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カイウスの話30

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「今すぐやめろ、人間に関わる事を…」

「お前がライム・ローベルトを殺せば人間なんかと関わりたくもない」

「…ふざけるな、俺は絶対に…ライムを、守る」

「お前は大勢の人間に愛されている、何もあの男でなくてもいいだろ」

「お前には一生分からないだろうな」

俺にはあの子じゃなければいけないんだ、愛を知らない存在には一生分からない。
代わりなんていない、俺の命そのものだ……だからライムは俺が必ず守る。

神が俺を見る目が変わった。
さっきとは違い、つまらない者を見るような目だ。

神を楽しませるつもりはない、何故ローベルト卿に協力しているのか分かった。
後は薬そのものがほしいが、神にお願いなんて絶対にしない。
素直に渡すような奴でない事くらい分かっている。

ならば、無理矢理にでも引っ張り出す必要がある。
手に力を込めると、神は逃げる事どころか何もしようとはしていなかった。

重い息を吐いて、手に雷をまとわせた。
暗い室内が明るくなってより周りが見えた。
さっきは神しか見えなかったが、これは…

神の周りの現状を見て、吐きそうになるのを堪えた。

床や壁にべったりとこびりついた血や、小さな鳥籠には体の一部がない精霊達が閉じ込められていた。

「つまらない男だな、やはりライム・ローベルトはお前にとっての害だ」

「俺の害はお前だ」

「その憎悪を何故元凶に向けない?私が精霊達をこうしているのは全てライム・ローベルトのせいだと言うのに」

何でもかんでもライムのせいにするな。
お前さえいなければ、ライムがあんな辛い目に遭わずに済んだんだ。
雷を鉄格子の向こう側にいる神に向かって放った。
しかし、神に通る前に弾かれた。

「無駄だ、この空間そのものが私の場所…お前の宮殿と同じようなものだ」

「なら、破壊も出来る筈だ!」

力を込めて鉄格子を殴り続けた。
金属の響く音は聞こえるが、鉄格子が壊れるどころか曲がる事もない。

俺の力不足だと言われたような気がして、腹が立つ。
でも、さっきまでの具合の悪さは引いていく。
ストレスが溜まっているから、発散されているわけではない。
何だろう、魔力を使うと俺の体調が不思議と安定していく。

「無駄だ無駄、お前には壊せない…私と同じ神にならない限り無駄だ」

「誰が神になるか、俺は俺のままでいい」

「そこは欲深な人間の方が扱いやすいな」

鉄格子を壊せないなら薬を回収する事は出来ない。
悔しいが、そろそろ俺自身も限界が近付いている。

力が安定したら、元の姿に戻りそうになる。

「カイウス、何故私が人間に力を与えていると思う?」

ライムを迎えに行く時間も考えて、さっさとこの場を離れようと思った。
神に背を向けると、俺にそんな事を言ってきた。

何故かって、それは自分でペラペラ喋っていただろ。
ローベルト卿を利用してライムを殺すためだろ。
その言葉を俺に言わせる気か。

怒りが湧き上がってきて、魔力で神を殴りつけそうになる。
でも、今油断して使うとすぐにでも元の姿に戻りそうになる。

そのまま神に振り返る事なく、歩いてこの場を離れようとした。

神の声が何処までも追いかけてきていて、鬱陶しい。

「精霊の力の適合者を探しているんだ、お前も張り合いがほしいと思わないか?」

「……」

「全てお前の神の力を引き出すための駒なんだよ」

精霊の力の適合者…その言葉が何処かで引っ掛かった。

人の体は異物を入れたら出そうともがく生き物だ。
異物を出す行為は、きっと魔力の放出なんだろう。
でも、全部の魔力を出し切るほど人間の体は出来ていない。

一滴でも魔力が残っていたら、放出が出来ず体の中で爆発する。
それが精神や体に異常が出来て、死んでいく……俺も何度も可笑しくなるローベルト家の人間を見てきた。

もし、適合者がいるとしたらきっと全部の魔力を出し切る事が出来るのかもしれない。
精神を保つ事も出来る…それは、人間と呼べる存在なのか?

俺のような化け物が生まれる、神は適合者を増やして俺に戦わせようとしている。
神の力を引き出して、俺がライムを殺すと思うのか?

俺が俺である限り、ライムを殺すわけがないだろ。

じゃあ、神の力が俺でなくなるとしたら…俺はいったい何になるんだ?
俺の知らない人格を思い出して、ざわざわと気持ちが揺らぐ。
まさか、あの人格って……いや、そんな筈はない……俺は俺でしかない筈だ。

自分が何なのか分からず、視界がぐにゃりと歪んだ。
イラついていた感情が抑えつけられて、もやもやが残るが落ち着いていく。
早くライムに会いたい、触れたい、安心したい。

腕を伸ばして、扉を開けると眩しくなって目を細める。
その瞬間、すぐに視界が暗くなって頭の上にあるものに触れた。

これは、なにかの布か?…なんでそんなものが頭の上にあるんだ?

布を外そうとしたら、耳元で声が聞こえて来た。

「ダメ、外したら…」

「……ライム?」

「今の姿、元に戻ってるから」

内緒話のようにライムの声が聞こえて、すぐに自分の状態を理解する。
今は元の俺に戻ったのか、あのまま歩いていたら気付かれていたな。
ライムがいなかったら、騒ぎになっていた…本当によかった。

布で髪と顔を隠して、ライムに手を握られて誘導される。

ライムが何もされなくて良かった、でも屋敷の中を自由にさせるなんてローベルト卿はライムを閉じ込める気はないのか?

いや、違う…そうじゃない…ライムの手を強く握りしめた。
ライムの足はだんだん早くなっていき、走り出した。
後ろから「ライム様が逃げたぞ!追え!!」という声が聞こえた。

後ろから何人か追いかけてきて、俺は壁に触れて凍らせた。
氷は下に移動して、地面を凍らせてから氷の壁を作る。
滑りやすくて転倒する者がいて、俺の氷をどうにかしようと薬を使って炎を出す者がいた。

俺の力は、借り物の力じゃどうする事も出来ない。
だから薬なんて飲んで対抗しようとするな、無駄死になるぞ。

そうは言っても、コイツらにとっての正義はローベルト卿で薬に頼るしか残されていないのだろう。
捕らえたローベルト家の兵士に言っても俺の声なんて届かない。

『天性の力を持って幸せに生きてきたお前に弱く生まれた俺達の気持ちが分かるわけない!』

俺にそう言って兵士は薬に呑まれて死んでいった。

俺だって、こんな力…いらない…重荷でしかない…特別扱いされるのは苦痛だ。
この力を持って生まれたから、人のために使う事を周りに言われ続けていた。

俺が自由に生きる事は、許される事じゃなかった。

愛する人は俺のせいで辛い目に遭う、こんな人生…幸せに見えるのか?

屋敷を出て、ライムを抱きしめてローベルト家の奴らが追いつけないほど高く移動した。
頭に被っていた布が外れて、自分の家の裏庭で降りた。

降りても、ライムを離したくなくてギュッと抱きしめた。
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