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第2話
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今すぐにでも脱兎の如く逃げ出したくなる。いっそのことなら、死ぬべきなのではないだろうか。過った矛盾を胸に、新崎は布団でも剥がしとるように、死者を身体からはね除けた。全身を濡らす血液が、前髪から滴り落ち、薄く開いた目に入るが、瞬きすらも煩わしい。
首をあげ、迫り来る死者を一見し、右膝を軽く曲げ、起き上がろうとした寸前、新崎は四階のエレベーターホールから人影が飛び出すのを確かに視認した。見慣れた迷彩色、聞き慣れた銃声、なによりも、その姿は、長年、共に訓練を受けてきた男のものだった。
「お......岡島......か?」
咆哮する大勢の死者を引き連れ、岡島浩太は身を翻す。そして、アパッチもまた、その姿を追ってプロペラの回転数をあげた。上昇していく機体を、仰向けのまま眺めていた新崎は、小さく笑い始める。
とても、一時であろうと、命を諦めた男には見えないだろう。
「なんて皮肉だ......なんて皮肉だよ、神様......俺に、こんな......もう一度、優奈に会えるって希望を与えるなんてよ......こんな惨めな姿を......一人娘に晒せってのかよ!」
唇に血が滲むほど、奥歯を噛んだ。
悔しかった。情けなかった。僅かな希望を垣間見ただけで、これほど命に執着してしまう。償える筈もない命の重さを背中に受けて、生きていくことなど出来るのだろうか。
いや、もう、考えている場合ではない。こうなれば、どんな泥濘を啜ってでも生き延びる。そして、もう一度、もう一度、新崎優奈をこの腕に抱き締める。
アパッチが崩れていく。その様を見送り、新崎は決意を新たにした。どれだけ惨めだろうと、必ず、この地獄を切り抜けてやる。大量の死者が、屋上から墜落したアパッチ目掛けて階段をかけ降りていく。すべての足音が途切れると、深く息を吸って呼吸を整え、身体をゆっくりと起こしていく。痛みはあるが、動けないほどではなさそうだ。
その時、四階のエレベーターホールから四人組の男女が現れた。一人は、まだ幼い少女、もう二人は高校生ほどの男女に見える。そして、最後の一人、迷彩に身を包んだ壮年の男が銃を構えている。新崎は、瞬間的に答えを導きだし、乾いた喉を震わせた。
「佐伯......お前なのか......?佐伯......助けてくれ......」
その声にいち早く気付いたのは、少年だった。先頭を歩いていた自衛官の肘をつかんで、聞き取れない声量で何かを伝えている。全身に残った力のすべてを喉に込めて、新崎は叫んだ。
「佐伯......!俺だ......!助けてくれ......さえ……!」
新崎の意識は、電源が切れたかのように途絶えた。そこから先の記憶は、すっぱりと途絶えている。僅かに残った感覚は、誰かに腕を引かれたであろう痛みだけだ。
首をあげ、迫り来る死者を一見し、右膝を軽く曲げ、起き上がろうとした寸前、新崎は四階のエレベーターホールから人影が飛び出すのを確かに視認した。見慣れた迷彩色、聞き慣れた銃声、なによりも、その姿は、長年、共に訓練を受けてきた男のものだった。
「お......岡島......か?」
咆哮する大勢の死者を引き連れ、岡島浩太は身を翻す。そして、アパッチもまた、その姿を追ってプロペラの回転数をあげた。上昇していく機体を、仰向けのまま眺めていた新崎は、小さく笑い始める。
とても、一時であろうと、命を諦めた男には見えないだろう。
「なんて皮肉だ......なんて皮肉だよ、神様......俺に、こんな......もう一度、優奈に会えるって希望を与えるなんてよ......こんな惨めな姿を......一人娘に晒せってのかよ!」
唇に血が滲むほど、奥歯を噛んだ。
悔しかった。情けなかった。僅かな希望を垣間見ただけで、これほど命に執着してしまう。償える筈もない命の重さを背中に受けて、生きていくことなど出来るのだろうか。
いや、もう、考えている場合ではない。こうなれば、どんな泥濘を啜ってでも生き延びる。そして、もう一度、もう一度、新崎優奈をこの腕に抱き締める。
アパッチが崩れていく。その様を見送り、新崎は決意を新たにした。どれだけ惨めだろうと、必ず、この地獄を切り抜けてやる。大量の死者が、屋上から墜落したアパッチ目掛けて階段をかけ降りていく。すべての足音が途切れると、深く息を吸って呼吸を整え、身体をゆっくりと起こしていく。痛みはあるが、動けないほどではなさそうだ。
その時、四階のエレベーターホールから四人組の男女が現れた。一人は、まだ幼い少女、もう二人は高校生ほどの男女に見える。そして、最後の一人、迷彩に身を包んだ壮年の男が銃を構えている。新崎は、瞬間的に答えを導きだし、乾いた喉を震わせた。
「佐伯......お前なのか......?佐伯......助けてくれ......」
その声にいち早く気付いたのは、少年だった。先頭を歩いていた自衛官の肘をつかんで、聞き取れない声量で何かを伝えている。全身に残った力のすべてを喉に込めて、新崎は叫んだ。
「佐伯......!俺だ......!助けてくれ......さえ……!」
新崎の意識は、電源が切れたかのように途絶えた。そこから先の記憶は、すっぱりと途絶えている。僅かに残った感覚は、誰かに腕を引かれたであろう痛みだけだ。
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