242 / 419
第13話
しおりを挟む
東から与えられた恐怖が、今になって、祐介の胸中に形となって現れ始めた。心臓がいつもよりも早く収縮を繰り返している。すぐにでも、吐き出してしまいそうだ。
「祐介君?」
阿里沙が憂慮を宿した瞳で言った。恐怖からは、逃げられない。だったら、せめてもの足掻きで、このカバンを開いてみせる。東への恐怖をここで捨てて、向き合っていくためにもだ。祐介は、勢いよくカバンのジッパーを開いた。
中身を覗いて、祐介は目を剥く。
銀色の筒に、トリガーの付いている銃のような形をしているそれは、おおまかに分解されカバンに収まっている。どうやら、東は組み立てかたが分からずに放置したのだろう。かくいう、祐介達にも、こんなものの使い方など、知っている筈もない。だが、これがなんなのかは理解している。映画などで目にしてきた、ロケット砲というものだろう。
なぜ、こんなものがここにあるのだろうか、そんな疑問を抱くより先に、祐介の表情に、安堵か暗澹か、どちらともとれない色が浮かんだ。組み立てる技術がなければ、こんなものは無用の長物となる。
「これって......ロケット砲ってやつかな?」
「そうだろうけど……こんなもん使い方すら分からない……」
祐介は、そう言いながらジッパーを閉めた。途中、阿里沙が言う。
「浩太さん達は使えないかな?」
「使えるだろうけど、運んでいたら、瞬く間に死者から襲われるだろ。どちらにしろ、持ち運びは出来ないし、置いておくしかないな......」
祐介が、改めてハッチにカバンを戻した時、突然、右足に違和感が走った。間違いなく、誰かに掴まれている。それも、ハッチにカバンを置いたのだから東ではない。
じゃあ、誰だ。 この場にいる三人以外には、一つしかない。
振り返るよりも早く、祐介の右足が引かれる。戦車を器用に登ってきた一人の使者が、祐介の右太股へ大口を開ける姿が見えた瞬間、反射的に左足で蹴り落とす。
痛みに呻くような声を出しながら、使者は再び、波をうつように蠢く海へと落下していった。しかし、死者達は、次々にキャタピラへと手を置き始めている。
このままでは、対処できない人数に押しきられるのも時間の問題だ。
「くそ!なんだってんだこいつら......!」
祐介が、一人の手を踏みつける。まるで、もぐら叩きのようだ。もっとも、登ってくるものは、もぐらなんかよりはるかに醜悪で凶暴だ。濁りきった黒目のない眼球が、祐介達の姿を捕らえる。
重なりあう伸吟は、オーケストラよりも、激しく三人を動揺させた。
「危ない!」
阿里沙が叫ぶと同時に、祐介の足首が捕らえられた。引き倒されるや否や、祐介はハッチの引き戸に手を掛ける。
死者の口よりも、高い位置にはあるが、投げ出されたような右足を握る手は徐々に増えていく。そうなれば、当然、死者の海へと引く力は強くなっていく。
「ぐうううう......あああああ!」
歯が磨り減ってしまうと思うほどに、祐介は両手に力を込めた。放すことは、そのまま死に繋がる。
「祐介君?」
阿里沙が憂慮を宿した瞳で言った。恐怖からは、逃げられない。だったら、せめてもの足掻きで、このカバンを開いてみせる。東への恐怖をここで捨てて、向き合っていくためにもだ。祐介は、勢いよくカバンのジッパーを開いた。
中身を覗いて、祐介は目を剥く。
銀色の筒に、トリガーの付いている銃のような形をしているそれは、おおまかに分解されカバンに収まっている。どうやら、東は組み立てかたが分からずに放置したのだろう。かくいう、祐介達にも、こんなものの使い方など、知っている筈もない。だが、これがなんなのかは理解している。映画などで目にしてきた、ロケット砲というものだろう。
なぜ、こんなものがここにあるのだろうか、そんな疑問を抱くより先に、祐介の表情に、安堵か暗澹か、どちらともとれない色が浮かんだ。組み立てる技術がなければ、こんなものは無用の長物となる。
「これって......ロケット砲ってやつかな?」
「そうだろうけど……こんなもん使い方すら分からない……」
祐介は、そう言いながらジッパーを閉めた。途中、阿里沙が言う。
「浩太さん達は使えないかな?」
「使えるだろうけど、運んでいたら、瞬く間に死者から襲われるだろ。どちらにしろ、持ち運びは出来ないし、置いておくしかないな......」
祐介が、改めてハッチにカバンを戻した時、突然、右足に違和感が走った。間違いなく、誰かに掴まれている。それも、ハッチにカバンを置いたのだから東ではない。
じゃあ、誰だ。 この場にいる三人以外には、一つしかない。
振り返るよりも早く、祐介の右足が引かれる。戦車を器用に登ってきた一人の使者が、祐介の右太股へ大口を開ける姿が見えた瞬間、反射的に左足で蹴り落とす。
痛みに呻くような声を出しながら、使者は再び、波をうつように蠢く海へと落下していった。しかし、死者達は、次々にキャタピラへと手を置き始めている。
このままでは、対処できない人数に押しきられるのも時間の問題だ。
「くそ!なんだってんだこいつら......!」
祐介が、一人の手を踏みつける。まるで、もぐら叩きのようだ。もっとも、登ってくるものは、もぐらなんかよりはるかに醜悪で凶暴だ。濁りきった黒目のない眼球が、祐介達の姿を捕らえる。
重なりあう伸吟は、オーケストラよりも、激しく三人を動揺させた。
「危ない!」
阿里沙が叫ぶと同時に、祐介の足首が捕らえられた。引き倒されるや否や、祐介はハッチの引き戸に手を掛ける。
死者の口よりも、高い位置にはあるが、投げ出されたような右足を握る手は徐々に増えていく。そうなれば、当然、死者の海へと引く力は強くなっていく。
「ぐうううう......あああああ!」
歯が磨り減ってしまうと思うほどに、祐介は両手に力を込めた。放すことは、そのまま死に繋がる。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
夜通しアンアン
戸影絵麻
ホラー
ある日、僕の前に忽然と姿を現した謎の美少女、アンアン。魔界から家出してきた王女と名乗るその少女は、強引に僕の家に住みついてしまう。アンアンを我が物にせんと、次から次へと現れる悪魔たちに、町は大混乱。僕は、ご先祖様から授かったなけなしの”超能力”で、アンアンとともに魔界の貴族たちからの侵略に立ち向かうのだったが…。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
【完結】わたしの娘を返してっ!
月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。
学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。
病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。
しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。
妻も娘を可愛がっていた筈なのに――――
病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。
それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと――――
俺が悪かったっ!?
だから、頼むからっ……
俺の娘を返してくれっ!?
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる