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カイウスの話7

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初月しょげつの花が満開に咲くこの日は大帝国にとって大切な日だった。

神話の精霊王が、悪魔を倒し災厄から帝国を守った日。
そして帝国が誕生した日でもあり、その日に俺の騎士団長就任パレードを用意した。
まるで一種の出し物のようで、正直不快だが俺がわがままを言うのも違うからそのままにしている。

ライムが見てくれるだろう、そのためだけに俺は見せ物でも何でもなってやる。

俺の前に、俺より目立つ気満々に蝶ネクタイで決めているリーズナがやってきた。

「決まってるなカイ、俺には劣るがな!」

そう言って笑いながら机から下りると同時に、部屋のドアが開いた。
俺と同じく正装している兄のユリウスが口元に笑みを浮かべながら部屋に入ってきた。

俺の周りで飛び跳ねていた精霊達が後ろに隠れてしまった。

誰にでも態度が大きいリーズナでさえ、ベッドの下に隠れていた。

「騎士団長就任おめでとう」と言って俺の肩に手を置いた。
心が込もっていないのは分かる、口元は笑みを浮かべているが目は鋭く俺に突き刺さっていた。

「お前には勝てないよ、お前さえいなければ…」

「……」

「いい気になるなよ、いつか俺が…」

ギリッと肩に指が食い込んでいくが無表情で態度を変えない俺にイラついた顔をしていた。

兄が最後まで言い終わる前にまた部屋に誰かが入ってきて、 手を離した。
メイド長のローズと一人のメイドが入ってきて、兄は俺にだけ聞こえるほどの小さな声で舌打ちした。

そのままメイド達の横を通りすぎて、部屋を出ていった。

ローズは赤いマントを持っていて、俺の正装に装着していた。
もう一人のメイドは他の装飾を俺に着けているが、顔を赤らめておどおどしていた。

「ローズ、動きづらい…なんとかならないのか?」

「我慢して下さい、半日だけですよ…マリーそれはそこじゃないよ」

「ご、ごめんなさい!」

少しの間ジッとしていたら、終わりローズが大きな鏡を俺に見せてきた。
白い正装に赤いマントの俺はいつもと違い、何だか落ち着かない。

パレードの日でも騎士団の一員として、なにが起きるか分からないのにこんなチャラチャラした装飾だらけの格好で上手く動けるのか?

指先で軽く弄ると、ベッドからリーズナが出てきてローズにまとわりついている。
いつもローズにおやつをもらっているからすっかり懐いていた。
ローズもリーズナを見つけると、しゃがんで頭を撫でていた。

「カイ様、そろそろお城に向かって下さい」

「あぁ、分かった」

ローズとマリーと呼ばれたメイドは頭を下げて部屋を出ていった。
俺もすぐに部屋を出て、迎えが来ている屋敷の前の庭までやってきた。

馬車に乗り、城に向かう途中…城下町の様子をぼんやりと眺める。
国民達はいつもより浮き足が立ち、噴水以外殺風景な広場に飾りつけをしていた。

俺の姿、ライムは見てくれるだろうか…聞いとけば良かったと今さら後悔する。
ライムと会うと、俺の立場を忘れられる…ただのカイウスになれる。

城に到着して、帝王や父に挨拶したりパレードの動きの最終確認をしながらその時が近付いてきた。

そういえば、リーズナがいないな…また猫達の集まりに行ったのか?
いつもの事だから大して気にする事はなく、俺は遠征している時に共にいる愛馬にまたがり国民達の前に出た。

大歓声が湧き起こり、俺は平常心のまま周りを見渡す。
国民達は目が合ったとかで盛り上がっていたが、俺が見ていたのは不審な奴はいないか…それだけだ。

こんな時だからこそ、警戒心をより強める必要がある。

ただ、何事もなく…1日が終わればいいと思っていた。

そんな時、目の前になにかがふらふらと横切ったのが見えて急いで馬を止めた。
後ろにいた他の騎士の馬も帝王が乗る馬車も馬が悲鳴を上げて止まる。

「どうかしましたか!?」という声が聞こえるが、俺はパレード中だが放っておく事も出来ず馬車から降りた。
目の前に現れたのはリーズナだった、いつもはすばしっこいのに怪我をしているのか動きが鈍く感じた。

「何をしてるんだ、早く戻れ!!」

後ろから兄の怒鳴る声が聞こえる、俺の就任パレードは気に入らないがこのパレードは兄の副団長の就任パレードでもあるからだろう。

リーズナは俺の幼少期からずっと一緒にいる家族だ。
怪我はないか確認していると、リーズナが微かに動いた。

目立つ怪我はないが、リーズナの声が震えていて不安になる。
なにかを話しているような口の動きで、耳を近付ける。

兄が痺れを切らして、馬から降りて俺に近付いてくる足音が聞こえた。

「…か、い……に、げろ」

「………は?」

兄に肩を掴まれた瞬間、リーズナが突然霧のようになり手から消えていた。
急に手元が軽くなり、俺の感情が激しく揺れていた。

リーズナがいなくなったからではない、自分でも分からない感情が溢れて止まらなくなる。

なにかが来ると思い、兄の腕を振り払いその場を離れた。

今は城下町に人が集まっているから、人気がない大きな湖の前まで来て湖を覗くと瞳が赤くなっていた。
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