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最後の言葉

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遡る事、数十分前。

ディアがゴミを捨てに向かって、少ししたらユズがトイレに行きたいと立ち上がった。
一緒に腕が繋がっているフレン部長もちょうど同じ事を思ってたみたいで嬉しそうだった。

一緒にトイレに行くなら良いとは思うけど、ユズは何故か焦っていた。

もしかして、トイレを口実にディアのところに行きたかったのかもしれない。
ユズは、やっぱり我慢すると言っていたがフレン部長はお構いなしでユズを引きずって部室を出た。

俺しか居なくなった部室で、なにかをするわけでもなく皆の帰りを待っていた。

その時、足に違和感を感じて何となく靴下を引っ張って見てみた。
いつもなら何もない足首だけで、気になる程度で終わっていた。

でも、いつもと違うものが俺の足首に絡みつくように浮かび上がっていた。
黒いなにかは触れる事が出来なくて、俺にはどうする事も出来ない。

違和感は激痛に変わり、椅子から転げ落ちるように倒れた。
痛い、まるで自分じゃないみたいで思うように体が動かない。

気を抜けば一瞬で意識が飛んでしまいそうで、グッと耐える。
いつもなら大人しくすれば、すぐにこの違和感もなくなる。

そう思って、痛みに耐えていたが急に体が軽くなった。

体が自由になったわけではない、浮いているような変な感じだ。
そのまま体は俺の意思を無視して部室を飛び出した。

何処に向かっているのか分からない、体が勝手に動いているだけだ。

俺が向かった先にいたのはディアとローゼンだった。
ローゼンとは社交パーティーで遠目から見ただけで、相手は俺の事なんて知らない。
ゲームで出てこなかったら俺も成長したローゼンが分からなかった。

裏庭にいた二人は、険悪な雰囲気を出していた。

他にも人がいたけど、様子が可笑しい人ばかりだった。

状況が理解出来ないまま、俺はディアに抱きついていた。
なんでそうしたのか分からない、体が勝手に動いてディアの動きを止めていた。

そこから俺はローゼンの怒りに触れてしまい、黒影が俺に近付いてきた。
体が動かない状態で、黒影に襲われたら無抵抗のまま殺されてしまう。

覚悟を決めていた、死にたくないけど覚悟を決めるしかない。

その時、ディアは俺を庇って俺の魔力をディアの力で吸収した。
そんな事をしたら、ディアが死んでしまうのに…なんでそんな事をするんだ。

ディアはこの世界の主役で、俺はただの当て馬キャラなのに…

ディアが俺から離れようとするから、俺もディアの腕を掴んで起き上がった。
もう、俺の体は自由になってディアを連れて逃げる事も出来る。
口から血を流して、苦しそうなディアを見ていたくない。

ディアが俺の魔力を吸収出来たのなら、戻す事だって出来る筈だ。
座り込むディアの手を強く握って、必死に訴えた。

こんなの間違ってる、ダメだ…ディアは生きないと…

「ディア!早く、俺に魔力を戻してよ!!」

「ナギ」

「……え?」

「俺、ナギの事が好きだ」

ディアは俺をまっすぐ見つめて、確かにそう口にしていた。

びっくりして驚く俺にディアは「愛してる、だから」と俺の体を思いっきり突き飛ばした。
ディアから離れた瞬間、黒影によって暗くなった視界が一気に晴れた。

他の人達は糸が切れたかのように地面に倒れていた。

黒影は何処にもいない、俺とディアとローゼンだけが意識があった。

ディアが心配で手を差し伸ばした時、突然ディアは苦しみ出した。
体を抱きしめて、唸り声を上げていて普通ではなかった。

ディアの体には傷は一つもなく、食べられてはいなさそうだ。
黒影をディアが倒したのか?だから、黒影が居なくなったとしか考えられない。
それ以外の事なんて、最悪な状況でしかなく考えたくもなかった。

「ディア、早く医務室…いや、病院に…」

「…うっ、ぐ…はぁ、はぁ」

ディアは俺の声が聞こえていないのか、虚ろな瞳で俺を見ていた。
触れようとした手は、ディアに触れる前に結界のようなもので弾かれた。

もう一度呼びかけても、ディアには届いていなかった。

瞳が赤く染まり、ディアの周りに真っ白なオーラのようなものが見えた。

口から吐いたものは真っ黒ななにかで、両手を地面に付いて苦しそうだ。
次の瞬間、ディアの周りが炎で覆われていて広がっていく。
さっき吸収した俺の魔力?でも、風紀委員長の時とは違って見えた。

ディアの力は吸収した力をさらに強く出来るが、二倍にはならないくらいだ。

元々俺の力は弱いから、ここまで炎が広がる筈がない。
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