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不可思議な人

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「あぁ、君か」

「……え?」

俺はカイウスの腕の中で眠っていた筈だ。

それなのに、ここは何処だ?

精霊の宮殿でも、ローベルトの家でもない。
そもそも部屋と呼べるか分からない真っ白な空間だった。
そこに二つ椅子があり、俺は座っていた。

向かいに座る人は、足を椅子に掛けて退屈そうに座っていた。

真っ白な着物を着ていて、髪も真っ白で風もないのに腰まで長い髪が揺れていた。
一瞬女の人かと思ったが、声は低い。

「あの、ここは?」

「ここが何処だって?自分に聞いてみな」

分からないから聞いてるんだけど…本当にここは何処なんだ?
周りを見渡すと誰もいない、カイウスがいないし知らない人と二人きりなんて耐えられない。

椅子から立ち上がると、別の方向を見ていた目の前の人は俺の方を向いた。

引き止める気があるのかないのか分からないが、椅子から立ち上がりはしないが「何処に行く?」と聞かれた。
何処に向かってるのかは分からないが、とりあえず何処か歩いていれば元に戻れるかもしれない。

帰る事だけを言って、背を向けて歩き出した……やはり追いかける気はないようだ。

少し歩いて、足を止めた。

「あ、あれ?」

「おかえり」

確かにまっすぐ歩いた筈なのに、また同じところに帰ってきてしまった。

可笑しそうに笑うその人を置いて、再びまっすぐ歩き出した。

何度試してみても、最終的には元の場所に戻ってしまう。
もしかしなくても、ループ……してるよな。

椅子に座り、目の前の人を見ると大きな欠伸をしていた。

ここが何処なのか、自分に聞けと言っていたが…思い当たらない。

いや、一つ思い当たる事はある。

そうだとしたらこの不思議な空間の説明がつく。

「もしかして、ここは俺の夢?」

「そうだよー、私は君に忠告するために君の夢にお邪魔したって事」

「……忠告?」

「カイウスに干渉するのはやめてくれないかな」

ぐうたらしていたのに、突然真剣な眼差しで俺を見つめていた。
カイウスに干渉するなってどういう事?この人はいったい何者?

無意識に手を握りしめた。
他に何を言われても構わないが、それだけは出来ない。

カイウスが別れたいと言うなら分かるが、他人に俺達の関係を口出されたくない。
「嫌です」と短く答えた。

「俺はカイウスの事が好きです、だから嫌です」

「…私はお前達を恋仲にするために、その力を与えたわけではない」

「与えたって……あなたはいったい」

「私は……」

突然耳の奥がノイズのように鳴り響いて、全く聞こえなかった。
視界も歪み、誰も見えなくなった。

あの人の言っていた言葉は本当なのだろうか。
力を与えたって……嘘なのか…それとも…

目を覚ますとそこには見慣れた天井があった。

精霊の宮殿の寝室ではないそこには、嫌な予感がする。

一人ぼっちの檻の中に戻った俺は、部屋を見渡す。

ミロがいるかも、と身構えたが誰もいなかった。

早く精霊の宮殿に帰りたいとカイウスを想って祈った。
正直、確実に行く方法は分からない…昨日も偶然だったから…

とにかく誰も監視役がいないなら、ここから出れるかもしれない。

ドアを軽く叩いても、部屋の外から物音が聞こえない。
外にも誰もいない……変だと思うが、チャンスがあるならドアを開けた。

使用人が数人しかいない、明らかに人が少ないな。
何処に行ったのか気になるが、使用人達にバレないように物の影に隠れながら進む。

やっと一階まで降りて、入り口はもうすぐだと思った。
すると、俺の目の前に精霊が通った。

部屋にもいた精霊、なんでこんなところに?

フラフラとゆっくり進む精霊を見つめると、少し開いた扉の中に入った。
鉄の扉なんてあったんだ……精霊はこんなところで何をしているんだろう。

早く出たいが、カイウスが探している精霊なのかもしれない。
カイウスの役に立ちたい、逃げる事も大切だが…もしかしたらローベルトと関わりがあるのかもしれない。

思ったより重い扉で、使用人達が音に気付いて来る前に入ろうと足を踏ん張った。
人一人入れるくらいの隙間が出来て、滑り込んだ。

そこには薄暗い地下に続く階段があった。

石で出来た壁に触れながらゆっくりと地下に向かって歩く。

一歩一歩足を動かして、下に降りていく。

すると、地下空間に到着した。

全く見えない、明かりは階段を照らすろうそくだけだ。
一本だけろうそくを借りて、先を照らしながら進む。

コツコツと俺の靴だけが響く。

何もない空間ではなく、机があり…資料やなにか実験をしていたような道具があった。

ここでいったいなにが行われていたんだ?

そして最奥に到着して、足を止めた。

「…な、に…これ…」

震える手で照らす。

天井に吊るされた小さな籠の中に、精霊がいた。
しかも一つじゃなく、何個もある。
皆、羽根の数が少なくて…俺になにか訴えるような瞳をしている。

そしてその先に大きな檻があった。

まるで猛獣のようにその人はいた。
首や両手足を鉄の枷を嵌められていて、鎖が見える。

目を真っ白で細い布で覆われていた。
着物も髪も全て白いその人は見覚えがあった。

俺の夢に出てきた、あの人だ…俺の幻想ではなく本当にいたのか。

「……」

「なんだ、話さないのか?」

「……えっ」

「何者か、聞きたかったのではないのか?」

目が見えていない筈なのに、俺が来た事が分かったのかニヤリと笑っていた。

夢の記憶がこの人も覚えているのか。
なんでここにいるんだろう、ローベルトの関係者?でも扱いが罪人のようだ。

「ローベルトの仲間?」と聞いてみた。

一瞬動きを止めたと思ったら、大きな声を出して笑っていた。
爆笑されるような事言った覚えはない。

「あっ、はっははっ!!!」

「なんでそんなに笑うんですか?」

「私があんな愚かな人間達と仲間に見えるか?」

「……じゃあなんですか?」

「私は、神だ」

ごく自然にそう口にした。

神…え?…神様?

神と名乗るその人は、ニヤリと不敵に笑った。
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