366 / 419
第6話
しおりを挟む
その問い掛けに亜里沙は緘黙したまま頷く。達也は精神的に参っているのだろうと思い、それほど気に止めず熊と東へ振り向いた。
熊は夢中で東の肉体へと歯を埋め続けており、これならば、時間を稼げるだろう。あとは逃走ルートだが、最短距離ならば熊の背中を通ることになるので、素直にフロアを半周するしかない。ただ一つの気掛かりとしては、やはり死者の存在だ。ただでさえ、熊の一撃によりバリケードを破壊されてしまった今、いつ死者が押し寄せてきても不思議はない。武器無くして乗り越えられる修羅場ではないだろう。
そこまで考えた達也が、一刻も早く屋上へ向かおうと振り返ろうとした瞬間、背中に重い衝撃を受け、鋭くも鈍い激痛が腰に走った。
「……え?」
首だけで振り向いた達也の目に亜里沙の頭が映る。
次いで視線を下げていけば、腰の位置に亜里沙の両手が添えられており、マイナスドライバーの刃を伝ってポタポタと落ちていく血を視認した。
亜里沙が震える身体と両手を引いた直後、達也の膝が笑い始め、力が入らずカクリと折れた。
「あ……亜里沙……ちゃん……?」
「あ……あ……あぁ……」
亜里沙はひどく狼狽しながら後ずさっていき、壁に背中がつくと、強引に喉を抉じ開けるように唾を飲んで言った。
「だって……だって、しょうがないじゃない……アタシだってこんなことしたくなかった……けど……だって……こうでもしないと彰一君が……アタシ……アタシは……」
ぎっ、と唇を締めた亜里沙は、膝をついた達也を見下ろし、再び、マイナスドライバーを水平に立てる。まるで、リングを囲むロープで反動をつけるように壁から背中を放し、達也の頭部を目掛けて尖端を向けた。
達也の顔から血の気が引いていく中、亜里沙は目を見開いてマイナスドライバーを振り掲げ、呼吸を挟まずに振り下ろす。頭上でどうにか止めることは出来たものの、腰に走った鋭痛に表情を歪ませ、その隙をついたのか、亜里沙が一息に体重を乗せた。
「ぐっ……うぅぅぅ!」
堪らず仰向けに倒れこんだ達也の目前に迫る刃物のように重いマイナスドライバーの尖端は、額の中心へ狂いなく落とされようとしている。
もしも、腰の怪我がなければ、すぐさま亜里沙をはねのけて武器を奪い説得に入るのだが、それもできそうにない。歯を食い縛った達也は、マウントを取った亜里沙の両手を下から支えることしかできなかった。亜里沙の顔が、穴生で出逢い達也が殺した女医と被ってしまう。
熊は夢中で東の肉体へと歯を埋め続けており、これならば、時間を稼げるだろう。あとは逃走ルートだが、最短距離ならば熊の背中を通ることになるので、素直にフロアを半周するしかない。ただ一つの気掛かりとしては、やはり死者の存在だ。ただでさえ、熊の一撃によりバリケードを破壊されてしまった今、いつ死者が押し寄せてきても不思議はない。武器無くして乗り越えられる修羅場ではないだろう。
そこまで考えた達也が、一刻も早く屋上へ向かおうと振り返ろうとした瞬間、背中に重い衝撃を受け、鋭くも鈍い激痛が腰に走った。
「……え?」
首だけで振り向いた達也の目に亜里沙の頭が映る。
次いで視線を下げていけば、腰の位置に亜里沙の両手が添えられており、マイナスドライバーの刃を伝ってポタポタと落ちていく血を視認した。
亜里沙が震える身体と両手を引いた直後、達也の膝が笑い始め、力が入らずカクリと折れた。
「あ……亜里沙……ちゃん……?」
「あ……あ……あぁ……」
亜里沙はひどく狼狽しながら後ずさっていき、壁に背中がつくと、強引に喉を抉じ開けるように唾を飲んで言った。
「だって……だって、しょうがないじゃない……アタシだってこんなことしたくなかった……けど……だって……こうでもしないと彰一君が……アタシ……アタシは……」
ぎっ、と唇を締めた亜里沙は、膝をついた達也を見下ろし、再び、マイナスドライバーを水平に立てる。まるで、リングを囲むロープで反動をつけるように壁から背中を放し、達也の頭部を目掛けて尖端を向けた。
達也の顔から血の気が引いていく中、亜里沙は目を見開いてマイナスドライバーを振り掲げ、呼吸を挟まずに振り下ろす。頭上でどうにか止めることは出来たものの、腰に走った鋭痛に表情を歪ませ、その隙をついたのか、亜里沙が一息に体重を乗せた。
「ぐっ……うぅぅぅ!」
堪らず仰向けに倒れこんだ達也の目前に迫る刃物のように重いマイナスドライバーの尖端は、額の中心へ狂いなく落とされようとしている。
もしも、腰の怪我がなければ、すぐさま亜里沙をはねのけて武器を奪い説得に入るのだが、それもできそうにない。歯を食い縛った達也は、マウントを取った亜里沙の両手を下から支えることしかできなかった。亜里沙の顔が、穴生で出逢い達也が殺した女医と被ってしまう。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
【意味怖】意味が解ると怖い話【いみこわ】
灰色猫
ホラー
意味が解ると怖い話の短編集です!
1話完結、解説付きになります☆
ちょっとしたスリル・3分間の頭の体操
気分のリラックスにいかがでしょうか。
皆様からの応援・コメント
皆様からのフォロー
皆様のおかげでモチベーションが保てております。
いつも本当にありがとうございます!
※小説家になろう様
※アルファポリス様
※カクヨム様
※ノベルアッププラス様
にて更新しておりますが、内容は変わりません。
【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】
も連載始めました。ゆるーくささっと読めて意外と面白い、ゆる怖作品です。
ニコ動、YouTubeで試験的に動画を作ってみました。見てやってもいいよ、と言う方は
「灰色猫 意味怖」
を動画サイト内でご検索頂ければ出てきます。
浮気の代償の清算は、ご自身でどうぞ。私は執行する側です。
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
ホラー
第6回ホラー・ミステリー小説大賞 読者賞受賞作品。
一話完結のオムニバス形式
どの話から読んでも、楽しめます。
浮気をした相手とその旦那にざまぁの仕返しを。
サイコパスホラーな作品です。
一話目は、結婚三年目。
美男美女カップル。ハイスペックな旦那様を捕まえたね。
そんな賛辞など意味もないほど、旦那はクズだった。婚約前からも浮気を繰り返し、それは結婚してからも変わらなかった。
そのたびに意味不明な理論を言いだし、悪いのは自分のせいではないと言い張る。
離婚しないのはせめてもの意地であり、彼に後悔してもらうため。
そう。浮気をしたのだから、その代償は払っていただかないと。彼にも、その彼を誘惑した女にも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる