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親子

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母は「ライムは頭がいいのね」と頭を撫でてくれて、嬉しかった。
まるで生前の頃に味わった暖かい家庭そのものだった。

母は俺が赤ん坊に出会ったきりなのに俺が母だと認識していた事を不思議そうにしていた。
俺は母が自分の事を名乗る前に「母さん」と呼んでしまい、やっと失敗に気付いた。
気味悪がられる前に、俺は何となくと意味の分からない事を言っていた。

俺があの時赤ん坊だったから知らないと思っているのか母は俺にあの時酷い言葉を言った事に一言も触れていなかった。
忘れているだけならそれでもいい、あの時の母はなにか嫌な事があっただけなんだと思った。

母は「…そうなの?」と深くは聞かなくてホッと胸を撫で下ろした。
でも母もなんで俺だって分かったんだろう、俺は赤ん坊の頃に母と会ったっきりで母が屋敷を出た時は俺が脱走していた時だ。
その時に偶然に宿屋に向かおうとしている俺と会ったとしても、それから俺は屋敷から一歩も出ていない。
母親だから分かったのだろうか、細かい疑問が重なっていき大きな不審に変わっていく。

足を止めた俺を母は不思議そうな顔をしていた。
やっと出会ったのにそんな事を考えている自分が嫌だった。

「母さん、俺…」

「ライム、貴方に見せたいものがあるのよ」

俺が今の気持ちを言葉にする前に、母が俺に向かって微笑んでいた。

手を握られて急がされるように母の後を付いていった。
今までの経験からして嫌な気がした、でもたとえ1%でも母の優しさがあるというならすがりたかった。
それほどまでに俺は愛に飢えていた。

連れてこられたのは人気がない、寂れた路地裏だった。
店などが並ぶ広場はあんなに賑わっていたのに不思議だ。

母は俺から手を離して、こちらを振り返った。
母の先にあるのは行き止まりで、その先には何もなかった。

手招きする母の傍に駆け寄り、母が指差した方向に目を向ける。

俺は驚きと恐怖で手が震えて、後ろに後ずさった。
誰かと背中がぶつかったと思ったらそのまま壁に体を押し付けられて首に手を掛けられた。

息が出来なくて、母の細い腕を掴むが母は力を緩める事なく俺の力がだんだん弱くなり、母を引き剥がす事が出来なかった。

横には、誰かも分からない腐敗した死体があった。

この人は、もしかして母さんが……

「アンタが、アンタが生まれたせいで私の人生がめちゃくちゃよ!!」

「…ぅ、ぐっ…」

「あの人には悪魔を生んだと虐げられ、二度目に愛した人は悪魔の秘密を知ったと世間から追われるように仕向けて…」

指の力が強くなり、母が感情的になる。
愛した人が悪魔の秘密を知った?屋敷の人間以外に俺が悪魔だって知っている人がいたのか?

再び隣の死体を見ていると、メガネと土で汚れた白衣…そこで気付いた。
もしかしてこの人、俺が生まれた時に取り出してくれた医師か?
まさか母と恋仲になっていたなんて知らなかった。

あの父は俺が悪魔の紋様を持っている事を他人に知られるのを嫌がっている。
だから医師が他人に話すと思って社会的に消したのか。

じゃあ父が彼を殺したのか?

「彼も私が悪いと責めて捨てようとしたから、私は………全部全部お前のせいだ!!お前なんていなくなれば!!」

赤ん坊の頃に言われた時より、心が粉々に割れた気がした。
面と向かって憎悪の瞳を向けられて、本当にそうなのかなとボーッとよく考えられない脳内で考えた。
生きているだけでそんな風に思われるなんて、俺って必死に生きている価値があるのだろうか。

ずるっと力が抜けて掴んでいた母の手から滑り落ちた。
母がより力を込めて、瞳を閉じた。

もう抵抗する力も残っていない、このまま死んでいくのだろうか。

「そこで何をしている」

凛とした、美しい低音の声が聞こえて母の手の力が緩んで一気に空気を吸い噎せた。

ごほごほっと苦しくて目に涙を浮かべた。

目の前に死体があって驚いて、距離を取った。

母の事を見ると、さっきとは違い怯えた顔をしていた。
母が見ている視線の先には、眉を寄せて険しい顔をした男がいた。

そのままゲームから飛び出したかのように瓜二つの容姿をしている美しい男は母の腕を掴んでいた。

「な、何よ…離しなさい!」

「その死体について聞こうか、それと…そこにいるガキを殺そうとしていただろ」

「……っ」

「俺は言い訳を聞くほど優しくはないぞ」

死体があるのに驚きもしないし、俺の首を絞めていた決定的瞬間を見ている。
母もカイウスの言葉に口を閉ざしてしまい、そのまま後ろにスタンバイしていた他の騎士に渡した。

普段なら会いたくはなかったが、今この瞬間は感謝している。
首に痕が残ってないかなと擦りながら立ち上がった。

死体を調べている騎士の横を通り、さっさと帰ろうとカイウスの横を通った。

しかし服の襟を掴まれて、また息が一瞬止まった。

「ぐえっ!!」

「…おい、お前にも話がある」

「…へ、ぇ?」

カイウスにそう言われて、断ろうとしたら…カイウスが物凄く険しい顔で睨んでいた。

ゲームのせいで初対面の相手を殺す奴ではないのは分かっているが、怖かった。
俺も一応その場にいたからカイウスにいろいろ聞かれた。
あの人との関係と、どうしてここにいたのかと、死んだ男との関係だ。

今回ばかりは俺の名前を言わなければいけないようだった。
俺が偽名を言っても母が俺の本名を言えば、嘘だとすぐに分かり…疑われてしまう。

でも幼少期の頃に出会った事に気付いていないようだったから、カイウスとはもうそれ以上の関わりはないだろう。

「……ライム・ローベルトか」

「は、はい…」

「本当に関わってはいないんだな」

「だからそう言ってるじゃないですか」

俺がローベルト卿の息子だからって疑って、頬を膨らませて拗ねる。
コイツには全く響かないんだろうけど、不機嫌ですと顔で訴えた。

ローベルト卿とこの事件の関わりがないと分かれば、解放してくれるとカイウスは言った。
調べるなら、きっと屋敷の誰かが迎えに来るのだろう……俺はまた大帝国からの脱出に失敗したんだ。

今度は何をされるのか怖かった、その震えで無意識にカイウスの服を握っていた。
カイウスは振り払う事はせず、後ろを振り返り無表情で俺を見ていた。

「…なんだ」

「あっ、ごめ…何でもない、です」

すぐに自分が何をしていたのか分かり、すぐに手を離した。

何やってんだ俺は!カイウスと関わりたくないのにこの手は!!
バシバシと自分の手を叩くと、手がヒリヒリして痛かった。

カイウスの何とも言えない目で見られて、物凄く気まずかった。
俺、心を病んでる人だと思われてるのかな。

下を向いて、さっさと先に行きたくてカイウスの横を通りすぎた。

一回だけポンッと頭を撫でられた感触がして目の前を見ると俺より先を歩くカイウスの後ろ姿があった。
その場には俺とカイウスしかいなくて、カイウスが頭を撫でたのか?と自分の頭に手を乗せる。

母のように暖かな手ではないが、不器用ながらに慰めてくれているような不思議な気分だった。

「早く来い、俺は暇じゃないんだ」

「ムッ!」

ちょっとカイウスを邪険にするのは悪いかな…とか思ったがカイウスの面倒そうな顔で、再び不機嫌な顔をしてカイウスの後に付いて行った。

俺とカイウスはゲームでは敵対同士だし、お互い塩対応なのは当たり前だ。
でも、プレイヤーとしては嫌いじゃなかった。

今はちょっと嫌な奴って思ってるけどな!
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