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ゲームの世界

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「お前、見たのか」

そう言った男は血だらけの手に握られたナイフを俺の方に向けていた。
この人とは何の関係もない、話した事もなく泊まっていた旅館が同じだった…それだけだった。

たまたま歩いていたら殺人現場に遭遇して口止めされた。

くじ引きで当たった時は本当に嬉しかった。
俺にもやっと幸せだって思えるものが手に入った。

そう思っていたのに、最大の不幸が待ってるなんて思わなかった。

腹にじんわりと熱が広がり、痛みが後からやってきた。
息が出来なくて苦しくて、無理矢理息をしようとすると口の中が血の味がして吐血した。

意識の中で、最後に浮かぶのは友人と遊んだあの日だった。
ずっと幸運だった友人には悪い事しちゃったな、それだけが心残りだった。






なんで今、死んだ日の事を思い出したのか分からない。
きっとこれが、生前のトラウマになって今もまだ夢に見ているのだろう。

「おい、なにボーッとしてるんだ!これちゃんと持っとけよ!」

「うぶっ!」

うたた寝していて、まだ意識がふわふわしている時になにかが飛んできた。
頭に被さったものを掴んで見ると、子供サイズの小さい上着だった。
肌触りもよく、金色の刺繍が豪華さを表している。

上着を持って、まっすぐと上着を投げた人物を見た。
俺と少しだけ顔が似ている子供は、しゃがんでいる母に服を着させられている。
最初はお堅い正装に文句を言っていたのに、いざ着るとなるとまんざらでもなさそうだ。

ネクタイを結んでもらって、着替え終わると真っ先に大きな鏡の前に立って自分を見つめていた。

「ほら、次はナギの番よ」

「はい、お母さん」

上着を持って、手招きしているお母さんの前に立つ。
この上着はずっと持ってる必要がないから床に置こうかと思っていたら、すぐに取られた。

自分で投げたのに、舌を出して挑発してくる。
お母さんに「コラッ!ウル!」と怒られたのに、笑って走っていった。

双子の弟であるウルが部屋から出て行くと、再び静かな時間に戻った。
いつもの事だからお母さんは苦笑いして、俺の服を手に取っていた。

ボタンを外しながら、夢の後の出来事を思い出す。

死んだ俺の視界は真っ暗になり、意識はなかった。
目を覚ましたら、明るい天井に目をずっと開けられない状態だった。

産声を上げて、俺の新しい人生が始まった。

しかも、5歳になった今でも生前の記憶がある。
今が俺が死んで何年後の地球なのかは分からない。

ただ一つだけ、これだけははっきりしている。

俺は二度と友人と会う事は出来ないという事だ。

ここが日本じゃなく、見た事がない外国だからだけではない。
この世界には、未知なる力…魔術というものが存在している。
一人一つだけ、魔術を生まれた時から持っている。

赤ん坊の手にいつの間にか握られている宝石は魔力の結晶が生まれた時に具現化したものだ。

宝石は15歳の誕生日になると、加工して肌身離さず体の何処かに義務付ける必要がある。
宝石を身に付けていないと、魔力を持っていても魔術が使えない。
魔術の訓練をする学校が16歳から通うから、その前の15歳の誕生日に体に宝石を馴染ませるために持つ事になる。

それまで家族が大切に宝石を保管している。

俺の宝石の色はまだ教えられていないけど、かっこいい色だったらな…と想像する。
炎とか水とか風とか、ゲームの強キャラみたいなのがいいな。

現実はそう上手くいかない事くらい分かっている。

この世界が見た事があるゲームの設定と同じで、もしかしたら友人が見せてくれた転生モノの漫画のような展開だと疑ったのは生まれてすぐだった。
元々中身が成人済みだったからか、物心がついていて俺とウルの名前に不思議と懐かしさを感じた。

お母さんがいつも読み聞かせてくれる宝石の秘密が書かれた絵本で確信した。

名前だけだったら、正直偶然で押し通せる。
でも、こんなフィクションのような事が偶然で片付く事は出来ない。

この世界は友人が好きで、俺も一緒にやっていたBLゲームの世界だ。

しかも登場人物と同じなんて、なんで俺なんだという気持ちが強い。
友人の方が好きだったのに、友人のおかげでこの世界がゲームの世界だって知れたけど…

俺は主人公にもメインにもなれないモブキャラなのは分かっている。
目立ちたいわけではないから、それは気にしていない。

ただ、なんでよりにもよってナギに生まれ変わったんだろう。

正直俺は、生前の頃からナギの事は好きではない。

ナギとウルはゲームで双子の兄弟だった。
主人公と恋愛出来る攻略ルートがあるのはウルの方だ。
俺はウルや他の人の恋愛を邪魔して主人公を奪おうとする当て馬というキャラクターだ。

ただの通行人が良かったのに、よりにもよって当て馬とか…

でも、友人は恋愛に欠かせないキャラなんだと言っていた。

『決して結ばれないからこそ、恋愛に奥手なキャラも彼のおかげで主人公に告白出来たりするし!』

俺が当て馬として生まれたならやる事は一つだ。
恋愛の後押しをする、それが俺が当て馬として生まれた意味なんだと思う。

とはいえ恋愛の邪魔なんてフリでもしたくない。
だから攻略キャラの背中を押すくらいかな、当て馬としての俺の出来る限界は…

やっと不幸人生から解放されたんだ、自ら不幸の道を選ぶ必要はない。
チクッと足に小さな痛みを感じて、固まった。
お母さんに「動いたら危ないでしょ」と怒られた。

ズボンの裾上げをしていたから、針が足に当たってしまった。

お母さんは慣れた手付きで、綺麗に仕上げていく。
両親はこういう裾上げとかお直しは得意中の得意だ。

俺の家は仕立て屋をやっている、俺とナギの服もお母さんが作ってくれた。
今日のために、いつもとは違う服でめかむ。

「また考え事?今日は大切な方達がいっぱい集まるパーティーにお呼ばれしたんだから、ちゃんとしなさい」

「はい」

上着を着て、お母さんに髪を整えてもらう。

今日は大切な社交パーティーで、俺とウルも招待されている。
両親の大切なパーティーだ、お金持ちの人達も集まるから交流を深めるために行く。
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