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触手バトル

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「ちょっ、おい!やめろって!」

一人で部屋に残された俺に休まる時間はない。

何もする事ないし、シリウスの部屋という罪悪感もあるがちょっと下半身に目を向けていた。
ちょっとくらい、と考えた俺が悪かった。

俺のエロい気持ちを察したかのように、ベッドから触手が伸びて来た。
俺一人でいいって暴れても、エロの申し子のような触手に誰が勝てるのか。
いや、俺は勝ってやる!触手には屈しない!

俺をベッドに縫い付けようとするから必死にベッドから離れようとする。
触手も意地なのか、本数がどんどん増えていく。

銃は枕の横にあって、必死に手を伸ばしてみた。
銃をやっと掴む事が出来て、触手に向かって撃とうとした。
シリウスには悪いが、俺は触手に自慰を手伝ってもらう趣味はない!

その瞬間、さっきまで俺の腕を掴んで引っ張っていた触手が俺の腕を押した。
別方向の動きをするから、体が傾き壁に向かって発砲した。

びっくりしていたら、さらに驚く事が起きた。
壁に穴が開いたと思ったけど、弾丸は宙で消えた。

どういう事だ?魔界だから?いやそんな事あるのか?

「なぁんだ、バレてたのか」

「…へ?…だ、誰だ!」

俺しかいないし、触手は喋らないから他に人がいるという事だろう。

シリウスでもない、今魔物に会ったらとんでもない事になる。
俺は人間だ、魔物にとって敵でしかない…誰であっても危険だ。

腕を振ると、触手は呆気なく俺から離れていった。
今触手に構っている場合じゃなく、声の主に警戒しないと…

声の主はすぐに俺の前に姿を現して、銃を構えた。

燃えるような真っ赤な髪を靡かせている男がそこにいた。

不敵に笑っていて、軽い足取りで歩いていた。
クルクル回りながら俺の周りを歩いていて、足を止めた。

「ねぇ、ここにいるのはアンタじゃないと思うんだけど…アンタ誰?」

「俺の前に、自分が名乗れ」

「口の聞き方には気をつけなよ、人間が」

男の瞳が鋭く光り、手にはいつの間にか槍が握られていた。
後ろで触手が応援しているように揺れていた。

シリウスの仲間になると決めたのに、魔物と戦っていいのだろうか。

一瞬だけでも、その迷いが俺の弱さになってしまう。

男が俺と距離を縮ませてきて、銃で槍を受け止めた。
重い一撃だったが、銃が壊れる事はなかった。

「何それ、ムカつくなぁ…人間のくせに」

「…っ!」

銃で押し返して、男に向かって弾丸を撃った。
すぐに槍で弾け飛ばされたが、俺は迷う事をやめた。

魔物を傷付けるなんて、賞金首ハンターをしていた俺からしたら今更だ。
シリウスは俺を好きでいてくれる、でも人間自身は今まで通り敵だ。
俺だってそうだ、シリウスと共に生きる事にしたが魔物が人間を憎むように俺も自分を守るために戦う。

それが、賞金首ハンターであるレインという男だ。

「俺はただの人間でも、魔物と戦う力を持っている…舐めるなよ」

「ふーん、シリウス様の脅威になる人間ならなぶり殺したら褒めてくれるかなぁ!!」

槍を振り下ろして、避けて撃ってまた塞がれた。
分かってる、この男には互角に戦う気がない。
俺を弄んで、ジワジワ体力を削って恐怖を植え付けようとしている。

銃は当たらないと意味がない、なら…愛用している銃を頼る事が出来ない。
槍を何度も振られて、銃を床に投げ捨てた。

そして壁に飾ってあった剣を手に取って、槍を受け止めた。
金属が激しくぶつかる音を響かせていて、押し退けた。

「その剣はシリウス様の剣だ!お前のような人間が持っていていいものじゃない!」

剣は慣れていなくて、受け止めるだけで反撃が出来ない。
シリウスの事を心酔しているように聞こえるが、なにか変だと感じた。

なんだろう、この違和感…その答えが分かる前にどんどん追い込まれていく。
一歩踏み出さないと、このまま剣が折れるか体力がなくなるかしかなくなる。

腕に力を込めて、思いっきり押し返すと男の槍が突然燃えた。
これは魔力だ、人間にはない特別な力がある。

「まずは足を切り落として動けなくしてやる、それからジワジワ殺してあげる」

足を狙って槍を振り下ろすから、剣で押さえた。
下に向けていたから上半身はがら空きで、男に頬を殴られた。

地面に転がり、手から力が抜けて剣を落とした。
口の中が切れて、鉄の味が広がっていきジンジンと痛い。

男は能天気な声で「あれ?首が吹き飛ぶと思ったのになぁ」と言っていた。
ジワジワ殺す気なら、首を吹き飛ばす気なんてなかったくせに…

俺の背中を踏みつけて、槍を振り回していた。
もがいても、這い出る事が出来ずに男は笑っていた。

「じゃあ行くよ、歯ぁ食いしばれよ!!」

男の持つ槍は炎をまとっていて、槍の殺傷能力を上げていた。

口から血を吐くと、ほんの少しだけ口の中が楽になった。

俺の気持ちが分かるんなら、今の俺の気持ちも分かるだろ!
必死に伸ばした手の先は、剣がある方向ではなくベッドがある方向だった。

身動きが取れない今の俺にはお前が頼りだ、触手!

こんな状態でエロい事を考えられるか不安ではあったが、大丈夫だ…軽く自慰の事を考えただけで絡んでくる触手だ、きっとやってくれる。

ベッドがガタガタ動き出して、男も何事だと動きを止めた。
その瞬間、触手が勢いよく出てきて俺達をまとめて飲み込んだ。

ぬるぬるしていて生暖かくて、気持ちが悪い触手に包まれる。
さっきまで嫌がっていたのに、こんなカタチで助けられるとは…

俺だけではなく、男にも絡んでいて槍で切り付けてもスライムのようにまたくっついていた。
最強の触手だなと思っていたら、体から煙が出てきて驚いた。
その煙は服を溶かしていて、破けた服の隙間から太い触手が侵入してきた。

何だよこの触手、まるでシリウスのみたいにぬるぬるした体液を体に塗られると体が熱くなる。

こんなところで感じている場合じゃない!隙が出来たんだ、一気に戦うんだ!

剣の方に手を伸ばすと、触手の体液に体が滑る。
俺の目の前すれすれに槍が飛んできて、地面に刺さった。
構わず進んでいたら間違いなく槍に刺さっていた。

男ははぁはぁ息を乱しながら、自分の体にまとわりついた触手をちぎっていた。

さっきまでの余裕はなく、イライラで我を忘れているようだ。
さすが触手の力、魔物にも効果は抜群のようだ。

男は手に力を込めて、火の玉を出現させた。
触手に火の玉を押し込むと、触手は暴れていて火をまとう生き物になった。
その火は、まだ絡まっている俺の方にも近付いていた。

「い、かせるかぁ!!」

男の叫び声に合わせるように、火力がどんどん強まっていく。
足に絡まる触手は俺から離れようと動いているが、あの間に合わないだろう。
俺は絡まり合う触手に手を突っ込んで手を抜いた。

やっぱり俺には一番手に馴染んでいて、これがいい。

炎が目の前に迫ってきているのに、妙に落ち着いていた。

目を閉じて、視界を遮断した……目の前のものを見ないで気配だけを探る。
視界で見るから外してしまうんだ、隙を感じろ。

炎に向けて銃を構えて、そのまま引き金を引いた。

弾丸が炎の中に吸い込まれると、炎が一瞬で消えた。
炎を出した本人が魔力を維持出来なくなったからだ。

男は俺を目を見開いて見ていて、口から血が流れていた。
胸元を押さえていて、俺の事を睨んでいた。
俺も無傷とはいかず、銃を握る手が火傷してしまって痛みで銃を落とした。

男は俺に向かって手を伸ばしていて、銃を拾う時間もない。
俺も火傷して真っ赤になった手を握りしめた。

お互い負傷している中で、拳をぶつけ合った。
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