感染

saijya

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第11話

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                       ※※※ ※※※

 プロペラを回し、海上を飛行するヘリの中で、田辺は両手を組んで、静かに隣に座る野田の表情を窺った。どうにも、心境が伝わってこない曖昧な横顔だ。どこを見ているか、そう問うたとして、どこを見ている訳でもないと返されるだろう。田辺は、組んでいた腕をほどき、デジタルカメラを取り出して、どこを撮るでもなくフラッシュを焚き、松谷が眉間を狭めた。

「......おい、いきなりカメラ使うなよ。肖像権ってのがあんだろうが」

「肖像権は法律で明確に定義されてはいませんし、それを引き合いにだすのならば、僕は貴方ではなく、なんでもない機内を撮っていただけです。問題はないと思いますが......」

 松谷が、盛大に舌を打つと、苛立ちを隠さずに田辺を睨みつける。

「これだから、お前みたいな人種は嫌いなんだよ。一言に対して、屁理屈を二言は返してきやがる」 

 機内に再び沈黙が降りた。平山と名乗った若い青年ですら、余裕を持っていたからこその口数が少なくなり、黙々と支給された銃を弄っている。この調子で大丈夫なのだろうか、そんな一抹の不安を抱いても、四人を乗せた機体は、ぐんぐんと九州地方へ向かって進んでいく。恐らく、野田を除いた二人の脳裏には、新崎優奈の変わり果てた姿が浮かんでいるのだろう。醜悪な見た目で人間を貪り喰う少女は、あまりにも衝撃的だった。
    緊張の面持ちで、平山が喉を震わせる。

「......田辺さん、確認しておきたいのですけれど、奴等は頭を撃てば動かなくなるんですか?」 

 平山の言葉に、松谷は過剰なまでに肩をあげて田辺を見た。
    ひとつ頷いて、田辺が口を開く。

「はい、間違いありません......そうですよね、野田さん」

「......ああ、そうだな」

 気を利かせた田辺が会話を振るが、野田は、やはり喋ろうとはしない。それも当然だろう。今、野田の両肩には、普通の神経では、とても抱えきれそうにもない重みが掛かっている。それでも、田辺は野田へ声を掛けなければならなかった。

「野田さん、聞いて起きたいことがあります。攻撃は18時で間違いありませんか?」

「......ああ、もしもの場合に至ったら、そう聞いている。そこは、戸部の考えであった部分だから、というのもあるからこそ、俺には断定しづらいけれどな。だが、18時は間違いない」

 いつもより歯切れは悪いが、野田はそう答えると、平山が腕時計に目を落とす。時刻は、朝の八時を指している。
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