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第12話
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顔に東の右手から流れる血が付着した。何がどうなっているのか、まるで理解が出来ない。
東の右手は、中指と薬指の間から真っ二つに割けてしまっている。人差し指は失われ、親指は皮一枚で繋がっている状態だった。見るも無惨な右手を振り回し、東は啼泣をあげ続けていた。
M360は、全国の警察官に提供された拳銃だ。
しかし、耐久性が低すぎるという致命的な欠点があり、改善が求められたほどの銃だった。都市部から回収をされたものの、地方はまだまだ倉庫に眠っていたのだろう。それを祐介の父親は使用していた。
銃の暴発、それが最悪の殺人鬼に深手を負わせた事故の正体だが、なによりも、祐介の人間として生きるという信念が、銃の使用をよしとせずにいたことこそが、今回の結果に繋がったのだろう。
だが、祐介の考えは違った。あまりにも近すぎた炸裂音、激しく揺れる鼓膜と、白濁とした意識の隅で、踞る東の背後から父親の気配を感じ取った。
守ってくれたんだな......親父......
ぐっ、と弛緩した腕に力を込めて立ち上がり、ハッチから伸ばされた亜里沙の手を握る。ようやく、祐介は車外へと脱出し、間髪入れず、倒れるようにハッチを閉めた。
耳を塞ぎたくなる東の金切り声が遠退き、溜め込んだ緊張を吐き出す。
「祐介君!大丈夫!?」
「ああ、なんとか......」
だが、安心してばかりではいられない。まだ、戦車に群がる死者をどう対処するか、という問題が残されている。
祐介は死者を俯瞰すると、ハッチにも目を預けた。深手を負っているとはいえ、あの狂った殺人鬼が、このまま終わる筈もない。
祐介は、体力を少しでも回復させることと、東が動きだした場合の緊急時の対応のために、ハッチに座りこんだ。
「阿里沙、本当に助かった......」
「ううん......それより、これからどうするの?」
もっともな意見に、祐介は首を振った。
さきほどまで、東から殺される覚悟をしていただけあって、これから先の展開を考えるだけの余裕などなかったのだろう。
二人の間に、沈黙が降る。そんなとき、祐介の肩を加奈子が叩いた。
何事かと振り返れば、加奈子が、それなりに大きなカバンを指差しており、祐介が阿里沙に向き直れば、阿里沙は首を傾げた。阿里沙も必死に祐介を助けようとしていたのだから、気付いていなかったようだ。
「......加奈子ちゃん、そのカバンを持ってきてくれる?」
祐介の声に加奈子は頷き、持ち上げようとしたが、かなりの重さがあるようで、腕を震わせていたが、やがて、浮かせることもなく、加奈子は手を離してしまった。
祐介は、阿里沙をハッチに座らせ、代わりにカバンを持ってみる。恐らく、十キロ以上はあるだろう。ハッチの上に重石のように乗せ、二人に視線を送りって、ジッパーに手をつけた。深く息を吸い込み、止めると、ジッ、と僅かにスライドさせ、小指ほどの穴を作る。そこから覗いてみるが、中身は確認できない。
東は、このカバンを発見している筈だ。しかし、無造作に置かれていた事実が祐介を不安にさせた。
不必要だと無視したのか、必要だからこそ、置いておいたのか、はたまた、罠の可能性も捨てきれない。
しかし、もしも、身体を守るプロテクターのようなものだとしたら、自らが囮になることで、状況の打破に繋がるかもしれない。
様々な要素が重なった不安は、祐介の手を遂には止めてしまった。
東の右手は、中指と薬指の間から真っ二つに割けてしまっている。人差し指は失われ、親指は皮一枚で繋がっている状態だった。見るも無惨な右手を振り回し、東は啼泣をあげ続けていた。
M360は、全国の警察官に提供された拳銃だ。
しかし、耐久性が低すぎるという致命的な欠点があり、改善が求められたほどの銃だった。都市部から回収をされたものの、地方はまだまだ倉庫に眠っていたのだろう。それを祐介の父親は使用していた。
銃の暴発、それが最悪の殺人鬼に深手を負わせた事故の正体だが、なによりも、祐介の人間として生きるという信念が、銃の使用をよしとせずにいたことこそが、今回の結果に繋がったのだろう。
だが、祐介の考えは違った。あまりにも近すぎた炸裂音、激しく揺れる鼓膜と、白濁とした意識の隅で、踞る東の背後から父親の気配を感じ取った。
守ってくれたんだな......親父......
ぐっ、と弛緩した腕に力を込めて立ち上がり、ハッチから伸ばされた亜里沙の手を握る。ようやく、祐介は車外へと脱出し、間髪入れず、倒れるようにハッチを閉めた。
耳を塞ぎたくなる東の金切り声が遠退き、溜め込んだ緊張を吐き出す。
「祐介君!大丈夫!?」
「ああ、なんとか......」
だが、安心してばかりではいられない。まだ、戦車に群がる死者をどう対処するか、という問題が残されている。
祐介は死者を俯瞰すると、ハッチにも目を預けた。深手を負っているとはいえ、あの狂った殺人鬼が、このまま終わる筈もない。
祐介は、体力を少しでも回復させることと、東が動きだした場合の緊急時の対応のために、ハッチに座りこんだ。
「阿里沙、本当に助かった......」
「ううん......それより、これからどうするの?」
もっともな意見に、祐介は首を振った。
さきほどまで、東から殺される覚悟をしていただけあって、これから先の展開を考えるだけの余裕などなかったのだろう。
二人の間に、沈黙が降る。そんなとき、祐介の肩を加奈子が叩いた。
何事かと振り返れば、加奈子が、それなりに大きなカバンを指差しており、祐介が阿里沙に向き直れば、阿里沙は首を傾げた。阿里沙も必死に祐介を助けようとしていたのだから、気付いていなかったようだ。
「......加奈子ちゃん、そのカバンを持ってきてくれる?」
祐介の声に加奈子は頷き、持ち上げようとしたが、かなりの重さがあるようで、腕を震わせていたが、やがて、浮かせることもなく、加奈子は手を離してしまった。
祐介は、阿里沙をハッチに座らせ、代わりにカバンを持ってみる。恐らく、十キロ以上はあるだろう。ハッチの上に重石のように乗せ、二人に視線を送りって、ジッパーに手をつけた。深く息を吸い込み、止めると、ジッ、と僅かにスライドさせ、小指ほどの穴を作る。そこから覗いてみるが、中身は確認できない。
東は、このカバンを発見している筈だ。しかし、無造作に置かれていた事実が祐介を不安にさせた。
不必要だと無視したのか、必要だからこそ、置いておいたのか、はたまた、罠の可能性も捨てきれない。
しかし、もしも、身体を守るプロテクターのようなものだとしたら、自らが囮になることで、状況の打破に繋がるかもしれない。
様々な要素が重なった不安は、祐介の手を遂には止めてしまった。
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