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第12話
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安部が左足を出した次の瞬間、右足のアキレス腱に鋭く尖らせたナイフを突き立てられたような、耐えがたい痛みが走る。
何が起きたのか理解できない。間を開けずに、生温い風が踝を撫で、とてつもない激痛が訪れ、安部は膝を折りかけた。それでも、その原因を無視はできず、視線だけを下げて、耳をつんざく甲高い絶望と戦慄、痛み、どれともとれない声をあげた。
「いぎいいいいいい!」
右足に、しがみついているのは、つい今しがた死亡した彰一だった。必死に、安部の踝からアキレス腱にかけて噛みついている。
声に出来ない場面に直面した安部は、何故だ!どうして!と、脳内で繰り返す。
バリ、と妙な音が鳴った。
「あぎゃああああああ!」
もんどりうって倒れた所に、彰一が重なり、獣のような嘯きと、その白濁とした双眸が安部を見据える。それは、どこから見ても、使徒そのものだった。
「うっあ......あああ!うわああああ!」
思考が追い付かない。使徒になるには、早すぎる。それに、安部は彰一の傷を視認した。あれは間違いなく咬傷ではなかった。混乱の最中、彰一の口が喉仏に迫り、咄嗟にはね除けるも、立ち上がることが出来ずに床を這って逃げようとするが、それを鬼気迫る形相で、彰一が捕らえる。
「はな......離せ!くそおおおお!」
抵抗の末、彰一を再度突き飛ばすことに成功した安部は目を剥いた。激しい抗拒の結果、彰一の服が中央から破れた。その袖の下、左腕第二関節の下に、明らかな噛み傷があったのだ。目を白黒させつつ、自身の右足を一瞥する。看板の傷に紛れた本命の跡は、安部を失意の底に突き落とすには充分だった。
「嘘だ......嘘だ!嘘だ!嘘だあああああ!」
そんな叫びに、使徒へと転化した彰一が呼応するように雄叫びをあげ、安部を追い詰めていく。
ひいひい、と蚊の鳴き声のような、息を吐きながら、安部は匍匐して、ようやく銃を回収し、彰一に狙いを定めた。
短い銃声がモール内部に響き渡った。銃弾は、彰一の額から入り、後頭部を抜け、糸の切れた人形のように彰一が倒れる。
その光景を見届けた安部の目頭に、熱い涙が溜まっていき流れ始めた。
「くふぅ......うっうっ......ああぁぁぁぁぁ......神よ、これは......あんまりじゃないか......神よ!選んだのは、私だろう!この私だろうが!」
死んで蘇った者に噛まれる。その事実が意味するのは、たったひとつだけだ。
「結局、私は選ばれてなどいなかったとでも言うのか……ただ、道化を演じただけだとでも言うつもりか......!」
泣き続ける安部の足から、ドロドロと、濁った水のように流れていた血が、彰一のズボンに僅かに吸われた時、シャッターが爆発でもしたかのような轟音をたてて破られた。
そして、アキレス腱を喰いちぎられた安部は、逃げることもままならない。
「来るな!来るな!来ないでくれえええ!」
先頭にいた真っ白な服に身を包んだ男が安部の右肩に乗り、鎖骨を噛み砕く。このショッパーズモールに籠城していた人間の一人だろう。次も、次も、また、その次も。いの一番に安部の身体を貪り始めたのは、真っ白な服を着た者達だった。
「やめ......やめて!やめ!やめおあおああおおおおおお!」
安部の身体は、自らが使徒と呼び続けた死人達に、生きたまま解体されていった。開かれた腹に顔を入れられては、内蔵を引き摺り出され、四肢を強引に噛み千切られる。
理想主義者の最後は、いつだって現実を突き付けられた直後なのだろう。
彰一は天井を見上げたまま、横たわっている。その表情は、穏やかな笑顔のようにも見えた。
何が起きたのか理解できない。間を開けずに、生温い風が踝を撫で、とてつもない激痛が訪れ、安部は膝を折りかけた。それでも、その原因を無視はできず、視線だけを下げて、耳をつんざく甲高い絶望と戦慄、痛み、どれともとれない声をあげた。
「いぎいいいいいい!」
右足に、しがみついているのは、つい今しがた死亡した彰一だった。必死に、安部の踝からアキレス腱にかけて噛みついている。
声に出来ない場面に直面した安部は、何故だ!どうして!と、脳内で繰り返す。
バリ、と妙な音が鳴った。
「あぎゃああああああ!」
もんどりうって倒れた所に、彰一が重なり、獣のような嘯きと、その白濁とした双眸が安部を見据える。それは、どこから見ても、使徒そのものだった。
「うっあ......あああ!うわああああ!」
思考が追い付かない。使徒になるには、早すぎる。それに、安部は彰一の傷を視認した。あれは間違いなく咬傷ではなかった。混乱の最中、彰一の口が喉仏に迫り、咄嗟にはね除けるも、立ち上がることが出来ずに床を這って逃げようとするが、それを鬼気迫る形相で、彰一が捕らえる。
「はな......離せ!くそおおおお!」
抵抗の末、彰一を再度突き飛ばすことに成功した安部は目を剥いた。激しい抗拒の結果、彰一の服が中央から破れた。その袖の下、左腕第二関節の下に、明らかな噛み傷があったのだ。目を白黒させつつ、自身の右足を一瞥する。看板の傷に紛れた本命の跡は、安部を失意の底に突き落とすには充分だった。
「嘘だ......嘘だ!嘘だ!嘘だあああああ!」
そんな叫びに、使徒へと転化した彰一が呼応するように雄叫びをあげ、安部を追い詰めていく。
ひいひい、と蚊の鳴き声のような、息を吐きながら、安部は匍匐して、ようやく銃を回収し、彰一に狙いを定めた。
短い銃声がモール内部に響き渡った。銃弾は、彰一の額から入り、後頭部を抜け、糸の切れた人形のように彰一が倒れる。
その光景を見届けた安部の目頭に、熱い涙が溜まっていき流れ始めた。
「くふぅ......うっうっ......ああぁぁぁぁぁ......神よ、これは......あんまりじゃないか......神よ!選んだのは、私だろう!この私だろうが!」
死んで蘇った者に噛まれる。その事実が意味するのは、たったひとつだけだ。
「結局、私は選ばれてなどいなかったとでも言うのか……ただ、道化を演じただけだとでも言うつもりか......!」
泣き続ける安部の足から、ドロドロと、濁った水のように流れていた血が、彰一のズボンに僅かに吸われた時、シャッターが爆発でもしたかのような轟音をたてて破られた。
そして、アキレス腱を喰いちぎられた安部は、逃げることもままならない。
「来るな!来るな!来ないでくれえええ!」
先頭にいた真っ白な服に身を包んだ男が安部の右肩に乗り、鎖骨を噛み砕く。このショッパーズモールに籠城していた人間の一人だろう。次も、次も、また、その次も。いの一番に安部の身体を貪り始めたのは、真っ白な服を着た者達だった。
「やめ......やめて!やめ!やめおあおああおおおおおお!」
安部の身体は、自らが使徒と呼び続けた死人達に、生きたまま解体されていった。開かれた腹に顔を入れられては、内蔵を引き摺り出され、四肢を強引に噛み千切られる。
理想主義者の最後は、いつだって現実を突き付けられた直後なのだろう。
彰一は天井を見上げたまま、横たわっている。その表情は、穏やかな笑顔のようにも見えた。
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