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第2話
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奥歯を噛んだのは祐介だけではない。彰一も同じく渋面を作り、ついに叫び出しそうになった。祐介も、彰一の身に起きた事実から諦めにも似た感情が押し寄せ始め、現実から逃げるように、きつく瞼を落とす。
その時だった。
シャッターの奥から、生気のある男性のくぐもった声が聞こえたのだ。続けて、頭の後ろから、ベキン!、という破壊音が鳴り、無機質な印象しか与えないシャッターの冷たい光景が豁然と開く。
阿里沙が押し続けたシャッターの下部に空いた隙間に手を入れて、引き上げられたのだろう。それは、死者には出来ない芸当だ。
祐介の頭上で、精悍な声がした。
「早く子供をこちらに!早く!」
阿里沙が弾かれるように、加奈子の手をとった。しかし、加奈子の右手は、がったりと彰一の背中を掴んでいる。
加奈子は、幼いながらも、理解しているのだ。いや、幼いからこそ、しっかりとその目に焼き付いているのかもしれない。死者に噛まれた者がどうな末路を辿るのか。
彰一は、ぐっ、と口に力を入れると、加奈子の小さな手を剥がした。
「阿里沙!加奈子と一緒に出ろ!」
壁にしていた死者の背中が遂に破られ、腹部から二本の腕が突出し、彰一の胸ぐらを掴む。
「くそっだらあああああ!」
銃を持ち上げマガジンが空になるまで銃撃する。車内に満ちていく鉄錆の臭いが強くなる中で、彰一はドアに寄りかかった死者の胸ぐらを仕返しとばかりに掴んで引き寄せ、新たな肉の壁を作り上げた。
「阿里沙!先に加奈子ちゃんと出てくれ!次に彰一!それから俺を引っ張り出せ!」
分かった、と鋭く返した阿里沙は、暴れる加奈子を抱き締めると、助手席のドアガラスから身体を乗り出してモール内部へと避難する。そこで、シャッターを持ち上げていた男が舌打ちをしたが、気にしている余裕はない。すぐさま、車内に手を伸ばし、彰一へ言った。
「坂本君!早く!」
彰一にとっての誤算は、祐介が先読みしたかのような発言をしたことだった。この緊迫した状況下、四の五の言っている暇はない。看板の中央部から死者の腕が突きだされたのだから、尚更だ。
彰一は、身体で押し付けていた動かない死者を一瞥すると、祐介へ視線を投げた。祐介は黙って一つ頷き、鞄からイングラムのマガジンを一本だけ彰一へ渡す。
ここからは、時間との勝負だ。
彰一は、銃を左手に握り直し、深く息を吸い込むと、一気に身体を離し、助手席のドアガラスへと寄ると、同時に、祐介の肩を掴んだ。瞬間、数多の腕が車内へ容赦なく侵入し、数本が祐介の足を捕まえ、引き摺りだそうと引き始める。
祐介は、それでも冷静に鞄を掴んだ。
「祐介!我慢しろよ!」
車外へ出た彰一は、右手で祐介を一気に引っ張りつつ、銃口を反対側に屯する死者の大群に向けて、一切の迷いなくトリガーを引いた。激しくも短い連射音が祐介の耳元で鳴り続け、思わず顔をしかめるが、捕まれていた足は、死者の手から逃れ、祐介の身体が助手席のドアガラスから抜けると、シャッターを持ち上げていた男は、叩きつけるように下ろした。
その時だった。
シャッターの奥から、生気のある男性のくぐもった声が聞こえたのだ。続けて、頭の後ろから、ベキン!、という破壊音が鳴り、無機質な印象しか与えないシャッターの冷たい光景が豁然と開く。
阿里沙が押し続けたシャッターの下部に空いた隙間に手を入れて、引き上げられたのだろう。それは、死者には出来ない芸当だ。
祐介の頭上で、精悍な声がした。
「早く子供をこちらに!早く!」
阿里沙が弾かれるように、加奈子の手をとった。しかし、加奈子の右手は、がったりと彰一の背中を掴んでいる。
加奈子は、幼いながらも、理解しているのだ。いや、幼いからこそ、しっかりとその目に焼き付いているのかもしれない。死者に噛まれた者がどうな末路を辿るのか。
彰一は、ぐっ、と口に力を入れると、加奈子の小さな手を剥がした。
「阿里沙!加奈子と一緒に出ろ!」
壁にしていた死者の背中が遂に破られ、腹部から二本の腕が突出し、彰一の胸ぐらを掴む。
「くそっだらあああああ!」
銃を持ち上げマガジンが空になるまで銃撃する。車内に満ちていく鉄錆の臭いが強くなる中で、彰一はドアに寄りかかった死者の胸ぐらを仕返しとばかりに掴んで引き寄せ、新たな肉の壁を作り上げた。
「阿里沙!先に加奈子ちゃんと出てくれ!次に彰一!それから俺を引っ張り出せ!」
分かった、と鋭く返した阿里沙は、暴れる加奈子を抱き締めると、助手席のドアガラスから身体を乗り出してモール内部へと避難する。そこで、シャッターを持ち上げていた男が舌打ちをしたが、気にしている余裕はない。すぐさま、車内に手を伸ばし、彰一へ言った。
「坂本君!早く!」
彰一にとっての誤算は、祐介が先読みしたかのような発言をしたことだった。この緊迫した状況下、四の五の言っている暇はない。看板の中央部から死者の腕が突きだされたのだから、尚更だ。
彰一は、身体で押し付けていた動かない死者を一瞥すると、祐介へ視線を投げた。祐介は黙って一つ頷き、鞄からイングラムのマガジンを一本だけ彰一へ渡す。
ここからは、時間との勝負だ。
彰一は、銃を左手に握り直し、深く息を吸い込むと、一気に身体を離し、助手席のドアガラスへと寄ると、同時に、祐介の肩を掴んだ。瞬間、数多の腕が車内へ容赦なく侵入し、数本が祐介の足を捕まえ、引き摺りだそうと引き始める。
祐介は、それでも冷静に鞄を掴んだ。
「祐介!我慢しろよ!」
車外へ出た彰一は、右手で祐介を一気に引っ張りつつ、銃口を反対側に屯する死者の大群に向けて、一切の迷いなくトリガーを引いた。激しくも短い連射音が祐介の耳元で鳴り続け、思わず顔をしかめるが、捕まれていた足は、死者の手から逃れ、祐介の身体が助手席のドアガラスから抜けると、シャッターを持ち上げていた男は、叩きつけるように下ろした。
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