスは一瞬だけ俺の方を向いて、そして目の前から消えた。
呆然と前を見ている事しか出来なかった。

カイウスの最後に見た顔は、俺に助けを求めているような…そんな悲しげな顔だった。
何処に行ったんだろう、カイウスは…地下に戻ったのか?

苦しくて辛そうな、あんな状態のカイウスを放っておけない。
乱れた服を整えて、濡れた下着が気持ち悪いが我慢してクローゼットの扉に触れた。

そこで今の俺の状況を思い出した。

部屋から差し込む光で、まだ夜ではない事が分かる。
外には数人の見張り、部屋の前には兵士がいる。
クローゼットから出たとしても、誰にも見つからずに行くのは不可能だ。

カイウスのところに行く前に捕まるわけにはいかない。

今すぐにでも駆け出したいのに、俺はまだここから出る事が出来ない。
カイウスになにかあった事は確かなんだ、なにがあったんだろう。

指輪に触れてリーズナにカイウスの体調の事を話そうと思っていた。
でも、リーズナも反応しなくなっていた。

リーズナならいつでも繋げてくれるのに、なにが起こっているんだ?

俺の不安は時間の経過と共に増えていった。

ローベルト卿が帰ってきても、これ以上の情報はなかった。

俺が知った情報は神に関する資料を集めた事だけだった。
思ったより情報を話す事はなかった。

ローベルト卿も警戒しているのか、単純にタイミングが悪かったのかは分からない。
でも、資料をローベルト卿から盗めればなにか分かるかもしれない。

今、俺が知りたいのはカイウスを癒す事だけだ。

資料はローベルト卿が当然持ち歩いて部屋を出たから盗む事は出来ない。
量が少なかったから、出来る事だ。

ローベルト卿が部屋から出て行き、完全に暗くなるまで俺はカイウスの心配ばかりしていた。






※カイウスの話

突然頭に響く不快な音と声に頭が割れそうになって、ワープ魔法で暗闇の地下に戻ってきた。
息も絶え絶えで、立っていられず四つん這いになって落ち着くのを待った。

いつもはメシアがいない夜中にあそこから出ていたからそんな事はなかった。

俺より他の事を大切にしているライムが許せなくて我慢できなくて、抜け出してライムのところまで来た。
俺というものを刻み込むために、他なんて見えなくしたかった。
今まで感じた事がない感情が芽生えてくる。

ライムは俺の事を助けてくれるんじゃないのか?
そう思っているなら、俺だけを見ろよ…他の奴なんてどうでもいいだろ。

…やっぱりライムも…

「所詮は人間だな」

「……メシア」

後ろから声が聞こえて、苦しいが後ろを振り返った。
腕を組んで何もないところで寄りかかっている。
自分の力で支えているんだという事は分かる。

舌打ちすると、メシアは嬉しそうな顔をしていた。
俺は全然嬉しくない、むしろ最悪だ。

でも、今の俺はなにかする気が起きなくてメシアに抱きつかれても振り払う事はなかった。
メシアはクスクス笑いながら、口を開いた。

「私が気付いていないと思っているんだろ、人間らしい愚かで無知な考えだ」

「離れろ、何を言っているのか分からない」

抵抗するのは面倒だが、抱きつかれて鬱陶しいのは変わらない。
口で言ったところでメシアが素直に止めてくれる奴だとは思っていない。

なにかに気付いたから俺を呼んだのか?
俺の脳内で直接名前を連呼しやがって、鬱陶しい。

そっちはそっちで勝手にやればいい。

俺はお前よりも大事な用があるんだ。
メシアは俺の髪を弄りながら、耳元で吐息混じりで話し出す。

本当に気持ち悪い。

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