上 下
142 / 299

カイウスの話26

しおりを挟む
ライムが心配だけど、信用していないと思われたくなくて行かせた。

万が一なにかあった時のために、リーズナと意識を繋げている。
これはライムを守るためだ、ローベルト家だけではない…神も相手なんだ…一瞬の油断も許さない。

俺が眠っている間、ライムになにがあったのか知らない。
でも、ライムが大人びた顔になっていたからなにかあったんだろう。
俺の知らないところで成長してしまうなんて、何だか悔しい。

ライムの事は俺が一番知っておきたい事なのに…

それに耳飾り、ずっと宮殿にいた筈なのに何処から手に入れたのか分からない。
俺の知らないライムの秘密が増えていく、いつか本当に手が届かなくなってしまいそうだ。

ライムの成長は喜ばしい事なのに、嫌な気持ちで支配される。
その感情は酷い頭痛がして、吐き気で顔色が悪くなる。

はぁはぁと息を吐いて、落ち着かせながらシャツの襟を緩める。

「カイ様、どうなさったのですか?」

「…何でもない」

「お体が冷えてしまいます、こちらに…」

ローズが家の前に立っている俺に近付いて、毛布を渡してきた。
すぐに異変があった時に出れるようにしている。
だから俺はここから動くわけにはいかない、リーズナとの通信も途切れてしまう。

それを知らないローズは俺の肩に毛布を掛けようと広げていた。

その時、リーズナと繋がっていた筈の意識にノイズが混じった感じになった。
リーズナの目と繋がればリーズナが見ている景色を共有出来るのに、今朝からずっと頭痛と吐き気が酷かった。
心配掛けないようにライムには笑って見送ったが、そこまで意識を繋げる事が出来なかった。

まだなにか後遺症が残っているのかもしれないが、ライムを助けるのにそんなものは関係ない。

ローズに毛布を押し付けて走ってリーズナの意識を辿る。
そこにライムはいる、何故か近付く度に痛みは増していった。

脇腹も痛くなって、押さえるとぬるっとしたものが手にべったりと付着していた。
怪我?俺は怪我をしていない…だとするとリーズナの痛みの意識が共有されたのか。

どんなに暗い場所でも、ライム達を見つける事が出来た。

頭で考えるより先に剣を振り上げて、兵士を吹き飛ばした。
リーズナに触れると、一瞬で小さな猫の姿に戻った。

リーズナはまだ生きているが、放っておくとマズイな。
精霊は人間より丈夫だが不死身ではない、それでも俺の一部だ…リーズナにこんな深傷を負わせるなんて…あの兵士はいったい何者だ?

ライムの方は無事のようで、とりあえず安心した。
安心した途端に、さっきの痛みが一気に押し寄せてきてライムにもたれかかる。

こんな姿、見せにきたんじゃないのに…情けないところを見せてしまったな。

ライムをこのまま宮殿に連れて帰りたいが、野放しに出来ない奴がまだそこにいる。
このまま宮殿を開いて逃げ込んでも、閉じる前にこの兵士が入ってきたら意味がなくなる。
ライムの居場所を踏み荒らされるわけにはいかない。

ライムも一度宮殿に戻ろうと思ったのか、入り口が少し繋がった。
でも、まだ入れるくらいの大きさではなくライムも焦って上手くいっていないのだろう。

俺は自分の血がついた手で宮殿を一気に開いた。
そのままライムを入り口の中に押し込んで、剣を構えた。

宮殿の入り口が塞がるまで、この兵士を引き止めなくてはいけない。

俺が負傷してようが、この兵士がなんだろうとここは絶対に通さない!!

剣が合わさり、兵士の大剣が重くてかなりの怪力なんだと分かる。
力を込めると、脇腹の傷が広がって血がポタポタと地面に落ちる。

息をゆっくりと吐いて、兵士を押し返したが間を開けずまた重い一撃が振り下ろされた。

眉を寄せて剣に魔力を込めて、終わらせようと思った。
もう宮殿の入り口は塞がっただろうし、引き止める必要はない。

鎧を貫くほどの鋭い氷が剣をだんだん覆っていた。
それと同時に兵士の動きは止まり、重かった剣が軽くなっていた。

兵士の体は電流のようなもので縛られていて、身動きが取れなくなって魔力を込めるのをやめた。

兵士の後ろから「カイウス!」と俺を呼ぶ声が聞こえた。
ライムの声?そんな筈はない、だってライムは宮殿に行った筈だ。
まさかまた戻ってきたのか?なんでそんな危険な事を…

兵士が邪魔で全くライムが見えなくて、兵士に警戒しつつ体をずらしてライムの方を見た。

ライムの手に兵士に巻き付いている電流が流れていてびっくりした。

「ライム、その手大丈夫なのか?」

「大丈夫!カイウスは休んでで!俺がコイツを捕まえとくから!」

ライムよりも身長が高いから引き止められるか不安でしかないが、確かにライムの言った通り動きを止められている。
でも、この兵士は痛みを感じないのか暴れている。
そのせいで、体に電流の拘束具が食い込んでさらに痛みが増しているように見える。

ライムも怖いのか「お願いだから止まって!このままだと死んじゃうよ!」と声を上げていた。
死ぬのも惜しくないのか?ローベルト家の兵士はこんな奴らばかりだ。

その時、拘束されている手がゆっくりと動いた。
俺は危険なものを感じてライムの体を抱き抱えた。

その瞬間に兵士は大きく剣を振り下ろして、地面が割れた。
あんなに電流を浴びたというのに、兵士は平然と立っていた。

俺達に向かってくる兵士に、ライムは俺の前に立った。
ライムの手には耳飾りが握られていて、俺は脇腹を押さえながら立ち上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

嫌われてたはずなのに本読んでたらなんか美形伴侶に溺愛されてます 執着の騎士団長と言語オタクの俺

野良猫のらん
BL
「本を読むのに忙しいから」 自分の伴侶フランソワの言葉を聞いた騎士団長エルムートは己の耳を疑った。 伴侶は着飾ることにしか興味のない上っ面だけの人間だったはずだからだ。 彼は顔を合わせる度にあのアクセサリーが欲しいだのあの毛皮が欲しいだの言ってくる。 だから、嫌味に到底読めないだろう古代語の書物を贈ったのだ。 それが本を読むのに忙しいだと? 愛のない結婚だったはずなのに、突如として変貌したフランソワにエルムートはだんだんと惹かれていく。 まさかフランソワが言語オタクとしての前世の記憶に目覚めているとも知らずに。 ※R-18シーンの含まれる話には*マークを付けます。 書籍化決定! 2023/2/13刊行予定!

役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜 【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】 *真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息 「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」 婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。 (……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!) 悪役令息、ダリル・コッドは知っている。 この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。 ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。 最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。 そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。 そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。 (もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!) 学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。 そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……―― 元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

処理中です...