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瓦礫の向こう側

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ジークは部屋の隅に置いてあった大剣を手に取った。
その剣をどうするかなんて、考えたくもない。
その大剣が俺に向けられて、体を守るように背中を丸めた。

大剣は横に突き刺さり、床を抉っていた。

「次にやったら、お前の腕を片方切り落とす」

「……」

「任務のために両足は切り落とさないように努力するが、片腕がなくても支障はないからな」

本気なんだろう、ジークの冷たい瞳は俺の腕を見つめていた。






あれからジークは何もしてこない、俺の肩の骨を折って満足でもしたのか?
ジークに与えられた食事は食べたくなくて拒絶した。

無理矢理食わせられても、吐き出しているからジークも食わせる事を止めた。
食いたくなったら食えと床に皿が置いてある。
…まるで家畜のような扱いだ。

薬が入っている疑いがあるから食事は取りたくないのが大半だけど、薬が入ってなくてもジークから与えられた食事は食べたくなかった。

食わなければ死ぬから、水でいい…それ以外は食べたくない。
栄養失調で死ぬ前にカイウスに会わないと…

夜中になって、寝たフリをしながら後ろにいるジークに警戒する。

なんでこんな時間なのに寝ないんだ?寝ないとリーズナに連絡すら取れない。
俺を見張っているのか、背中越しで俺の事を見ている気がする。

しばらくしてもジークは寝る気配がなくて、俺も体が痛くて寝る事が出来ない。
俺を殴りつけた男が近くにいるのに、呑気に寝れるわけがない。

早く寝てくれと思っていたら、俺の思いが通じたのか部屋のドアを叩く音が聞こえた。

ジークの足音が聞こえて、ドアを開くと兵士の声がした。

「ジーク様、ローベルト卿がお呼びです」

「……」

ジークは何も喋ってはいなかったが、ドアが閉まる音が聞こえた。

少し体を動かして後ろを見ると、ジークは部屋にいなかった。
いくらジークでも、ローベルト卿には絶対服従だ。
今のうちに自分の部屋に戻ろうかと思ったが、止めた。

今部屋から出たら、廊下に出たジークに見つかるかもしれない。
少ししてからがいい、ローベルト卿との話だってそんなすぐに終わるわけではないだろうし…

だったらまずはリーズナに連絡しよう、今なら誰かに見られる心配はない。
痛む指を動かして、指輪に触れると応えるように指輪が光に包まれた。

『どうかしたのか?せっかくいい感じの糸を持ってきたのに、部屋にいねぇし』

「……ごめんリーズナ、今ちょっと怪我してて…救急箱とか持って来れる?」

『本当になにがあった?』

「会ったら話す、部屋で待ってて」

リーズナの心配そうな声が脳内で響くが、今は詳しく話している時間はない。

よろけながら立ち上がり、壁に手を付きながら歩き出す。

腕を伸ばして、ドアまで行く事が出来て開いた。
廊下に出るだけでこんなに安心するものなんだな。

でも、ゆっくりもしていられない…自分の部屋に戻らないと…
自分の部屋がある場所まで早足で向かってドアに近付いた。
リーズナはもう来てるだろうな、ジークの話をして一緒に対策を考えよう。

ドアを開いた瞬間、別の力によってドアが閉じられた。
いくら引いてもドアが開かないし、俺の後ろに誰かいる。

冷や汗が流れて、耳元で「何をしている」と囁かれた。
喋り終わる前にしゃがんで、全速力で走った。
足が使い物にならなくなっても構わない、何処か…何処かに逃げ道がある筈だ。

この先は道が崩れていて、通る事が出来なくなっていた。

後ろを振り返るとジークが歩いてきていて、後ろに少しずつ下がる。
下を見ると、瓦礫が散乱していて落ちたら二階から普通に落ちた時よりも大怪我をする。
もしかしたら、本当に何処かが使い物にならなくなるかもしれない。

ジークの手が俺に伸びてきて、後ろに足が滑った。
俺に向かってきた手を振り払って、一人で落ちた。
ジークに助けられるくらいなら、奈落の底に落ちた方がマシだ。

床に強い衝撃を受けて、痛みで声が我慢出来ずに叫んだ。
思ったより痛い、でも大丈夫だ…まだ俺は動ける。
早くしないと、ジークに捕まってしまう。

立ち上がって、周りを見渡してから異変に気付いた。

「……ここ、は?」

俺が今いる場所は、屋敷の一階ではない。
二階から転落したのは確かなのに、ここはいったい何処なんだろう。

周りを見渡しても真っ黒な空間がそこにあった。
上を見上げると、微かに光が差し込んでいる場所が見えた。
あんな高いところからモロに落ちたら死んでしまう。

確かに痛かったけど、あのくらいの痛みなのは不自然だ。

誰かいるのか確認したいが、ジークに気付かれるから声を出せない。
もう大きな声を出しているから手遅れだとは思うけど…

何処に続いているのか、ゆっくりと歩いて誰かいないか周りを見渡す。
誰もいない、暗いと不安になる…ここは本当にローベルト家の屋敷?

俺の足音ともう一つ、こちらに近付いてくる足音が聞こえた。

まさか、もうジークが追いついたのか?何処かに隠れないと……

周りを見渡しても何処にも隠れるような場所はなかった。
とにかく追い付かれる前に逃げようと、走ろうとしたら足がなにかに引っかかって転げた。

足音は俺のすぐ傍までやって来ていて、拳を握りしめた。

「……誰だ?」

その声は凛とした耳に心地いい低音だった。
弾かれるようにして、後ろを振り返ると一瞬時が止まったかのように息をするのも忘れてしまった。

涙も溢れて止まらなくて、その人は俺の姿をジッと見つめていた。

いろいろ話したい事があったのに、いざ目の前にいると何も言えなくなる。

俺に代わってその人は「何処から入ってきたんだ?メシアの客人か?」と聞いてきた。
答えないといけないのに、一言しか声が出なかった。

「カイ…ウス」

「俺の名を知っているのか?…でも俺はお前を知らない」

悪気はないって分かっているが、いざそう言われたら心が痛い。

俺の目の前にいたのは銀色の髪色のカイウスだった。
髪色以外は最後に会ったカイウスと同じだった。
でも、俺の事が分からない様子で首を傾げていた。

カイウスに近付こうとしたけど、興味なさそうな顔をしてこちらを見ているカイウスに近付けなかった。
結界に拒絶されるのは平気だったのに、本人に拒絶されるのが一番キツい。

「メシアは今はいないから、帰れ…ここは人間のいる場所ではない」

「帰らない」

「何故?」

「俺が会いに来たのは貴方だから、カイウス」

俺の事をたとえ覚えていなくても、俺はカイウスを覚えてるよ。
俺がカイウスを連れ戻しに来た気持ちはずっと変わってない。

カイウスは自分に会いに来たとは思っていなかったのか驚いた顔をしていた。

偶然とはいえ、やっとここまで来たんだ。
ここからが本番だ、カイウスはこんなところにいちゃいけない。
カイウスの意思を無視して、利用されるなんて絶対にダメだ。
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