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第10話
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これまで発っした事のない恐怖にかられた真一の叫びだった。約束の二分は既に経過している。銃口が、ついに死者の喉を突き破った。間一髪のところで顔を反らすも、耳元で響いた噛み合わせの音は、真一にかつてないほどの恐怖を与えるには、充分すぎる。
死者が嗚咽のような声を出しながら、次の攻撃態勢に入ると、浩太の右足が死者の顔面を蹴りあげた。
「悪い、少し遅れた!」
言いながら、浩太は何かをエスカレーターを登る死者の大群に投げつける。
起き上がった真一が見たものは、子供が遊ぶ小型の機械だった。死者に支える力はなく、次々と投げ込まれる機械に、なすすべなく倒されていく。散らばったメダルを見た浩太が言った。
「銃よか役立っただろ?」
多くの機械がエスカレーターの乗降口から積み重なり、死者の進軍を止めている。
身体中に彩られた血を払いながら、立ち上がった真一は仏頂面だ。
「遅いっての......死ぬかと思ったぜ......」
「生きてるんだから、そう言うなよ。ほら、まだ仕上げがある」
浩太の親指が指した位置には、巨大なジャックポットの機械が置かれており、意図を察した真一は疲れた表情で頷く。
底についた車輪のロックを外し、エスカレーターの入り口を塞ぎ、加えて車輪を壊せば多少の時間は稼げるだろう。懸念が残ってしまうのは、仕方のない事だが、現状では最上手と言える。
「やっちまったな......初手から躓いちまった......」
浩太が機械に阻まれた死者の群れを俯瞰しつつ舌を打った。外観だけでも広大なショッパーズモールと分かる面積がある建物に、アパッチの猛攻をやり過ごす為とはいえ、更に死者の数を増やしてしまった。これでは、祐介達を含めた生き残り組を窮地に追いやってしまうようなものだと顔をしかめる。
「そう思うなら、さっさと全員で脱出する為に行動しようぜ、ほらよ」
これから起こる悲劇に備えるような力強さで、真一から受け取ったAK47に新たな弾倉を叩き込むと、背後でガラスか弾ける音が響き、二人は素早く銃口を向けた。
※※※ ※※※
南口通路を隔離する戦車に到達した三人には、影が落ちている。
また一人、大切な仲間を失った事実は、やはり、重くのし掛かっていた。中でも、加奈子は声が出せない分、強く顔つきに表れている。
車内に下から潜り込んだ三人は、ひとまず死者の呻きが聞こえなくなるまで立て籠ることに決めたが、そうしている時間に、どうしても彰一のことが頭を過ってしまう。
別れ際に、任せろ、と口にした祐介は、右手に言魂が乗っているかのように額に当てた。この記憶を、彰一の姿が焼き付いた記憶を褪させない為にだ。
「......一度、外を見てくるよ」
立ち上がった祐介に目を配り、阿里沙が腰を上げた。
「祐介君、ちょっと......」
ハッチに掛けていた手を離して振り返る。
加奈子に聞かれるのは、都合が悪い内容なのか、阿里沙は小声だった。
死者が嗚咽のような声を出しながら、次の攻撃態勢に入ると、浩太の右足が死者の顔面を蹴りあげた。
「悪い、少し遅れた!」
言いながら、浩太は何かをエスカレーターを登る死者の大群に投げつける。
起き上がった真一が見たものは、子供が遊ぶ小型の機械だった。死者に支える力はなく、次々と投げ込まれる機械に、なすすべなく倒されていく。散らばったメダルを見た浩太が言った。
「銃よか役立っただろ?」
多くの機械がエスカレーターの乗降口から積み重なり、死者の進軍を止めている。
身体中に彩られた血を払いながら、立ち上がった真一は仏頂面だ。
「遅いっての......死ぬかと思ったぜ......」
「生きてるんだから、そう言うなよ。ほら、まだ仕上げがある」
浩太の親指が指した位置には、巨大なジャックポットの機械が置かれており、意図を察した真一は疲れた表情で頷く。
底についた車輪のロックを外し、エスカレーターの入り口を塞ぎ、加えて車輪を壊せば多少の時間は稼げるだろう。懸念が残ってしまうのは、仕方のない事だが、現状では最上手と言える。
「やっちまったな......初手から躓いちまった......」
浩太が機械に阻まれた死者の群れを俯瞰しつつ舌を打った。外観だけでも広大なショッパーズモールと分かる面積がある建物に、アパッチの猛攻をやり過ごす為とはいえ、更に死者の数を増やしてしまった。これでは、祐介達を含めた生き残り組を窮地に追いやってしまうようなものだと顔をしかめる。
「そう思うなら、さっさと全員で脱出する為に行動しようぜ、ほらよ」
これから起こる悲劇に備えるような力強さで、真一から受け取ったAK47に新たな弾倉を叩き込むと、背後でガラスか弾ける音が響き、二人は素早く銃口を向けた。
※※※ ※※※
南口通路を隔離する戦車に到達した三人には、影が落ちている。
また一人、大切な仲間を失った事実は、やはり、重くのし掛かっていた。中でも、加奈子は声が出せない分、強く顔つきに表れている。
車内に下から潜り込んだ三人は、ひとまず死者の呻きが聞こえなくなるまで立て籠ることに決めたが、そうしている時間に、どうしても彰一のことが頭を過ってしまう。
別れ際に、任せろ、と口にした祐介は、右手に言魂が乗っているかのように額に当てた。この記憶を、彰一の姿が焼き付いた記憶を褪させない為にだ。
「......一度、外を見てくるよ」
立ち上がった祐介に目を配り、阿里沙が腰を上げた。
「祐介君、ちょっと......」
ハッチに掛けていた手を離して振り返る。
加奈子に聞かれるのは、都合が悪い内容なのか、阿里沙は小声だった。
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