417 / 419
第22話
しおりを挟む
不意に浩太の声が聞こえ、田辺は頷く。
「相変わらず、岡島さんは鋭いですね」
「達也が手にかけたっていう女医の名前を調べてるときと同じ顔してたよ。けどさ、俺が言えたことじゃないけど、田辺さんはよくやってくれてるよ。俺達にも、そして、野田の娘にもな……それと、一つ尋ねたいんだけど良いか?」
田辺は再度、頷いて先を促す。その仕種を認めてから浩太が口を開く。
「ここに来る前、ニュースで献花台を設置したって流れてたが、あれは田辺さんが?」
首を横に振った田辺は、落ち着いた口調で返す。
「いえ、あれは浜岡さんが用意した物です。僕は場所の相談を受けただけですよ」
「俺もあれからいろいろと聞いてるけど、あの公園って……確か野田の奥さんが……」
浩太の暗い声とは逆に、田辺はきわめて明るく答えた。
「ええ、良子さんの遺体が発見された場所であり、あの事件が発生する原因ともなった公園です。けどね、岡島さん……僕らはこの一年を乗り越えてここにいます。それは新たなスタートを切る為にです。ならば、あの公園には僕らが乗り越えるべき最初の壁であり、世界が新たな一歩を踏み出す場所でもある。野田さんと良子さんの話しは絡んでいませんよ」
澱みなくハッキリと言い切った田辺に、浩太は短く、そうか、とだけ残して煙草に火を点けた。
「そういえば、平山って奴とは連絡とれたのか?」
「いえ、どこにいるのか検討もつきません……常識の通じない仕事をしているようでしたし……まあ、いずれ再会できますよ。そんな予感がします」
香炉に残った煙草が半分ほどになり、ポロリと灰が落ちたとき、一台の車からクラクションが響く。一斉に顔を向け、車から降りてくる人物に浩太が手を振った。
「達也!こっちだ!」
ジーパンとシャツというカジュアルな服装で現れた達也は、短い返事をして歩いてくる。その途中、二人の装いに気付いたようだ。自身の格好を一度見直す。
「なあ……俺が間違えたのか、お前らが間違えたのか、この場合どっちだ?」
裕介と亜里沙が吹き出す中、浩太が達也の胸を小突いて言った。
「どっちもだよ、馬鹿野郎」
達也は笑い、改めて碑石へと向き、その間に、助手席から私服の浜岡が線香や花などの一式を持って降りてくる。浩太と田辺の一礼を受け、浜岡は裕介の足元にある線香のセットを見た。
「ああ、やはり、持ってきていたね。不慣れだろうからと用意してきたのだけど不要だったね」
「いえ、お気持ちはありがたく頂きます」
裕介が腰を折り、亜里沙もそれに倣う。年齢のわりには立派だと浜岡が感心していると、浩太が声を掛けた。
「相変わらず、岡島さんは鋭いですね」
「達也が手にかけたっていう女医の名前を調べてるときと同じ顔してたよ。けどさ、俺が言えたことじゃないけど、田辺さんはよくやってくれてるよ。俺達にも、そして、野田の娘にもな……それと、一つ尋ねたいんだけど良いか?」
田辺は再度、頷いて先を促す。その仕種を認めてから浩太が口を開く。
「ここに来る前、ニュースで献花台を設置したって流れてたが、あれは田辺さんが?」
首を横に振った田辺は、落ち着いた口調で返す。
「いえ、あれは浜岡さんが用意した物です。僕は場所の相談を受けただけですよ」
「俺もあれからいろいろと聞いてるけど、あの公園って……確か野田の奥さんが……」
浩太の暗い声とは逆に、田辺はきわめて明るく答えた。
「ええ、良子さんの遺体が発見された場所であり、あの事件が発生する原因ともなった公園です。けどね、岡島さん……僕らはこの一年を乗り越えてここにいます。それは新たなスタートを切る為にです。ならば、あの公園には僕らが乗り越えるべき最初の壁であり、世界が新たな一歩を踏み出す場所でもある。野田さんと良子さんの話しは絡んでいませんよ」
澱みなくハッキリと言い切った田辺に、浩太は短く、そうか、とだけ残して煙草に火を点けた。
「そういえば、平山って奴とは連絡とれたのか?」
「いえ、どこにいるのか検討もつきません……常識の通じない仕事をしているようでしたし……まあ、いずれ再会できますよ。そんな予感がします」
香炉に残った煙草が半分ほどになり、ポロリと灰が落ちたとき、一台の車からクラクションが響く。一斉に顔を向け、車から降りてくる人物に浩太が手を振った。
「達也!こっちだ!」
ジーパンとシャツというカジュアルな服装で現れた達也は、短い返事をして歩いてくる。その途中、二人の装いに気付いたようだ。自身の格好を一度見直す。
「なあ……俺が間違えたのか、お前らが間違えたのか、この場合どっちだ?」
裕介と亜里沙が吹き出す中、浩太が達也の胸を小突いて言った。
「どっちもだよ、馬鹿野郎」
達也は笑い、改めて碑石へと向き、その間に、助手席から私服の浜岡が線香や花などの一式を持って降りてくる。浩太と田辺の一礼を受け、浜岡は裕介の足元にある線香のセットを見た。
「ああ、やはり、持ってきていたね。不慣れだろうからと用意してきたのだけど不要だったね」
「いえ、お気持ちはありがたく頂きます」
裕介が腰を折り、亜里沙もそれに倣う。年齢のわりには立派だと浜岡が感心していると、浩太が声を掛けた。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
夜通しアンアン
戸影絵麻
ホラー
ある日、僕の前に忽然と姿を現した謎の美少女、アンアン。魔界から家出してきた王女と名乗るその少女は、強引に僕の家に住みついてしまう。アンアンを我が物にせんと、次から次へと現れる悪魔たちに、町は大混乱。僕は、ご先祖様から授かったなけなしの”超能力”で、アンアンとともに魔界の貴族たちからの侵略に立ち向かうのだったが…。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
【完結】わたしの娘を返してっ!
月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。
学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。
病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。
しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。
妻も娘を可愛がっていた筈なのに――――
病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。
それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと――――
俺が悪かったっ!?
だから、頼むからっ……
俺の娘を返してくれっ!?
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる