345 / 419
第4話
しおりを挟む
一際、大きな喝采があがった。
プラカードが激しく揺られ、口々に浜岡への野次が飛ばされる。
口角を曲げた信条は、津波のような大声を、まるでコーラスのように流しながら両手を掲げた。しかし、その行為は突如として耳に入ってきた笑い声で止まることとなる。怪訝な視線で見渡した信条の視線は、腹を抱えて、膝を折った浜岡にぴたりと合わさった。眉を寄せ、信条は静かに訊いた。
「......何が可笑しい?」
浜岡は、ひとしきり笑い終えると目頭に溜まった涙を左の人差し指で拭い、身体を起こすと、一息ついた。
「いやいや、すみません、ついつい可笑しくて可笑しくて......日本人の誇り、詭弁に惑わされる若者と......いやぁ、まるで、アドルフ・ヒトラーですね。それとも、思想という点を付けるのであれば、石原莞爾も外せませんかね?」
信条の瞳に、ぐっ、と力が入り、明らかな嫌悪感を示す。隠さずに冷たく言った。
「ヒトラーなどと比べるな!私は違う!」
浜岡は首を横に振ると冷静な口ぶりで返す。
「いえ、なにも変わりませんよ。そちらも説明が必要ですか?日本人の誇り、矜持、そのような主張が全面に押し出されている、その点です。歴史に対する優越感を得られる奇術のような言とは、いつの時代も便利なものです」
目くじらをたてた信条が反駁する。その瞳には、決して逃さないという意思が宿っている。
「ならば、ゴビノーの人種不平等論を盾に、アーリア人などという存在せぬ人種を作り上げた男とは違うではないか。日本人には、はっきりとした確かな歴史がある」
「まだ、理解が及びませんか?全く、貴方も耄碌してしまいましたか......歳はとりたくありませんねえ......それならば言い換えましょうか?こちらに思想はあっても、あちらに思想はない、とでも言いたいのですか、と」
溜め息混じりに述べた浜岡に、怒りを顕にしたのは信条のボディーガードだった。固めた拳を浜岡の右頬へ叩きつける為に、大きく弓を引き放つ。ほぼ同時に動き出した斎藤を左腕で制止した浜岡は、頬骨に走った鈍痛と共に地面に倒れた。その姿を黙って見ているほど、斎藤はお人好しではなく、怒声を一気に振り絞った。
「浜岡!」
狼狽した斎藤の悲鳴にも似た声は、ボディーガードの男を睥睨した途端、嗔恚を宿した声に変わる。
「貴様ァ!」
男も身構える。今にも飛び掛かろうとする斎藤の足を止めたのは、自身の背に打ち付けられた怒声だ。
「斎藤さん!」
プラカードが激しく揺られ、口々に浜岡への野次が飛ばされる。
口角を曲げた信条は、津波のような大声を、まるでコーラスのように流しながら両手を掲げた。しかし、その行為は突如として耳に入ってきた笑い声で止まることとなる。怪訝な視線で見渡した信条の視線は、腹を抱えて、膝を折った浜岡にぴたりと合わさった。眉を寄せ、信条は静かに訊いた。
「......何が可笑しい?」
浜岡は、ひとしきり笑い終えると目頭に溜まった涙を左の人差し指で拭い、身体を起こすと、一息ついた。
「いやいや、すみません、ついつい可笑しくて可笑しくて......日本人の誇り、詭弁に惑わされる若者と......いやぁ、まるで、アドルフ・ヒトラーですね。それとも、思想という点を付けるのであれば、石原莞爾も外せませんかね?」
信条の瞳に、ぐっ、と力が入り、明らかな嫌悪感を示す。隠さずに冷たく言った。
「ヒトラーなどと比べるな!私は違う!」
浜岡は首を横に振ると冷静な口ぶりで返す。
「いえ、なにも変わりませんよ。そちらも説明が必要ですか?日本人の誇り、矜持、そのような主張が全面に押し出されている、その点です。歴史に対する優越感を得られる奇術のような言とは、いつの時代も便利なものです」
目くじらをたてた信条が反駁する。その瞳には、決して逃さないという意思が宿っている。
「ならば、ゴビノーの人種不平等論を盾に、アーリア人などという存在せぬ人種を作り上げた男とは違うではないか。日本人には、はっきりとした確かな歴史がある」
「まだ、理解が及びませんか?全く、貴方も耄碌してしまいましたか......歳はとりたくありませんねえ......それならば言い換えましょうか?こちらに思想はあっても、あちらに思想はない、とでも言いたいのですか、と」
溜め息混じりに述べた浜岡に、怒りを顕にしたのは信条のボディーガードだった。固めた拳を浜岡の右頬へ叩きつける為に、大きく弓を引き放つ。ほぼ同時に動き出した斎藤を左腕で制止した浜岡は、頬骨に走った鈍痛と共に地面に倒れた。その姿を黙って見ているほど、斎藤はお人好しではなく、怒声を一気に振り絞った。
「浜岡!」
狼狽した斎藤の悲鳴にも似た声は、ボディーガードの男を睥睨した途端、嗔恚を宿した声に変わる。
「貴様ァ!」
男も身構える。今にも飛び掛かろうとする斎藤の足を止めたのは、自身の背に打ち付けられた怒声だ。
「斎藤さん!」
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
夜通しアンアン
戸影絵麻
ホラー
ある日、僕の前に忽然と姿を現した謎の美少女、アンアン。魔界から家出してきた王女と名乗るその少女は、強引に僕の家に住みついてしまう。アンアンを我が物にせんと、次から次へと現れる悪魔たちに、町は大混乱。僕は、ご先祖様から授かったなけなしの”超能力”で、アンアンとともに魔界の貴族たちからの侵略に立ち向かうのだったが…。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
【完結】わたしの娘を返してっ!
月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。
学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。
病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。
しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。
妻も娘を可愛がっていた筈なのに――――
病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。
それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと――――
俺が悪かったっ!?
だから、頼むからっ……
俺の娘を返してくれっ!?
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる