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VS

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勝負はお互いの拳が合わさり、痛みで手が痺れた。
痛くても、俺は引くわけにはいかない……ぐっと押し込む。

男も負けじと押し返していて攻防戦が続く。

さっきの炎は強いって思ったけど、普通の殴り合いは俺と力がそう変わらなさそうだった。
拳を離して、足蹴りをしようとしたがすぐに腕で止められて顎に向かって拳を突き上げられる。
それを数歩下がってかわして、何度か繰り返す。

元々俺が追い詰められていたから、俺の体力は削られているが弾丸を受けた男も不死身ではない。
これでやっと互角になったようだが勝敗を決めるのは残りの体力だけだ。

触手は床の上で溶けていて、水のようになっている。
水飛沫の中、殴り合って息を吐くのも苦しくなってきた。

「レイン!!」

「…はぁ、はぁ」

「……っ、シリウ…うぐっ」

男はよそ見をしていて、その隙に俺は男の腹に重い拳を叩きつけた。

男は床に倒れて、俺も足がガクガク震えていて限界だった。
体がよろけると、シリウスに支えられて倒れる事はなかった。

シリウスがいたと今気付いて、口を開けたが何も言葉に出来なかった。
喉に力が入らないし疲れた、眠い…もう何もしたくない。

そのままシリウスの腕の中で俺も意識を手放した。






頬にぬるっとしたなにかに撫でられて、ゾワゾワと嫌な気分になった。
やめろと手を伸ばすとそれはぬるぬるしていてうまく掴めない。

退かそうとして擦ると、ぐちゃぐちゃとネバネバしたなにかが手にまとわりついてきて不快な気分になる。

「……うっ、気持ち悪っ……?」

眠い目を開けるとそこにいたのは剥きたてのツヤツヤしたピンク色の触手だった。

驚いて勢いよく起き上がり、激痛に眉を寄せる。
体のあちこちが痛い、それに手は包帯で真っ白になっていた。

殴られた頬とかも痛くて、体のあちこちが手当てされていた。
ベッドの周りには触手がいて、無事だったんだなと触手に触れた。

最初の頃はただ気持ち悪かったが、今では俺を助けてくれた戦友のようなものだ。
そう思うと、少しだけ可愛く見えてくるから不思議だ。

触手は嬉しいのか、触手をくねくねとくねらせた。
そして見直した俺の顔に白濁を吐き出してきた。

「レイン、起きたか……何してるんだ?」

俺は触手を掴んで思いっきり固結びをしてやった。
なんで触手に顔射なんてされなきゃならねぇんだよ!
生臭いし、助けてもらったとはいえこの仕打ちはどうかと思う。

シリウスがやってきて、俺の顔を丁寧に布で拭っていた。
シリウスが来た事までは覚えているが、その後は分からない。
あんなに戦ったのに、何事もなかったかのように部屋の中は綺麗だった。

「シリウス、あの男は?」

「……アイツは逃げた」

「逃げたって、気絶してたんじゃ…」

「他の仲間が窓から入ってきて連れていった」

そう言ってシリウスは窓の方を見ているが、窓は普通に何の痕跡もない。
もしかして、俺…かなりの時間眠っていたのか?

シリウスに聞いてみたがあれから数時間しか経っていないらしい。

恐るべし魔王城の修復機能、もはや魔王城自身も生き物の可能性も出てきた。

何でもありなんだな、とシリウスが運んでくれた食事を口にする。
あれ?これってシリウスと王都に行った時に食べた夕食にそっくりだ。

「シリウス、これ…」

「見よう見まねで作っただけだレインの口に合うか分からないが」

「凄いよ!味も再現されてるし、美味い!」

「そうか、それならいい」

シリウスは嬉しそうな顔をしていて、俺も自然と頬が緩む。

シリウスがベッドの近くに銃を置いてくれたみたいで、銃を手に取る。
さっきの戦いで結構傷が付いてしまったな、でもこの銃は古い物だから村にいた時も修理出来る職人がいなかった。

だから自分で大切に使ってたのに、こんなにボロボロにしちゃったな。

小さな声で「ごめんな」と謝り、銃を撫でる。

「レイン、来て早々巻き込んで悪かった」

「アイツはシリウスの仲間か?」

「いや違う、アイツは人の世に堕とされた悪魔だ」

人の世に堕とされた……それってどういう意味だ?

彼は魔物の中でも最下層が住む場所で生まれた。
同じ悪魔族にも馬鹿にされるほど、力も体力もない悪魔だった。

ある日彼は罪を犯した、そして力をほとんど奪われ人間と同じ弱者として生きる事を命じられた。

彼の生い立ちとかは、シリウス自身が直接知ったわけではなく魔王軍の悪魔族に聞いた話らしい。
悪魔族の間では汚点としてかなり有名な話らしい。

確かに体力は人間とあまり変わらない気がしたが、魔力は強く感じた。
人間と同じようにされたとは思えなかった。
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