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知る者と知らぬ者

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「そんな震えた手で人を殺せるのか?」

「…っ」

「人の感情など無意味だ、俺は感情というものがない…ローベルト家に入りたいのなら恐怖など必要ない」

強い瞳で言われて、男は俺を感情のない瞳で見つめていた。

本当にそうなのだろうか。

見た目は確かにそうかもしれないが、俺には彼が無感情だとは思えなかった。
戦いに対しての恐怖はないだろう、カイウスや俺を攻撃した時の迷いは一切なかった。
痛みも感じてはいない顔をしていたから、その感情はないのかもしれない。

でも、感情っていろんなものがある…彼にはまだ愛情が残っている筈だ。
彼には似つかわしくないであろう、大切な感情。

「貴方だってまだ感情が残されている筈です」

「……」

「愛情は、残されているんじゃないんですか」

俺の言葉に眉を寄せて、腕を掴む力を込められて感覚がなくなる。
顔をしかめるが、男だって人形じゃなくただの人間なんだって伝えたい。

嫌いな相手だけど、それは違うってちゃんと言いたい。
誰であろうと、人の感情を無意味だなんて否定されたくない。
愛情がいらないと思っているなら自由だけど、俺はカイウスに与えられた大切な感情だ…俺の生きる意味であり勇気になっているんだ。

なんで薬を飲まないでローベルト家に協力しているのか分からない。
でも、人から生まれたなら必ず感情はあるものだ。
あの写真のような似顔絵にいた彼が本物のような気がするんだ。

「家族に愛情があるから、人形じゃないです」

「…俺の何を知っている」

「勝手に部屋に入っちゃってごめんなさい、そこで家族と一緒に笑ってる貴方を見つけて」

「…っ」

顔を思いっきり殴られて、その衝撃で地面に倒れた。
口の中に血の味が広がっていき、鋭い痛みが走る。
これは俺が悪いから殴られても仕方ない、踏み込まれたくない場所に踏み込まれたんだから…

男を見ると、俺を睨んでいて…俺はもう何も言わない事にした。
死んでも生き返っているのか本当のところは分からないが、不死身のような人と戦っても勝てる可能性はない。

周りの人達に喧嘩だと思われてしまい、注目を集めてしまう。
奥の方で騎士と目が合って、俺達のところに行こうとしていた。
このまま捕まったらカイウスを助けられなくなる!

狭い路地に入り、通り抜けると男も付いて来た。
少し広い場所に行って、後ろから俺達の名前を叫ぶ声が聞こえた。
絶対怪しまれたよな、逃げ切れるだろうか…こんな注目を集めて目的の似顔絵の人にバレない保証は何もない。

どのくらい離したか後ろを見ると、さっきまで付いて来ていた男がいなくなった。
まさかはぐれた?捕まるなんて事はなさそうだけど。

俺を追いかけてきた騎士は、俺が止まったから足を止めた。
この先は行き止まりだったから、止まるしかなかった。

よく行き止まりにぶつかるな、と自分でも思う。
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