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バグとパッチの関係

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「ライム、大丈夫だよ…ライムが心配する事は何も起きない」

「…どういう事?」

「俺がいれば大丈夫って意味だよ」

突然唇にキスをされて、驚いたがすぐに離れていった。

カイウスはリーズナにミロの企みを話した…のかな?
だから俺に大丈夫って言っているのだろうか。

カイウスはミロは見てないって言ってたから、捕まえたわけではないんだよな。

カイウスが信用出来ないんじゃなくて、ミロの企みを知っているのか分からない。
俺が口を開くと、カイウスの人差し指が唇に触れた。

「…?」

「ライム、今から精霊の宮殿に行かない?二人っきりになりたい」

「で、でもカイウス仕事中じゃ…」

「ん?大きな仕事終えたから疲れてさ、癒しがほしいんだよ」

「大きな仕事?」

「そ、大きな粗大ゴミの始末が大変でね…なかなか燃えカスにならなくて」

騎士団ってゴミの処理までしているのか?知らなかった。
燃えカスって事は、カイウスは炎の魔法を使ったのか。
魔法は普通の人では分からないけど、かなり体力を消耗するんだとカイウスを見ていれば分かる。

強い力ほど、大変なんだ…便利なだけじゃない。

俺はカイウスの右手を両手で包んで額に当てた。

俺には治癒魔法なんてないけど、カイウスが元気になりますようにと願う事は出来る。

「カイウス、元気になった?」

「あぁ、ライムの愛情が伝わってくるよ」

カイウスはそう言って俺をギュッと抱きしめてきた。
黒い髪を撫でると、少し動いていてくすぐったそうだった。

いつもならすぐに戻るのに、カイウスは元に戻っていなかった。
やっぱり自分の意思でどうにか出来るようになったのかな?

カイウスの手つきがだんだんやらしく背中を撫でてきた。
今はダメだって、ミロを見つけるまでは安心出来ない。

「い、今はダメだって…」

「ライムは心配性だなぁ、無理矢理する気はないよ」

「ありがとう、カイウス」

「でも、今日は連れて帰るから」

そう言って、カイウスは上着を脱いで俺の頭に被せた。

カイウスと手を繋いで、足並みを揃えて歩き出す。
周りを見渡してもミロっぽい人はいない、だとするとターゲットのところにいるのだろうか。

でも、俺は何も聞かされていないからターゲットは知らない。

繋いだ手から暖かな温もりを感じて、少し強く握った。
カイウスは自分の家の前までやって来て足を止めた。
そして、手をドアに触れてドアが不自然に歪んだ。

「え?なにが起きたの!?」

「家の入り口と精霊の宮殿の入り口を一時的に繋げた」

「そんな事出来るんだ」

「俺の家でライムを匿うより、精霊の宮殿の方がやっぱり安全だからね」

そうだよな、今の俺は指名手配犯だから一人暮らしではないカイウスの家は危険かもしれない。
ずっと家にいるわけがないカイウスが唯一離れていても状況が分かる精霊の宮殿を選ぶのは当然だ。

とはいえ、またあの神と言っていた人が現れたらと思うと精霊の宮殿も絶対安全だとは言えない。

そう思っていたら、繋いでいる手から不安が伝わってしまったのか、カイウスは俺の頭を撫でて額に口付けをした。
自然の動きで、頬を真っ赤にさせていると繋いでいる手を持ち上げてドアに触れた。

俺の手の上からカイウスの手が重ねられて、前からも後ろからも手が暖かくなる。

「俺達の力を合わせて、さらに強い結界を作る」

「……結界」

「神だろうと誰だろうと、絶対に邪魔させない」

カイウスは神様に俺が追い出された事を知っていたのか。

カイウスのためだと言っていた神様、まだよく分かっていない。
ゲームにもいなかった、俺を悪役だと言っていた。
俺がイレギュラーな行動をしているのが気に入らないように感じた。

この世界の…ゲームの歪みを正す存在…そう思えた。

ゲームでよくある、バグに対してのパッチのようなものか。
この場合、当然俺がバグなんだけど…

カイウスが一歩進むと、引っ張られるように俺も進む。
カイウスが作った光の入り口の中に足を入れると光に包まれた。

バグがパッチに勝てる方法なんてあるのだろうか。

違う、俺はバグでも生きている…いくらでも回避が出来る筈だ。
カイウスと一緒なら何でも出来そうな気すらする。

どんな事があっても、俺は悪の道になんて行かない。
この先の未来だって、カイウスと一緒なら俺は大丈夫だ。

神様が何処かで笑っていた、俺は絶対に負けたりしない。

前にいるカイウスの背中をギュッとだきしめる。
その安心する温もりを感じて、俺の意識は途切れた。
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